10月8日、第112回教育委員会対象セミナーを仙台市内で開催。次世代校務DX環境の県域による共同調達や小中学校における生成AIの授業活用、デジタル田園都市国家構想交付金の教育利用、学習者の主体授業づくり、教科横断的な学びに向けた授業改善の取組が報告された。
文部科学省「次世代の校務デジタル化推進実証事業」(2022年度補正予算)に採択された秋田県は、今年4月より次世代校務DX環境の運用を始めている。県域共同調達に携わった稲畑課長補佐(前秋田県教育庁義務教育課長)が経緯や成果を報告した。
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文部科学省の示す次世代の校務DXは、校務系・学習系ネットワークの統合、校務支援システムのクラウド化、データ連携基盤ダッシュボードの創出という3つの特徴を持つ。
26年度までに次世代の校務システムの導入を予定する自治体を100%、29年度までに導入済みの自治体を100%とすることもKPIとして示されている。
また、次年度概算要求では、都道府県域での共同調達を前提とした次世代校務DX環境の整備支援として1校あたり最大680万円(補助割合1/3)を計上している。
次世代校務DXは、NEXT GIGAにおける端末の更新とも密接に関係する。
アカウントや端末管理、教員用端末の1台化、学習用端末とのOSの整合性など、校務系と学習系の関係を総体的に考えて両者を一体的に運用していくことが求められており、学校のデジタル環境全体を1つのシステムとして、部分最適ではなく全体最適となるようデザインすることが肝要だ。
本県の校務支援システムの普及状況は21年時点で全国で下から数えて3番目、6割の学校に導入されていない状況だった。この低い導入率を逆手にとれば、次世代型のデジタル環境を全国に先駆けて導入できるのではないかと考えた。
既設の校務系ネットワークを学習系へ統合するのは大変だが、学習系のネットワークを活用して新たな校務環境を構築することは比較的容易である。
また、本県では探究型授業による高い指導力と基礎学力が広く確立しており、端末導入以前より主体的・対話的で深い学びに取り組んでいたため、確立した授業実践にICTを取り入れることに心理的抵抗があった。
そこで、校務を通じてデジタル環境に慣れていただくことを目指した。
県域での共同調達に向け当初はトップダウンで進めることに重点を置き、県知事・市町村長による協働政策会議と全県の教育長会議において方針を確認した。
その後、県内全ての市町村と秋田大学、県教育庁で構成される「秋田県教育情報化推進協議会」を設置して、共同調達・共同利用の方向性の協議と共に、1人1台端末更新の方針など県下のICT環境の共通化・高度化についても協議できる体制を整備。
次世代の校務デジタル化推進実証事業の実証項目を満たす、アクセス制御によるセキュリティ対策を行ったフルクラウド型の統合型校務支援システムの共同調達・共同利用を基本方針とした。
本県の共同調達の特徴の1つが周辺機器やセキュリティ対策まで包括的な調達を行ったことだ。
校務支援システムだけでなく、Microsoft365 A5、保護者連絡システム、ふり返り支援ツール、ファイルサーバなど関連ツールも共同で調達。端末管理、アンチウイルス、EDR、データ暗号化など端末のセキュリティ対策も共通化した。
これによりシステム構成に最適なセキュア環境を実現できた。
ネットワークを監視して脅威を検知するSOCの運用はコストが高いため、県で一元化して組み込むことができたのは共同調達ならではのメリットであった。
調達範囲を拡大したことでコストの削減効果を最大化でき、事務的コストも軽減された。市町村単独で同じシステムを導入するのと比べ、費用は約50%減と試算が出ている。
新システムではMicrosoftアカウントを県域共通テナントへ移行し、諸様式も県域で統一した。これによりメールボックスやクラウドストレージも引き継いで利用できるようになり、市町村をまたぐ異動時の負担が軽減された。
システム間のデータ連携により入力の自動化が容易になることを利用して教員の手入力を徹底的に削減することにもこだわった。例えば保護者連絡システムに入力された出欠席情報は、校務支援システムや感染症情報システムに自動的に反映される。
22年10月から共同調達に関する検討・構築を進め、24年4月より運用を開始した。この際、比較的移行が容易な暫定接続環境による「移行期」を設けている。
新システムは端末の環境自体を変えるものだが、移行期は既存環境のままブラウザ上で県アカウントに切り替えると新システムにアクセスできるルートを用意した。市町村や教員の負担軽減を図りつつ段階的な移行を進めているところだ。
【第113回教育委員会対象セミナー・仙台:2024年10月8日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年11月4日号掲載