教員の働き方改革は、授業改善や子供と向き合う時間の創出のためにも、また教員不足対応のためにも喫緊の課題だ。負担感の原因を様々な視点から解決して業務改善を進める必要がある。
「導入しただけで楽になる」仕組みの1つとして「大型ディスプレイ」と「全教職員向けサブディスプレイ」の効果が注目されている。次期ICT環境整備方針でも「教員用端末」について「働き方改革の観点から適切な表示領域の確保」と盛り込まれる予定だ。
「文部科学省 教員研修の高度化に資するモデル開発事業」(2022年度補正予算)の一環(※)で「大型ディスプレイ」と「全教職員向けサブディスプレイ」を導入し、事業終了後も引き続き活用している信濃町立信濃小中学校(長野県)の様子を伊藤真紀研究主任に聞いた(※本事業で信州大学教育学部附属松本中学校、小川村立小川中学校、信濃町立信濃小中学校が導入)。
全教職員に配備されたサブディスプレイにより「常時2画面提示環境」が実現します。
サブディスプレイはUSBタイプCで接続でき、授業用端末(Chromebook)とも接続できます。
これについて「便利で一度使うと手放せない」「良いところしかない」「狭い画面でウィンドウを切り替えながら仕事をするよりストレスが減り働き方改革に役立っている」などの声が届いています。
なかには自宅用にもサブディスプレイを購入した教員もいます。技術科教員がサブディスプレイ用のスタンドを自作したところ、人気が高く、希望者が多数いました。
例えば学年会議など少人数での会議の際にサブディスプレイを皆に見せつつ同時進行で話し合いの結果をまとめている教員もいます。
かつてはプロジェクター等を用意して話し合っていたものがサブディスプレイにより校内のどこでも会議ができるようになり、かつ会議終了後には議事録がほぼ完成するようになりました。
オンライン会議の際も提示用と作業用として使い分けることで作業がスムーズになります。
社会が変化している中、やり方を変えずにいるとさらに多忙になると感じています。全体的に紙の印刷量も減っているようで、事務職員に確認すると「紙の購入量が減っている」ということでした。
小中学校の担任や副担任、特別支援級担当や栄養教諭、養護教諭や事務職員からは次のような声が届いています。
拡張ディスプレイとして複数の資料を開いて仕事をしている。画面表示が広くなるので、狭い画面でウィンドウを切り替えながら仕事をするより快適。
Alt+Tabでアクティブウインドウを切り替えていたので当初は必要性を感じていなかった。ところが使ってみるとその切り替えも小さなストレスになっていたかもしれないと気付いた。
1画面に常に予定を表示するだけでも、その都度開く必要がなく、作業の時短につながる。
授業準備は同時にいくつかの情報を確認しながら進めるので、画面が大きくなるだけで仕事の進め方や時間のかかり方が変わる。サブディスプレイがある前提で作業するようになった。
生徒のための支援会議の際、個別の指導計画を画面上で保護者に見せながら追加や修正を加える方法が、保護者に好評であった。
前年度の献立内容をサブディスプレイに提示して献立を考えることができる。他の書類をもとにして複数の別の書類を作る作業が多いので手放せない環境になった。
サブディスプレイに地域の感染症情報を常時提示している。近隣で欠席者が急増したり出席停止が増えたりなどをリアルタイムで確認でき、自校の状況と照らし合わせて迅速に判断・報告できるようになった。
作業画面と検索画面や資料画面を同時に開いて仕事を進められるので大変便利。仕事がしやすくストレスが軽減される。
電話応対が多いため、教職員の予定を常に提示しており、すぐに確認できるので迅速に連絡・応対できる。
大型ディスプレイ3台のうち1台は職員室前方に、もう1台は職員室中央に設置しており、前方のディスプレイは教職員の連絡掲示板として利用しています。
元々あった連絡掲示板は使わなくなりました。教頭や教務は自席で学校や教職員の予定を記入でき、修正もすぐにできることから教務主任や教頭の働き方改革につながっています。
職員室中央に設置しているディスプレイには、研修チャット「ちょこっとシェア」を提示。
管理職も教職員も、各クラスでどのような授業が行われているのかを撮影してリアルタイムで共有しており、それを見てその授業を見に行くこともあります。コメントや授業者の事後報告等も投稿でき、他校で公開授業を見た際の報告や研究者の講演もリアルタイムで共有しています。
一堂に会さなくても自分のペースで学び合える環境として定着しています。
信州大学教職大学院 谷内祐樹教授
実証事業時は信州大学教育学部附属松本中学校で教頭として「大型ディスプレイ」と「全教職員向けサブディスプレイ」を利用していた谷内(やち)祐樹教授は、今年度から信州大学教職大学院で現職教員対象に学部の授業を担当している。
中学校では、サブディスプレイは教科研究室で利用し、校務用ノートPCと接続していた。職員会議等で全教員が集まる際には、授業用端末(Chromebook)を持ち運んで利用していたという。
現在、大学院の研究室では、ワイドサイズのモニターを利用。サブディスプレイのように持ち運びはできないがサブディスプレイを追加した2画面環境がケーブル接続なし、コンセント接続も1つで利用できる。
サブディスプレイがさらにワイド化・大型化する可能性もありそうだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年7月1日号掲載