次期学習指導要領改訂のためには、現行の学習指導要領の成果を明らかにする必要がある。
7月10日に行われた「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第13回)」では、次期改訂の準備として行った「小学校学習指導要領実施状況調査」について、国立教育政策研究所・大金伸光教育課程研究センター長が速報版を報告。
また、お茶の水女子大学の冨士原紀絵委員は2023年度全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)で行われた保護者調査と、それをもとにした同学による学校訪問調査により、「格差を克服している学校」の特徴を分析。両調査結果によると主体的・対話的で深い学びの浸透が自己肯定感や格差の解消に効果を挙げていることが示唆された。
学習指導要領が目指す資質・能力は育成されているのか。子供たちの学びに向かう力はどう変わり、カリキュラム・マネジメントや学校裁量はどう進められているのか。
「小学校学習指導要領実施状況調査」は現在の学習指導要領の浸透程度や改善点等を明らかにするため2023年2~3月に公立小学校1170校(無作為抽出)を対象に行ったもの。中学校については1363校を対象に本調査を実施済み(2023年11月~24年3月)。高等学校については2024年度に実施予定。
本調査によると主体的・対話的で深い学びや、資質・能力の3つの柱などの学習指導要領が提唱する基本的な考え方が、現場の教育課程や学習指導の改善等に良い効果を与えている。
学習指導要領の実現を妨げる要素としては、教員の多忙化や各種支援員等の人員確保、研修時間の確保など。
教育課程編成において学校裁量を広げることについては多くの学校が賛成しており、年間授業時数を確保した上で、教科間の授業時数を調整する取組を行ってみたいと考えている。
英語では「今後もっと英語を聞いて相手の言いたいことがわかったり、英語で自分の考えや気持ちなどを伝え合ったり発表できるようになりたい」という英語を学ぶことへの意欲はどの学年も高く、第6学年でさらに増加している。同様に「英語の授業がわかる」についても、高学年で肯定的な回答が増え、第6学年で最も高い割合になる。
総合的な学習の時間について前回調査で課題とされていた「整理・分析」「まとめ・表現」について、今回調査では肯定的な回答がそれぞれ70%以上と向上した。
学級活動に積極的に取り組んでいる児童は、自己肯定感や自他理解、協働、粘り強く取り組む態度に関する項目について肯定的な回答をする傾向が見られた。また、主体的な特別活動はいじめの未然防止などに役立つと感じている教員は96%以上、児童は80%以上であった。
▼ペーパーテスト調査:3~6学年 国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育(運動領域、保健領域)、外国語(英語)
▼アンケート調査(学校)(児童、教師):2~6学年 生活、特別の教科道徳、総合的な学習の時間、特別活動、外国語活動
▼実技調査:6学年 図画工作、家庭、体育(運動領域)、外国語(英語)
「格差を克服している学校」とは、子供の社会経済的地位(SES=本調査では所得、父親学歴、母親学歴)から予測される学力を大きく上回っている学校。通塾の有無やSESの高低に関係なく、一定の学力を保障している学校だ。本分析は文科省の委託を受けて行った。訪問調査対象校は6か年で小学校43校、中学校29校。
分析は「主体的、対話的で深い学び」に関する項目、「個別最適な学び(個別的な指導)と協働的な学び」に関する項目、カリキュラム・マネジメントに関する項目に注目した。
全国学力調査について、学校現場では学習指導要領の「資質・能力」の一部の習得状況を測定するものとして理解している。学校は「主体的、対話的で深い学び」「個別最適な学びと協働的な学び」「カリキュラム・マネジメント」に着実に取り組み、かつその自覚もある。
また、「主体的・対話的で深い学び」は家庭の社会経済的背景や学力に関係なくすべての層において自己有用感「学校に行くのは楽しい」「自分にはよいところがある」項目と高い相関があり、ポジティブな影響を与えている。
小中とも格差克服に成功している学校は特定の取組によるものではなく、複数の取組の相乗効果によるものだが、主に次の取組を行っていた。
▼PDCAサイクル(各種データに基づいて教育課程を編成・実施・評価・改善)の確立
▼「学び合い」を重視した学習活動
▼様々な考えを引き出したり、思考を深めたりするような発問や指導
さらに格差克服に成果が上がっている学校と上がっていない学校で最大の差が見られたものが「教職員同士が協力し合っている」点だ。
また、小学校では学校支援ボランティアなど地域人材・資産の活用と教科等横断的な視点によるカリキュラム編成により、格差克服の効果がみられた。ICT活用等が単独の担当者任せである場合、成果を上げることが難しくなるということだ。
中学校では言語活動の充実により効果が上がっている。国語のみの取組ではなく、それ以外の各教科及び道徳、外国語活動、総合的な学習の時間、特別活動も含めて言語活動を充実してアウトプット活動につなげている学校に効果が見られた。
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載