東北大学病院は2024年2月1日、医療データ利活用センター(MDUC=Medical Data Utilization Center)を設置した。
主に取り扱う医療データは、患者の検査、病名、処方などのカルテ情報といった、個々人の健康や医療に関する情報だ。
医療データ利活用センター長の藤井進氏は、
「データはあるだけでは利用できません。まず法律に基づいたデータ加工と品質管理が必要です。
例えば、次世代医療基盤法に基づいて加工されたデータを利活用したとき、加工前のデータと比較しても研究結果に影響が出ないことなどが求められます。
こうした適正加工した後のデータの品質を検証し高める研究をしています」と話す。
MDUCは基礎技術の開発から製品開発(社会実装)まで、医療データ利活用に関して一貫した支援を行う。
適正化されたデータ活用研究の一例として、AIを使った医療文書の自動生成がある。
「医師の働き方改革など、医師の生産性の向上は喫緊の課題です。
AIを使った医療文書の自動生成は、すでにカルテベンダーのオプションとして製品化され、社会実装されています。当センターが理念とする、研究開発から社会実装までの伴走ということを体現した事例の1つです」
また、創薬研究において、適正化された地域や全国のビッグデータを、いかに効率的に活用するかといったデータ抽出技術の向上などの研究も進めている。
大学病院における医療情報の利活用はこれまで、電子カルテなどのシステム構築および運用、セキュリティ対策を中心に情報部門が行ってきた。
医療情報の漏洩やサイバー攻撃を受けないよう、いかに安全に活用するかという点が重要視されてきたわけだ。
しかし、近年はAIなどの技術が進展し、ビッグデータも広く活用されるようになり、その有用性も確認されるようになってきた。
こうした時代背景のもと、医療情報の積極的活用が求められている。
「安全と活用という、相反するニーズを両立させることが、全国の大学病院の情報部門に求められてきています。
しかしながら、同じ部門がアクセルとブレーキを同時に踏むわけですから、データの利活用はなかなか進まない現状があります。これは恐らく、多くの大学病院で抱える問題と思っています。
当院はこの安全と活用という機能を組織的に分離しガバナンスをとることで、高い次元で異なるニーズを両立させています」
患者は未病の状態から徐々に体調を崩し、かかりつけ医の受診を経て、大学病院のような急性期治療(発症、受傷、術後直後における医療)を行う病院を受診。
そして大学病院で治療を受け、退院後は地域の病院や在宅で治療を継続するケースも少なくない。
ところが、これまでの医療情報のデータベース化は、大学病院などの急性期医療に偏る傾向があった。
そのため、いつ発症し、薬はいつから飲んでいたのか、退院後はどのような治療を継続し、再発はしたのか、死亡に至っていないかなど、発症から治療、予後までの一連の経過をデータ化することが非常に困難だった。
「今後はこうした一連のデータを取り扱い、長い期間を視野に研究を進めることで、国民の健康維持や健康寿命の延伸、受診行動の最適化・効率化、安心できる在宅での治療と予後を体感できるよう、広い意味でのヘルスケアシステムを提供できるようにしたいと思います。同時に、地域医療の堅持に貢献していくことも大事だと考えます」
そのため、地域や全国のデータを、各種法令に基づいて適切に加工し、研究から製品化・社会実装までMDUCが協力できるプラットフォームづくりを目指す。
この実現のため、MDUCは地域の人たちに、地域にある医療データをどのように扱えば法律的に適正に利活用できるかの具体例を示しながら、医療データの運用が安全に健康増進や治療に役立っていることを体感してもらえるよう、リーダーシップを発揮していく考えだ。
さらに、医療データを用いて、大学病院の研究力を向上させ、企業においては効率的かつ速度感をもって医療データを活用できる環境を用意し、社会実装を通して社会に貢献していく。
「医療データの利活用に関する東北大学病院の役割を明確にし、スタートアップ支援を含む取組を進めることが、社会から求められていると感じています」と抱負を語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年9月9日号掲載