聖徳学園中・高等学校(東京都武蔵野市)は、教育課程特例校として本年4月より高等部にデータサイエンスコースを開設。様々な教科に「探究」を取り入れ、「課題設定・計画・データ収集・分析・実施」のPPDACサイクル(統計的課題解決方法)を基本にカリキュラムを進めている。
本コース立ち上げに関わったドゥラゴ英理花校長補佐・データサイエンス部長に開設の目的とカリキュラムの特徴を聞いた。高等学校で探究に取り組んでいる学校の参考になるだろう。
データサイエンスコースは教育課程や入試まであらゆる面で新しい文理融合・探究型カリキュラムだ。
「教育の在り方次第で課題を解決できる力が身につくか否かが変わる。それに貢献できるものがデータサイエンス教育である」と考え、教科と探究を融合し、探究のプロセスを通して、データを基に科学的根拠に基づいた意思決定・課題解決の方法を教養として身につけることがデータサイエンスコースの目的だ。
本コース立ち上げの際、従来のカリキュラムでは日々進展するテクノロジーや科学、複雑な社会課題に対応できないと考え、カリキュラム設計をOECDラーニング・コンパス(学びの羅針盤)2030.や国際バカロレア(以下、IB)のカリキュラムを参考に構成。
論文及びプレゼンテーション指導を始めとするアカデミックスキルを学校設定科目に設置した点もIB教育にヒントを得ている。ドゥラゴ部長が前任校等でIBカリキュラムを立ち上げた経験も生かした。
「人は主観的な思考と客観的な思考を使い分けて意思決定を行う。データを起点とする視点を身につけることで、社会の実態に即した意思決定・課題解決が可能になり、新しい価値の創造につながる。それを高校時代に身につけ、大学の研究等に結びつけてほしい」と話す。
各教科のなかに「探究」関連科目を設定しており、例えば数理「データサイエンス探究」(5単位)では「情報Ⅰ」「数学I」とも連携してデータ収集・分析に焦点を当て論理的思考力と判断力を育成。プログラミングも学ぶ。
外国語「グローバルシチズンシップ探究」(6単位)では英語イマージョンにより海外情報を収集・分析してプレゼンテーションや文献研究を行う。
地歴「グローバル探究」(3単位)では歴史総合に総合的な探究の時間の要素を取り入れ、家庭「SDGs」(5単位)では家庭科分野と融合させる。
芸術「STEAM」(5単位)ではプロジェクトベースで美術や芸術表現、デザイン思考についてICTを活用しながら学ぶ。
このほか「理科」に「サイエンスラボ」(学校設定科目)、「外国語」に「アカデミックスキル」(学校設定科目)、原則履修科目にAI・データサイエンス演習、高大連携、産学連携、データサイエンスアカデミーを学校設定科目としている。グローバルシチズンシップ教育とウェルビーイングは選択科目として設置されている。
探究的な学びには「課題設定」が必要だが、これまでの経験から、自分事として捉えることが探究学習を行う意欲につながることがわかっている。
教員が課題を設定すると、生徒は主体的になりにくい。しかし高校1年生は経験値が少なく、自分の興味について把握していない生徒もいる。
そこで、学校設定科目「ウェルビーイング」で校外学習として生徒の興味関心に基づいたボランティア活動を行うようにしている。
課題設定のワークとして「意見」と「事実」に情報を整理してから自分の課題を考えるようにしている。
例えば、武蔵野市における人口問題の解決に向けて、市長の「若い人をひきつけ集う町、若い人たちが思いついたことを実現できる環境づくりが人口増加につながる」という主張の根拠となるデータを収集し、まず自分の意見を入れずに整理。
データ収集にはRESAS(地域経済分析システム)を利用してデータの扱いも学ぶ。
そこから自分が最も興味を持った、あるいは課題であると感じたものをピックアップして自分の課題を設定。
例えば「若者が中心の町づくりのためには何をすれば良いのか」「それをしないと本当に町は衰退するのか」「これがどの程度、人口増加につながるか」などだ。
課題解決の方法は、自分の興味分野により変わる。鉄道に興味を持つある生徒は、武蔵野市の鉄道に課題があると考え、どのように線路を敷けば最もコストメリットがあり経済効果が期待できるかについて提案していた。
評価については、生徒の成長と学習面双方にとって意味のあるものとしなければならない。単なる順位付けや大学進学の準備のためのものにならないようにしている。
データサイエンスコースの入試方法も新しい。内申基準ありのⅠ型「探究型データリテラシー試験」はOECDが行っている学習到達度調査(PISA)と類似の試験内容で「読解リテラシー」「数学・科学的リテラシー」についての大問が2つと面接、書類審査だ。
内申基準なしのⅡ型「新思考試験」はSDGs関連の動画を視聴し、その動画に対する課題を見つけ解決方法を設定。グループ討議後、プレゼンテーションを作成・発表する。
ドゥラゴ部長は「知識にウェイトを置く授業を中心に考えたい教員、探究に興味を持つ教員が互いに補完し合いながら融合して授業を進める気持ちが重要」と話した。
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載