東京藝術大学は2023年度より40の機関(24年6月時点)と連携して「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」をスタートしている。
アート、福祉、医療、テクノロジーの分野の壁を超えて協働的に研究しながら、人々の間につながりをつくる文化・芸術活動「文化的処方」を開発。様々な原因で生じる「孤独・孤立」の解決に取り組んでいる。
同学の伊藤達矢教授(社会連携センター)は、
「年齢、性別、文化的背景、障害、経済格差などといった垣根を越えて、多様な人々がフラットに参加できる社会基盤を整えることが『こころの豊かさ』を育むことにつながると考え、『文化的処方』という考え方のもと、社会的制度の提案や各種取組の開発を進めています。
多くの人々が社会に参加できる回路を作り、高齢になっても生産的活動に参加でき、社会へ接続する機会をより増やしていくことで、幸福度の上昇、新しい経済価値の創出、社会保障費の負担の軽減に結び付けていきたいと考えています」
共創拠点におけるテクノロジー分野の取組を3つ紹介する(カッコ内は協働企業)。
「社会的な課題は、最初はひっそりと社会のどこかに潜んでおり、誰もフォローに入らないうちに次第に大きくなって、気付いた頃には取り返しのつかないことになっている場合があります。
だからこそ課題に気付く力、今必要な物事や必要な何かを自分たちで作り出していく力が必要です。
それには人の心を動かすことに何百年も取り組んできたアートが持つ創造力が適していると感じます。異なった分野を結び付け、新しいものを生み出そうとする創造力を医療、行政、企業とともに共有できるアートベースドプラットフォーム(芸術の総合知)で、SDGsの目標期限である2030年以降の持続可能な未来の形を描いていければ」
こうした創造力は、誰もが持っているもの。しかし多くの人がその存在に気付かずに過ごしているという。共創拠点には川崎市や愛媛県など全国9自治体も参画している。
23年4月、東京藝術大学に横断研究領域「芸術未来研究場」が立ち上がり、その中に「ケア&コミュニケーション」領域が設置された。今回の共創拠点もその領域に位置付けられている。
同学では、ケアとアートとテクノロジーを結びつけた創造力の可能性を、今後さらに追求していく考えだ。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年7月1日号掲載