学習者用デジタル教科書等と1人1台端末を活用した個別最適な学びの事例が蓄積され始めている。宮代町立須賀小学校(金野泰久校長・埼玉県)では文科省・学習者用デジタル教科書普及促進事業により、2021年度から国語の学習者用デジタル教科書(光村図書)を全学年で導入している。
同校では、この4年間に国語科を軸とした、伝え合う活動を通して次の学びにつなげ授業実践を積み重ねてきた。同校の小内慶太教諭は「導入初年度と現在では考え方が変わり、学習者用デジタル教科書や端末の活用方法が大きく変わっている」と話す。9月11日、5年「たずねびと」の授業の様子を取材した。研究発表会は11月22日に開催予定。
平和をテーマとした物語文「たずねびと」は、表現にも着目して人物や物語の全体像を想像しながら読むことが学習目標とされている。そこで小内教諭は「たずねびと」を読んで考えたことや感じたことを伝えるCMを各自で制作し、家の人にも教材文に興味を持って読んでもらえるよう、自分の思いと共に教材文の魅力を伝えることとした。
伝わるCM制作のためには読みを深める必要がある。そこで「主人公の心情が大きく変わったところ」を本文から探し、その中から「最も大きく心が動いた場面」を考えたり話し合ったりした。
このときに役立つツールが「学習者用デジタル教科書+教材」(光村図書)の「マイ黒板」機能だ。児童は本文にマーカーを引いた文言や挿絵などを学習者用デジタル教科書上のマイ黒板に自由に並べて主人公の心情変化を考え、CMの構成を考えていった。挿絵は、CMにも利用する。
児童は学習者用デジタル教科書や端末の扱いに慣れている様子で、特に大きく気持ちが動いたのではないか、と考えられる箇所に色をつけたり、挿絵に注目したり、矢印を書き加えたりと様々なまとめをしている。端末上から他の児童のまとめも見ることができ、友達に自分の考えを伝えたりしている児童もいる。CM制作を始めた児童もおり、Canvaを利用していた。
小内教諭は、児童の進捗状況を確認しながら、心情を読み取るために注目すべきポイント(心情語や反復、比喩など)を示した「おたすけ動画」をGoogle Classroom上の「5の1 国語の部屋」にアップ。その動画を見ながら自分のマイ黒板を見直している児童もいる。
教室内には「原爆供養塔納骨名簿」や原爆資料館のパンフレットや写真、関連書籍なども設置されており、その名簿から主人公の名前を探す児童もいるなど様々な活動が教室内で同時進行していた。
ふり返りはGoogleスプレッドシートを利用。学んだことについて「内容」「学び方」に分けて自己評価していた。
授業者の小内教諭は「当初は、学習者用デジタル教科書を使った一斉授業をしていた。現在は、個別最適な学びを意識して自力で学び取ることを目標にして個人の活動を重視している。挿絵に注目している子、会話文に注目している子など様々な感性を活かして意見交換をするようになり、以前よりも国語が楽しいという児童もいる」と話す。
「文学作品は長く、何を読み取ればいいのかわからないという児童もいる。そこで子供たちに、より伝わるCMを制作するためにはより深く読み取る必要があると伝えた。CMを通して家の人に自分の思いについて語れるようになることができれば良いと考えている。今後は友達同士で作品を見せ合って評価し合いCMの改善までできるようにしたい」
教科書を読む宿題の際に「読み上げ機能」や「総ルビ機能」を利用する児童もいるという。
また、マイ黒板のまとめを通して友達に思いを伝えたり相談しやすくなり、学びに向かう力につながっているようだ。
これまでも、国語の授業において、調査したことを新聞などにまとめるなどといった活用型の学習活動を行ってきた。当初はデジタルの可能性に難しさを感じていたが、本校の多くの授業実践から学習者用デジタル教科書の「マイ黒板」機能は個別最適な学びや協働的な学びに効果が高いと実感した。
読みながら抜き書き、矢印を加えたり色を変えたりしながら思考を整理することを、そのままアウトプットにもつなげることができる。学習進度を教員が調整するこれまでのやり方と異なり、集約とアウトプットが分断なくでき、待ち時間がほぼないため学びの質が深まりやすくなった。
自ら選択する活動も増えた。また、子供たちが感性を共有し合えることで、1人ひとりの自信にもつながっていると感じている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年10月7日号掲載