NEW EDUCATION EXPO 2024が東京で6月6~8日に、大阪で6月14・15日に開催され多くの教育関係者でにぎわった。東京会場で行われた講演を紹介する。
個別最適・協働的な学びや探究的な学びの基盤となる情報活用能力の育成が求められている。泰山裕教授・中京大学教養教育研究院、三井一希准教授・山梨大学、コーディネータとして小柳和喜雄教授・関西大学が登壇し、情報活用能力調査の結果も踏まえ説明。パネル討議では会場内の教育関係者からのさまざまな質問に答えた。
泰山裕教授・中京大学教養教育研究院
情報活用能力は情報を得たり、整理・比較したり、分かりやすく発信・伝達したりする力であり、探究的な学習の過程をイメージして定義されている。
例えば、愛知県にある瀬戸SOLAN小学校では1年生から個人探究に取り組み、子供が自らの学習状況や学びやすさに合わせて学びを進め、個別最適な学びや複線型の学びが実現している。
これには、自分の考えをプレゼンテーションにまとめ・表現する力やある程度のタイピング力が備わっている必要がある。
このように探究的な学びを自律的に進めるための基盤が情報活用能力であり、そのためには子供自身が探究のプロセスや方法を身につけておく必要がある。
課題を確認した上で学習を計画できるか。
教科書やインターネットから適切な情報を集められるか、友達の様子や自分の経験を情報源にして学びを進めることができるか。
そのように集めた莫大かつ体系化されていない情報から、友達の方法なども参考にしながら整理し、自分の考えをまとめて交流するという学習方法としての情報活用能力を身につけているか。
教科で学ぶべきことを学ぶための方法として、今後、さらに自らの学びを追求していくための方法としても下支えとなるのが情報活用能力であり、基盤が身についているからこそその子なりに学ぶこと、個別最適な学びが実現できる。
情報活用能力調査(2021年度実施)では児童生徒の情報活用能力を得点化して9レベルに分類して整理している。
教員は子供の状況に合わせて、情報活用能力を発揮する機会を作ることが求められる。
まずは指導して使わせ(レベル1〜4:指示通りの操作)、次に自分で判断する機会を作る(レベル5〜7:目的に応じた操作)。最終的には複雑な文脈で発揮できることが求められるため、真正な文脈つまり実際の生活や社会の場面のような文脈での発揮が期待される。
三井一希准教授・山梨大学教育学部
学習目標と学習者の現状との間にはギャップがある。今まではこれを埋めるために学習課題や学習行動、学習活動を教員が考えてきた。
これからは児童生徒自身が、自分は何ができていて何ができていないのか、自分の課題に気づき(=モニタリング)、その課題を解決するために行動を変える(=コントロール)、これを繰り返していく学びが求められる。
初めは教員がフィードバックを与えながら、学習者が自ら学びをデザインすることを目指していく。情報活用能力はそのための基盤となる。
子供自身がどれだけ自力で教科書から必要な情報を抜き出せるか。さらに、その情報を関連付けたり、構造化したり、体系立てることができるか。これらは情報活用能力が備わっているかどうかの1つの判断基準になる。
主体的に情報に働きかける子供を育てることが重要だ。そうした力をつけていくからこそ個別最適な学びや自己調整学習が可能になる。
また、教員自身が研修等で多くの情報の中から学ぶ経験をしておくことも授業づくりに役立つ。
個別に学ぶだけでなく学んだことについて仲間と交流して足りないものを補ったり、アウトプットすることで知識を確認する場面も重要だ。
子供が自ら発見し、「わかった」喜びを感じる瞬間のために探究のサイクルを教科の学習のなかでも意識していくことが求められる。情報活用能力が備わっていると、課題や目標、流れを共有した上で、子供たちは自分で解決しようと自ら学びを進めていくようになる。
泰山教授(中京大学)と三井准教授(山梨大学)は探究的な学び等に関する参加者の質問に答えた。
泰山 整理・分析の方法を子供自身が知ることが重要。
学習指導要領の分析から、学校の中で求められる思考パターンは19分類あることがわかっている。
比較する、分類する、構造化するなど授業で「考える」「整理・分析する」ための方法はどんなものがあるかをまず教えることだ。
情報活用能力はICTを前提に考えてしまうが、整理・分析の場面では思考ツールのようなものを使うこともある。思考ツールを使うときは、自分が思考していると自覚することが重要で、思考の方法が分かればツールは不要になる。
三井 自転車で移動するには自転車に乗るための訓練がまず必要なように、手段に移行するにはそれが目的化する時期は絶対にある。
教科の学びに近づけないこともあるため、カリキュラムマネジメントの中で、この教科を通じてどんな情報活用力を身につけるということを教員全体で意識することが重要。
泰山 教科の内容の深まりと情報活用能力の育成の2つが今期待されている。教員主体の学びでは教科内容は身についても学び方や情報活用能力は身につかない。
子供に任せると最初のうちは教科の学びは減るが、これを乗り越えると教科の特質に応じた見方・考え方を発揮して子供が自分たちで学びを深めることができるようになる。途中経過だと考えて、ノート指導などと同じように学び方を学ぶ割合が増えるタイミングは必要になる。
三井 大学の学びを想像すると「みんな同じことができる」よりも「個性」が重視されることが納得できるのではないか。
子供自身がどのように学びを進めていきたいのかを知ることも大切だ。それを実現するための方法を教員同士で考えたり、実際に子供主体の授業を見て話し合うなどすると授業観の転換につながるのではないか。
泰山 子供自身が困っていなくとも、ここまでは最低限身につけてほしいという教員の思いを伝えることは必要。
一度教えればできるものではなく、どれだけスキルを発揮できる場面を用意するかも重要。
三井 効率的に自分の考えを表現でき、今後も不可欠な能力であることを伝えていく。タイピングコンテストなど主体的に取り組む機会を作るという工夫もある。
泰山 授業によっても変わるだろうが、教科では学ぶべき内容があり時間にも限りがあるため、まずは「単元の最終ゴールは教員が決め、毎時間のめあては子供が決める」ことが落としどころではないか。
子供と目指すところを話し合うことも学習者主体の学びにつながる。
三井 課題を教員が与えたとしても子供が主体的に学ばないわけではない。柔軟な対応が求められる。
三井 発達段階や情報活用能力の段階によって変わるだろう。整理・分析の方法など一斉授業で経験することが効果的な場面もある。
子供たちがより主体的に学ぶために一斉授業があり、その先に子供がそれを発揮するような場面を作る意識が大切。
泰山 一斉授業は情報収集の場面ともいえる。教員から情報を得る時間と子供が自覚しているかによって、一斉授業だったとしても、それがその先の個別最適・協働的な学びにつながることが考えられる。
三井 日常で意識することも可能。プログラミング的思考の第一歩は物事の段取りを考える力。給食の配膳の手順をフローチャートで表現するなど経験と結び付けて捉えると子供たちも自分で取り組み始める。
泰山 体系表例を参考にしつつ、何が身についていないか、よく行う学習活動はなにかなどを各学校で実際の子供の姿と照らし合わせて共有してみるとよいのではないか。
三井 低学年時から探究のサイクルを示しておくと取り組みやすいのではないか。
泰山 まず教員が経験してみることと、実践例を共有できる場を作ること。これが上手くできたところから授業が変わっていく。情報が常に共有されている学校・自治体がうまくいっている。
三井 クラウドに意見が書いてあるならば読み上げさせるのではなく、子供に読み取らせてさらに知りたい意見について聞きに行かせるなど具体的なイメージを伝えていくと、教員がスキルを身につけた上でそれを授業にどう展開していくか具体的な実践につながる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年7月1日号掲載