8月9日、第9回私立公立高等学校IT活用セミナーを4年ぶりに開催した。田中博之教授・早稲田大学教職大学院は「自己育成」のための生成AI活用について講演。高等学校4校は情報Ⅰ・Ⅱの授業実践や大学入学共通テストに向けた取組、STEAM教育、創造的な学び等について報告した。
聖徳学園中学・高等学校で情報科を担当する品田教諭は、生徒の創造性を発揮するSTEAM教育の取組を報告した。
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本校では理系に限らず広く教科横断型の学びを「STEAM教育」と捉え、与えられた問題や自ら見つけた課題について、子供たちが学んだ知識や技能を組み合わせて解決策を検討し、創造的にアウトプットする学びに取り組んでいる。
ICTを使うことで簡単に様々な方法でアウトプットできるようになった。ICTは学んだことを自分なりに表現する「作品」づくりに使ってこそ意味があると考えている。
プレゼンテーションアプリ「Keynote」を使った取組では、定期テストに向けて30秒の学習動画を各自で制作。ライブビデオ機能により端末のカメラに映るリアルタイムの映像をスライドに挿入できる。
生徒は相手に伝わる動画を作るために、学習内容の理解を深め、制限時間も考慮しつつ、スライドに図解を手書きするなど表現方法を工夫していた。
手書き入力のできるスタイラスペンがあるか否かで、生徒の活用の幅が大きく変わる。大人の判断で要・不要を決めると可能性が狭まってしまう。
外国語のレッスン動画の制作では動画編集アプリ「Clips」を使用した。
日本語・英語以外の言語を1つ選び、インターネットなどで挨拶の表現を調べて練習し、Clipsで収録。Clipsにはライブタイトルという字幕機能があり、発音の正誤をチェックできる。
この活動を進めるうちに課題にぶつかった。教員が提示した見本と同じように作る生徒や、加点や減点など評価の観点を重視する生徒が多かったのだ。
これでは生徒の創造性が発揮されているとはいえない。
そこで、教員の見本ではなく先輩の作品を提示して、生徒自身が「すごい」と思うものを作ってほしいと伝えたところ、自分なりに工夫する子が増えてきた。
この取組の狙いは「自分で学ぶことができる」ことを体験・実感してもらうことにある。授業や教員、教科書がなくともWeb等を使って勉強できると自覚し、生涯にわたって学び続けられる子供の育成を図っている。
映画『オデッセイ』を題材に、生徒がNASAの長官の立場で火星に取り残された宇宙飛行士を助けるか、助けないかを考える授業も展開。
救出にかかる費用や救出方法など、理由や根拠となる情報を調べ意見を出し合うが、全員を納得させる答えを出すことは難しい。
これにより「正解のない問題を考え抜く」力の育成を図っている。
この取組も当初は上手くいかなかった。
予告編を見せただけでは予備知識のない生徒は映画の内容がわからず、興味を引き出せなかったようだ。そこで今は上映時間を増やして生徒の問題意識の醸成を図っている。
宇宙飛行士役とその仲間、NASA長官役に分かれグループワークで進めた際は、議論のトレーニング不足により生徒同士が険悪な雰囲気になってしまったこともある。
今年度から生成AIを取り入れた。「NASA長官が考えた声明文」やそれに対する「宇宙工学の研究者の反論」などの文書4点をChatGPTで生成。これを参考にアメリカ合衆国大統領の立場で考えることとした。
STEAM教育に取り組むためには学校生活に「余白」を作ることが重要だ。教科横断、かつ創造的な学びは教員や生徒の時間的な余裕がなければ展開できない。
ICT環境整備も余白づくりの一環で、中でも力を入れているのが複数のICT専任スタッフの配置だ。「プロジェクターが映らない」といった問題や端末の故障などICTに関する対応はすべて専任スタッフが行い、情報担当の教員が対応する必要がなくなった。
【第9回私立公立高等学校IT活用セミナー・東京:2024年8月9日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年9月9日号掲載