横浜市教育委員会は、学習支援システム「横浜St☆dy Navi」を本年6月末から一部の機能より稼働しており、本システムと連携する横浜教育データサイエンス・ラボを発足。9月20日、第1回討議が行われた。
横浜市では保護者と教職員約40万人が連絡システムをベースにつながっている。また横浜St☆dy Naviでは様々なデータを収集して児童生徒用、教職員用、教育委員会向けにダッシュボード化している。
この膨大なデータの価値をさらに高めるために産学官が連携して検討するものが横浜教育データサイエンス・ラボだ。当日は市教委や大学、教員、企業など多数の関係者が参集して本ラボの活動を説明。実際の活動の様子を公開した。
下田康晴教育長は「児童生徒約26万人、教職員約2万人、学校数500校という本市の圧倒的規模を強みとし仕組みを構築したい。『横浜で学びたい』『横浜で教えたい』『横浜の教育DXに参画したい』と思ってもらえるように様々な角度から収集した教育データを基にアカデミアで教育を『哲学』し、ラボで教育を『科学』する」と話した。
全国学力・学習状況調査、CBT・IRT調査、AIドリル、健康観察、アンケート、校務システム等のデータは横浜St☆dy Navi上でダッシュボード化。
教職員、専門的な知見をもつ大学研究者、データの分析・加工の専門的な技術をもつ企業が共創するデータサイエンス・ラボではデータ分析により課題と解決策を討議してシステム改修や施策に活かす。
脇本健弘准教授(横浜国立大学教職大学院)は「9年間の調査データは、カリキュラム改善などの視点が得られる可能性がある」と話す。
さらに横浜教育イノベーションアカデミアを2025年度以降開設予定だ。これは約50の大学、学生や学ぶ意欲のある教職員、協働する企業等で構成される、オンラインやメタバース空間を活用した研修・議論の場。ここでの議論から生じた課題をデータサイエンス・ラボでデータの側面から検討するという流れ。
なお2029年度には新たな教育センターを開設。校務支援システムのクラウド化などDX基盤の構築をさらに進める。
横浜教育データサイエンス・ラボ第1回討議のテーマは2つ。
1つめが、算数・数学科の学力と意欲の分析だ。横浜市において全国学力・学習状況調査では全国平均程度だが、市で行ったIRT調査によると国語では7割の児童生徒が伸びているものの算数・数学については5~6割にとどまっている。
また、学力分布も算数・数学のほうが散らばりが大きい。そこで伸び悩んでいる子の半数が間違える問題や、伸びている子供の傾向について分析し、横浜市ならではの授業デザインを検討する。
2つめは、子供の心の不調を軽減する横浜モデルの開発について考えた。その基になるデータが横浜St☆dy Naviで日々計測する「こころの体温計」と定期的に行う「こころの定期健診」だ。
横浜市立大学は10~20代の生きづらさを解消するためJSTから委託を受けてプラットフォームを構築(若者の生きづらさを解消し高いウェルビーイングを実現するメタケアシティ共創拠点)している。
プロジェクトリーダーの宮﨑智之教授(横浜市立大学研究・産学連携推進センター)によると、若者約900人を対象として行ったストレス調査研究では「抑うつではないけれど満足感はない」層と「抑うつだが満足感はある」層では後者の方がパフォーマンスが高く、日々満足できることが非常に重要であることがわかったという。
そのときに利用した「こころチェック」の仕組みが、「VAS=生きづらさ」という評価スケールだ。日々の気持ちや満足感を評価して見える化でき、どの子に注目すべきかがわかるもので、同様の仕組みが横浜St☆dy Naviにも装備されている。
傾向や問題の可能性を見える化した後は学校内のみで解決するのではなく様々な専門家の力を借りて解決を図る。チャットシステムで医療関係者とカジュアルに相談できるようにすることも考えている。
本市では小学校から中学校まで約26万人の児童生徒のデータを9年間継続して取得することができる。これだけの量のデータを蓄積できるフィールドは稀であり創造的なイノベーションによる社会的価値にコミットできるチャンスであると考えている。
本ラボでは「解決する」ことを重要視して進める。教員の抱える悩みや考えを研究者や企業と共に考える際、データは新しいヒントになる。産学官連携は最大の働き方改革である。
「教育を変革する」ことも本ラボの役割と考えている。可視化して分析し、課題を減じるための手立てとして看護師や心理士、大学生や院生ほか様々な人材が関わり合っていく仕組みを構築する。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年10月7日号掲載