デジタル学習基盤特別委員会が設置したデジタル教科書推進ワーキンググループは学習者用デジタル教科書の在り方と推進について検討している。10月15日の第2回会議で小学校英語・中学校数学・私立中高一貫校数学、小中学校国語の学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)の活用事例を教員や研究者が報告。委員はこれらの事例を踏まえて討議した。
小学校英語について山梨市立加納岩小学校の藤木真里佳教諭が報告。一昨年ほど前からデジタル教科書を活用しており、現在は毎時間と授業前日の家庭学習に利用している。
具体的には、アニメーション機能でアテレコ(映像に声を当てる)して会話練習に利用。この「アテレコチャレンジ」には次の3段階がある。
チャレンジ1では、役割を交代したり再生速度を変更したり、登場人物の声真似をしたりと児童は楽しんで練習。この練習により児童22人中約9割が「会話を続けられるようになった」と回答した。「アテレコを録音して自分の声を聞き、直すところがわかった」「なりきり会話ができるようになりたくて繰り返し練習した」という児童もいる。
チャレンジ2や3では、デジタル教科書を使って以前の学習をふり返り、必要な表現を自ら学んでいる。これは指導者用デジタル教科書ではできなかった学習であると報告した。
単語やチャンツの再生機能は個別で習得する時間を設定して利用。自分の使いたい表現を調べるような辞書的な活用も行っている。それに伴い、授業構成も変化。授業途中に、1回数分程度の個別学習を入れるようになった。
「個別学習3か条」も次のように定めている。「少し難しいものに挑戦しよう」「字幕は10回聞いて推測してから」「どんどん口を動かそう」
コンテンツごとの取組方法も「復習したいときに使おう」「はじめはイラストのみで行おう」など細分化して示している。
家庭学習取組表も作成。ここに記入された児童のふり返りを引用しながら授業を進めている。友達の家庭学習の様子を見て自分の参考にしている児童も多いようだ。
中学校数学について枚方市立東香里中学校・廣瀬翔太教諭が報告した。
デジタル教科書や教員による解説動画により予習してノートをまとめさせており、デジタル教科書の必要な部分をスクリーンショットしてノートアプリ上にまとめることで、書くことが苦手な生徒に役立っている。
問題演習では難易度別の問題を提示して各自で取り組んでいるが、デジタル教科書は問題をタップすると広いスペースが確保され、その余白を利用して問題を解くことができる。一問ごとに解答ボタンを押すと正解や解説も確認して自分のペースで進めることができ、間違いの早期発見にもつながる。
3年図形と相似「中点連結定理」では、グラフィックツールの利用により図形を動かしながら考えることができ、生徒自身の気付きが増え対話も活性化した。グループごとに発見したことをノートアプリでまとめ、証明を発表するなど、生徒主体の活動が増えて授業の流れも変わった。例題の解説動画などにより反転学習や自由進度学習にも取り組みやすいと感じている。
中学校・高等学校の数学について敬愛中学校・高等学校(福岡県)の足立雄一郎教諭が報告した。
同校では2019年度から1人1台の端末活用や学習ツールの利用を開始。デジタル教科書は、中学校は19年度より、高等学校では20年度より利用しており、全体の6割がデジタル教科書を利用している。
充電は家庭で行うこととしており、充電し忘れた場合は紙の教科書を利用。書くのは紙、解説はデジタル教科書とその日の状況で使い分ける生徒もいる。
複数冊の教科書や問題集がすべて端末に集約され、文字や図の拡大・縮小ができ、ヒントや解答・解説も閲覧でき、自由進度学習など主体的な学びが促進されると感じている。
いくつかの課題はあるが、デジタル教科書は今後、さらに拡張される可能性があるものと認識している。
放送大学の佐藤幸江客員教授は国語について報告した。
総ルビ・背景色設定など読むことの支援機能によりストレスなく教科書を読むことができ、「国語が楽しくなった」「文学作品に進んで関わるようになった」事例を紹介した。
中学校国語では、挿絵を見て気付いたところに印をつけ、マーカーの色に意味付けして様々な書き込みをして考えを整理し、それを基に話し合っており、個の学びと協働的な学びの一体的な充実に役立つと報告した。
これらの報告から委員は、
「デジタル教科書活用の幅が見えてきた。これまで取り組んできたことがよりスムーズになる、これまでできなかったことが実現できる、新たな機能に触発されて授業改善や学びの方法が進化する、という側面があり、教員の創造性が発揮しやすくなると共に専門性が問われる」
「調査によるとデジタル教科書は使うほど効果を実感できるもの。まずは現在50%国配備である算数・数学を100%とし、授業時数が最も多い国語も100%にすることが求められる」
「好事例を共有・浸透する仕組みが一層必要。大学の教員養成でもデジタル教科書を使った授業デザイン力を育成しなければならない」
「トライ&エラーしやすさは主体的・対話的で深い学びへの可能性が広がる」
「アカウント管理については教員の仕事ではない」
「保護者理解の方法が課題」などの意見が出た。
堀田龍也座長(東京学芸大学教職大学院)は、「好事例には、デジタル教科書とデジタル教材の事例がある。デジタル教科書をどの範囲とすべきかを整理する必要がある。デジタル教科書のアカウント管理等の煩雑さについては、学校現場が苦労しない仕組みを制度として担保するための検討が必要だろう」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年11月4日号掲載