10月16日、第113回教育委員会対象セミナーを札幌市内で開催。運用から1年が経過したゼロトラスト環境「奈良市モデル」、北海道における1人1台端末活用、個別最適で協働的な学びと次世代の教員養成、情報活用能力育成と校務DX、ふり返りと自己調整学習の取組が報告された。
奈良市ではゼロトラスト環境「奈良市モデル」の運用から1年が経過し学びのDXと校務DXの相乗効果が生まれているという。米田係長は構築が目的ではなくどのような教育活動をしていくかが重要であると話した。
職員朝礼、コピー機や印刷機の前にいる時間、プリント配布・回収の時間、回収物の枚数を数えて転記する時間、朝の欠席電話を受ける時間、職員室から教室に伝言をしに行く時間——本市ではこれらの削減が進んでいる。
「奈良市モデル」のゼロトラストアーキテクチャはすべてのデータをクラウドで管理している。Googleの有償ライセンスを利用して構築していることから世界標準のセキュリティでクラウド上のデータを守ることができると考えている。
ネットワーク統合に加え、授業で使うツールと校務で使うツールも統合した。授業改善を進めるためには授業で使うデジタル学習基盤を教員が使い慣れる必要がある。そこでGIGA端末と同じChromebookを教員用端末として整備することで子供の環境に寄せ、使い分けを不要にするとともに、クラウドツールを校務に最大限利用できるようにした。
Googleのサービスに統一したシンプルな構成によりセキュリティ強化とコストバランスの最適化を図ることができた。ファイルサーバーはGoogleドライブ、学校代表メールはGoogleグループ、学校HPはGoogleサイトを利用しており、サーバーの運用保守やメールソフト、学校HP作成システムが不要になった。
認証もツールもGoogleIDを利用することでセキュリティや権限の管理はアカウント管理のみと管理コストを削減できた。端末の管理設定はGoogle管理コンソールから一括管理。アカウント管理も端末管理も入口が同じになった。
校務系ファイルサーバーはすべてGoogleドライブに移行し信頼性ルールの機能によりアカウント・共有ドライブ単位でファイル共有・アクセス制御を行っている。例えば校務用ドライブは所属校の教員アカウントでしかアクセスできず、他校の教員や所属校であっても子供にファイルを共有することもできないため、教員は「校務用ドライブにデータを入れておけば大丈夫」と安心感をもって使っている。
利用端末はContext-Aware Access(コンテキスト(状況)に応じてアクセス制御を行う仕組み)を用いてユーザー単位でアクセス権を設定。校外でも教員用Chromebookを持ち運ぶことでGoogle Workspaceを使うことができるが、私用端末の利用については教員からの申請に基づきChat等の閲覧のみ可能としGoogleドライブ等の機微情報へのアクセスは不可としている。
校務支援システムは県域運用かつオンプレミス型だが、BeyondCorp Enterpriseの機能であるIAPを使用することで従来のようなネットワーク分離をせずにアクセスできる。私用端末や校外からのアクセスはできない設定としている。
運用から1年が経ち、特に活用が進む学校はChromebookに慣れ、クラウドの便利さも実感している。
WindowsPCも各校に4人あたり1台程度配備しExcelのマクロなどアプリ版のOfficeに必要な機能や、WindowsPCにインストールするタイプのソフトウェアをに円滑に利用できるようにした。
ファイルベースで紙をPDFやWordに電子化しただけでは業務自体は変わらず改善は進まない。クラウドベースにすると資料をリンクで共有・共同編集で修正でき、業務フローが変わる。ファイルベースからクラウドベースへ業務のマインドチェンジが必要だ。
教員の端末をChromebookに切り替えたことで、校務で使うから授業で使う、授業で使うから校務で使うという循環が生まれ、クラウドベースの校務改善が始まっている。
校務DXが進む学校では、教員は出勤後、校内ポータルサイトで欠席連絡や連絡事項を確認。これにより、職員朝礼をせずとも職員間の情報共有ができるようになった。Chatを活用し、資料共有はリンクを伝えるだけで完了する。職員会議の資料や研究授業の指導案をクラウドに上げ、リンクで共有し共同編集。校内ポータルサイトで情報の窓口を一元化している。
教育委員会内でも学校への調査照会にGoogleフォームを活用する等クラウド化を進め、紙ベースの様式を削減すると共に業務の見直しと効率化に取り組んでいる。
校務DXに正解はない。まずは今までのやり方との併用はやめて、習慣化するまで1週間は試してみることだ。他校の実践事例をもとに1~2週間の短いスパンで見直しながら自校のスタイルにあわせていく。
学びの充実に向けて、整備したデジタル学習基盤の上に何を積み上げていくか、どのような学びの環境を構築するかを見直しながら取り組んでいる。
現在、奈良県では多くの自治体がGoogle for Educationの基盤を採用したゼロトラスト環境へ移行予定だ。
クラウド型の校務支援システムなど県域公用クラウドをフル活用して、情報の上流にある県教育委員会から各学校までの業務を、全体最適をイメージしながらデザインすることで業務改善を目指している。
【第114回教育委員会対象セミナー・札幌:2024年10月16日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年11月4日号掲載