第15回EDIX東京(教育総合展)が5月8~10日に開催され、3日間で2万6482人の教育関係者が参集。GIGAスクール構想第2期を迎えたこともあり、登壇者も参加者も昨年実施の本展示会を上回る熱気があった。特別講演の様子を取材した。
◇ ◇ ◇
生成AIの急激な発展は今後、教育をどう変えるのか。
「生成AIは現代教育のブレイクスルー~ピンチかチャンスか?現代教育の再定義~」をテーマに、青山学院中等部情報担当・安藤昇講師、東京学芸大学附属小金井小学校・鈴木秀樹教諭、つくば市立みどりの学園義務教育学校・中村めぐみ教頭が登壇。小・中・高等学校の生成AIを活用した実践を報告した。
画家と生成AIに「シマエナガ」を描いてもらった。AIはいくらでも修正するが、画家は「思いを込めているので修正はお断りします」と答えた。AIと人間との違いを子供が体験する機会となった。
生成AIの登場により教育はどう変わろうとしているのか。
社会評論家イヴァン・イリイチは著書『脱学校の社会』で、学校はLearning web(学習のためのネットワーク)、Opportunity web(機会を提供するためのネットワーク)の仕組みを持つべきだと述べている。
この考えを今、実感している。学校は「いつ」「どこで」「誰が」「誰から」「何を」「どうやって」という5W1Hが決められているが、学びは本来、もっと自律的で自由なもの。
子供たちは端末を通してインターネットで世界とつながり始め、コロナ禍にはオンライン授業で「いつでも」「どこでも」学べることを経験した。
さらに生成AIは「誰から」「どうやって」を変え、AIと対話しながら学ぶことが起こりつつある。学校の学びの5W1Hの枠が自由になり始めている。だからこそ今、学校の価値が高まるだろうと考えている。
子供たちは教科にカテゴライズされた中で学ぶことで、教科の見方・考え方を身につける。そして自らの好奇心やワクワク感から本当に学びたいことに出会ったとき、身につけた見方・考え方を「働かせたい」と感じる。この学びは学校にしかできない。
例えば、生成AIの得意な文章の要約。ここに授業者の工夫を加えて、AIに異なる視点で複数の要約を書かせ、何に焦点を当てて要約したのかを子供に考えさせることで、AIが学習の装置として有効に機能する。
こうした見方・考え方を働かせる場面にAIを使うとよいと考えている。
「機器にはできないが人間にはできる指導とは何か」(沼野一男先生の著書『情報化社会と教師の仕事』より)を自らに問いかけながら進めているところだ。
本校は「I(AI)CTでわくわくしながら学ぶ」を合言葉に、学校全体で生成AIを活用した授業に挑戦している。2023年度はリーディングDXスクール・生成AIパイロット校として実践を発表した。
教員全員で活用を進めることができた理由の1つが、グランドデザインに明確に「生成AI教育」を取り入れたことにある。授業では必ず生成AIを活用する期間を設定している。
ICTと同様にAI教育も教員が使ってみて面白いと感じることや使う意味を納得する等の「腹落ち」が不可欠だ。
本校では課題解決学習の1つのツールと捉えたことで理解が進んだ。問題解決や探究に新たな視点をもたらす第三者=「友達」としてAIを使っている。教員からは「授業観が変わる。子供たちが主体的になった」と聞く。
小学1年生でもAIを使った学びは可能だ。道徳でAIの回答と自分の考えを比較する授業を行ったところ、子供たちがAIの回答には感情がないと感じたことから議論が深まった。
中学生はプロンプトを工夫することで学びが深まった。「走れメロス」で主人公メロスの人物像を自分なりに読み取り、プロンプトとしてAIに読み込ませ、物語の内容に合った質問を投げかけた時、読み取った人物像や指示が正しければ、メロス(=AI)は物語通りの回答を返すはずである、という仮説を検証する興味深い取組で、主体的に物語を読むことにもつながった。
生成AIとの共存をテーマにした授業では「AIをうまく利用するためには知識が必要」と子供が指摘。生成AIの回答に対して感性を働かせて気付きを得ようとするようになった。
生成AIとの対話は、新たな知識から着想を得ることができる。課題解決の方法も海外の事例も含めて明確なアドバイスを得られ、考えがより現実的・創造的になっていく。一方で、AIに質問するには自ら疑問を持つ必要もあることに児童が気付くようになる。使うこと、体験することのメリットは大きい。
AIアバター(自己分身)に、文書作成やメール作成、予定管理等を任せている。健康診断結果も生成AIがスプレッドシートに反映してくれるなど、生成AI利用により時間の創出につながっている。
自分は高校2年時に高校数学を学び終え、その後大学の勉強に自学で取り組んだ。自学の時間が長かったこともあり、進度の速い子にも対応できる個別最適な学びを実現したいとかねてから考えていた。
生成AIはこの実現に役立つ。
高等学校「情報Ⅰ」の授業ができる「安藤昇先生」をAIで生成した。自分の授業動画を読み込ませており、生徒のレベルによって解説できるようにしたことで、それぞれの生徒の個別最適なマニュアルのような役割を果たしていると感じている。生成AIを利用することで知識習得に関しては今後、教員は不要になるのではないかと感じている。
教え子にギフテッドがいるが、彼らの生成AIの活用ぶりがものすごい。1年間でChatGPTと対話して大学レベルの物理や数学を理解する子、実社会でも通用するプログラミングコードを書く小学生など有り余る能力をどこかに活かしたいという性質の子にとって生成AIはまたとないツールだ。
生成AIの活用が進むほど、答えや結果だけで評価できない時代が来る。過程がこれまで以上に重要になるだろう。教員は子供のモチベーションを上げるなど人間にしかできないことが一層求められる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年6月3日号掲載