神奈川県厚木市にキャンパスを置く神奈川工科大学は、2023年に創立60周年を迎えた。24年4月、従来の5学部13学科を3学部10学科8コースに再編し、新たに応用化学生物学科と情報システム学科が誕生。「情報」「環境・エネルギー」「生命」を重点研究分野とする、IT、工学系の総合大学だ。
同学はeスポーツに対して積極的に取り組んでいる。eスポーツの発展と地域活性化を議論するシンポジウムを開くなど、これまでeスポーツ関連事業を積極的に開催してきた。
デジタルゲームはその発展過程のなかで、手元のコントローラーから全身でまとうスーツまで様々なデバイスを使って人間の動きをデジタルワールドに伝えていく「身体性」を持ち、同時に社会的な競技性も帯び始めた。これが「eスポーツ」であり、世界的な盛り上がりをみせている。
24年4月、同学ではキャンパス内にeスポーツと地域連携の拠点となる「KAIT TOWN(カイトタウン)」をオープン。建物は鉄筋コンクリート造2階建てで、1階の「市民・eスポーツホール」はeスポーツ大会やシンポジウムなどの開催も想定し、最大100人まで収容でき、レーザープロジェクター、大型LEDビジョン、大会用照明などを備える。地域の子供からシニア層まで幅広い年代の人が利用できるコミュニケーションルームも設けられている。
2階の「eスポーツトレーニング室」には、最新の高速ゲームマシンと27㌅モニター17セット、世界大会規格基準のゲーミングディスク・チェアを32セット完備した。
eスポーツの対戦状況を世界にリアルタイム発信可能な配信・サーバー室も備えた。
同学の「先進eスポーツ研究センター」では、情報通信技術やスポーツ情報科学を活用したeスポーツの価値を確立するための研究に取り組んでいる。
その1つに、情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科の塩川茂樹教授が取り組むFPS(First-person shooter)におけるマウス操作と競技レベルとの関係についての検証がある。
FPSとは一人称シューティング競技において操作するキャラクター本人の視点(First-person)でゲーム中の世界・空間を移動し、遠隔武器や魔法などを用いて戦うことを意味する。マウスを使った視点操作では、できるだけ素早く正確に攻撃対象に視点を移動させる必要があり、効率の良いマウス操作が求められる。
研究では、実際の競技におけるマウス操作の軌跡を可視化し、競技レベルとの関連性を検証。結果は、高得点者のマウス軌跡は低得点者の軌跡よりも横に広がり、同じ範囲を移動させていることが分かった。実験結果を踏まえて、マウス操作の軌跡から競技者や競技者レベルを機械学習によって特定する研究も進めている。
一方、情報学部情報メディア学科の上田麻理准教授は、音や聴覚からのアプローチからeスポーツ研究を進めており、近年は企業の音響機器開発に協力する機会が増えてきたという。
大手の音響機器メーカーやヘッドホン開発を行うメーカーなどが神奈川工科大学を訪れ、eスポーツ競技中の学生に発売前のヘッドホンを試してもらい、競技者としての率直な意見や感想を聞いて、商品開発や販売戦略などに活かしている。
企業からは、企業側では考えつかない、eスポーツ愛好者ならではの貴重な意見が聞けると好評だ。
KAIT TOWN内には、大学と地域をつなぐ拠点「地域連携・貢献センター」がある。同センターは、これまで災害や避難に関するミーティング、小中学校への出前講座、リサイクルや環境に関わる事業などを地域とともに展開してきた。
本センターは、学生の持つ力を地域に活かし、同時に地域の持つ力を学生に活かせるようにすることを念頭に置いて活動している。
同学の小川喜道センター長(地域連携・貢献センター)は「これからも地域からのリクエストに応えると同時に、大学から地域に対して、知・技そして夢を提案、提供していきたいと考えています」と、話した。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載