• StuDX Style
    教育委員会対象セミナー
    KKS 学校教材 学校教材をお求めの方
    JBKジュニア防災検定
  • ブックレビュー
    都道府県別教育旅行リンク集
    おうちミュージアム
教育ICT

鑑賞教育を通して育む、答えのない問いへのアプローチ

2024年8月14日

現在の学習指導要領で求められている、対話的・協働的な学びや探究的な学び。これらの質を上げることや、子供自ら課題を発見させることに課題を感じている教員も多い。そのヒントが、非認知能力の育成と関わりが深い芸術系教育すなわちSTEAMの「A」にあるとしばしば指摘されている。

そこで、7月29日に東京国立近代美術館で、30日に国立新美術館で行われた「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」の初日を取材した。

テーマは「美術鑑賞で何が起きているのか」。当日は小中高等学校・特別支援学校の教員、指導主事、美術館関係者が約100人が参集した。


ワークショップは1グループにつき参加者910人とファシリテータ2人で進める。

中学校教員で構成されたグループでは自己紹介の後、アイスブレイクとして、鑑賞用教材「国立美術館アートカード・セット」を利用。5館(東京国立近代美術館、国立工芸館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館)に収蔵されている幅広いジャンルの絵画や彫刻などの作品カード65枚だ。

そこから「夏の思い出」をテーマに展覧会を企画する想定で各自が4枚ずつ順番に選択。その4枚をキュレーションした理由を1人ひとり発表した。

キュレーションとは、特定のテーマに沿って作品を収集し観客に紹介する展示企画。様々な情報を独自の価値基準で編集・紹介する意味にも使われる。

「私の夏休み」とした参加者は、「夏休み直後、ほっとして1人を味わっている瞬間」「穏やかな気持ち」「次第に新しいアイデアがわき元気が出てくる時間」「楽しい気持ちで2学期を迎える時間」という流れで4枚の作品を紹介。

「小学生時代の夏休み」とした参加者は、出身地のイメージに近い絵や景色、出来事をイメージした4枚を選択した。

各自の発表により、同じ作品であっても、自身の体験により見え方やイメージするものが異なることを体験することができた。

ファシリテータを務めた松永かおり校長(世田谷区立砧南中学校・全国造形教育連盟委員長)は、「作品を通して自分なりの思いを意味づけることは『価値の創造』である。さらに他の人の感想や考えを共有することで、同じ作品でも様々な見方・感じ方があることを実感でき、鑑賞が深まっていく」と説明した。

 

アートカード・セットから「夏の思い出」をテーマに1人4枚選択し、その意図を説明し合った

アートカード・セットから「夏の思い出」をテーマに1人4枚選択し、その意図を説明し合った

 

次に、東京国立近代美術館4Fの展示室の作品を予備知識なしに鑑賞。それぞれの発見や感じたことを発表した。

1つ目は丸みを帯びたフォルムの白い彫刻作品だ。「親子が寄り添っているよう」「角度により狭くも広くも見える。エンゼルフィッシュのよう」「しゃがむと見え方が変わる」など参加者は感じたことや発見を共有していく。

次にファシリテータは中学校美術の学習指導要領を示し、「魚に似ている、腕に見える、手触りが良さそう等、自分の背景や既習事項から意味や価値を見出している。その際に造形的な見方・考え方が発揮されていたことに気付いてほしい」と示唆した。

さらに学芸員が作品や作者について解説。白い彫刻のタイトルは「地中海群像」。

作者であるジャン・アルプがフランスとドイツの国境に住んでいたことや、世界大戦時代に地中海に住んでいたこと、作者が「抽象的な作品は具体的なものを再現するためのものではない」と考え独自の形を創造していたことなどを解説。これらの解説を知った上で改めて作品を鑑賞した。

参加者は、「何に見えるのかを必死に探そうとしていたが、それは既存の知識を基にした見方であると気付いた。作品背景を知ることで、雲にも水にも同じ形がないように地中海の景色の一部を切り取ったものではないかと感じた」と、見え方の変化を発表した。

ファシリテータは、「知識はなくても鑑賞はできるが、さらに仲間と共有すること、知識が加わることで見え方が変わっていく。美術科教育では、見方・考え方を身につけ、発揮することが大切であり、ピカソのゲルニカやゴッホのひまわりなど有名な作品を鑑賞しなければならないわけではなく子供の実態に沿って作品は変わって良い。中学校教員として生徒にどのように働きかけるかが手腕の発揮どころになるだろう」と話した。

「鑑賞」を通じて見方・考え方を育む

文化庁参事官(芸術文化担当)付教科調査官である平田朝一氏は、「鑑賞は知識や定まった作品の価値を学ぶことだけではなく、造形的な視点を豊かにするために必要な知識なども活用しながら作品に対する新しい価値を自ら創り出す学習である。中学校美術では生徒が自分の感じ取ったことや気付いたこと、考えたことなどについて対話などを通じて説明し合うなか、新たな見方や感じ方に気付くことを大切にしている。これは今後の予測が困難な時代において生じる答えのない問にどう対応するかということにもつながるだろう」と話した。

美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修

19年間継続しており、これまで1800人以上が参加。

研修の参加には教育委員会等の推薦が必要。毎年4月頃より募集を開始。

主催は(独)国立美術館。各館の連携取りまとめ・進行役を「国立アートリサーチセンター(NCAR)」が担う。

NCAR2023年よりアートの振興を推進する新たな拠点として国立美術館本部に設置され全国の美術館等との連携事業や鑑賞プログラム、教材(鑑賞素材BOX/国立美術館アートカード・セット)提供などを行っている。

アートカード・セットは貸し出し可能。過去の研修報告書はNCARWebに公開。

https://ncar.artmuseums.go.jp/activity/learning/trainingandlectures/

教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載

  • フィンランド教科書

  • StuDX Style
    教育委員会対象セミナー
    KKS 学校教材 学校教材をお求めの方
    JBKジュニア防災検定
  • ブックレビュー
    都道府県別教育旅行リンク集
    おうちミュージアム
最新号見本2024年08月13日更新
最新号見本
新聞購入は1部からネット決済ができます

PAGE TOP