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教育ICT

次の学習指導要領は大きな節目 堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院学長特別補佐

2024年6月4日

GIGAスクール構想第2期の整備が始まった。次の学習指導要領の検討も間もなく始まる。教育改革は今後、どのように進むのか。学校間・地域間格差の解決は可能なのか。

堀田教授は、「現在の課題の多くは、いずれ解決されるもの。歩みを止める理由にはならない。今は極めて重要な時期。次の学習指導要領が始まるまでに、必要な環境整備を進め、学びに対する新しい考え方を獲得していく必要がある」と語る。

堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院学長特別補佐

堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院学長特別補佐

 

次の学習指導要領は大きな節目

学習者用デジタル教科書・教材の在り方や教育データ利活用、校務DX、クラウド・バイ・デフォルトや1人1台端末活用、ゼロトラスト対応。リーディングDXスクールや生成AI活用など、数年前には予想できなかった様々な議論が各方面で始まり、それがつながり始め、大きな流れになろうとしています。

人手不足かつ多忙な学校において、なぜこうも次々と新しいことに着手しなければならないのか。それは、これまでのような授業や学校の運営方法がもう破綻し始めているからです。人手不足や多忙な業務を解決する新しい仕組み、新しい方法を全国に広げる必要があるのです。

この大きな節目となるものが次の学習指導要領です。現在の学習指導要領(2017年告示)には大きな考え方の変化がありました。最大のポイントは、情報活用能力等が学習の基盤となる資質・能力として明確に位置付き、学び方を身につけることが知識の獲得と同様に重視されたことでした。

一方で、1人1台環境の実現が想定されてはいたものの、検討当時、実現はしていませんでした。その後実現しましたが、その扱いが学習指導要領に十分に示されていないこともあり、学習指導要領の理念を咀嚼してこの環境を活かすまでには至っていない状態です。いまだに「端末より紙に書くほうが速い」という教員もいて、端末が児童生徒のものになっていない実態も見られます。そういった資質・能力を育成することが教員の責任となったことに気付いていないのです。

しかし次の学習指導要領では、1人1台環境を前提として作成されることになるでしょう。学習指導要領の理念を着実に実施するために、制度や仕組み、教育内容の見直しを進めて最適化を図り、1人1台環境を最大限活用した学びが盛り込まれるでしょう。

加えて「自治体による違い・特徴」を活かして実施できるような弾力的な運用が可能になることも予想されます。現在実施されている、様々な特例校制度が「特例」ではなくなり、学び合いや探究的な学びを進める上での時間割の見直しなど、学びの区切りも1時間単位ではなくなる可能性もあるかもしれません。

過去のスケジュールから予想すると次の学習指導要領のスタートは2030年の可能性が高く、2028年頃には移行措置が設けられ、準備のできた自治体から着手することになるでしょう。

国の方向性を理解して強い気持ちで取り組むためにも審議の流れに注目し、流れをキャッチして準備する必要があります。審議はおそらく2024年度中に始まり、オンラインで公開され、討議内容の議事録も公開されます。

過渡期ならではの課題はありますが、制度・仕組み的な課題については次の学習指導要領に向けて1つずつ解決が図られることになるでしょう。既に10年前からデジタル教科書を導入しているエストニアでは月30回以上もの更新により最新のデジタル教科書を提供していると聞いています。そういった環境が日本でも実現する可能性があります。

文科省の組織も改編されています。初等中等教育局修学支援・教材課は、学校情報基盤・教材課になりました。この名称には次の学習指導要領を支える新しい基盤の検討の中心となるという役割が反映されています。教材やコンテンツも含めた環境についての検討が進むことになるでしょう。

 

教育改革は世の中のニーズから生まれる必然

教育改革は、世の中のニーズから始まるものです。

日本において英語を話せない大人が多くグローバルビジネスに課題が大きい点から英語教育改革が始まり、世界的にDXの流れが加速化していることからGIGAスクール構想が始まり、世界的なコロナ禍においてさらに加速しました。

2023年度「英語教育実施状況調査」によると、英語検定3級以上の中学校3年生が大きく伸び、5割を超えました。しかし「パフォーマンステストの実施状況」「英語担当教師の英語力」に「自治体間格差」があり、それが成績の格差に影響していると分析されています。

英語に限らずこういった調査を行うと「地域間格差がある」という分析が報告されることが多いようです。とはいえ外国籍児童生徒が多い地域、観光客が多い地域、人口が多く教員も多い地域など実態はそれぞれ異なります。

ICTや情報活用能力に関する調査も同様です。スマートフォンを持つ大人が少ない、QRコード決済ができる店が少ない等、DXの流れにリアリティを持ちにくい地域もあります。地域差を踏まえて判断する必要があります。

一方で、こういった地域であるからこそ、学校での体験を充実させようと考えて積極的に取り組む自治体もあります。方針を出す教育委員会やそれを実行する教員が、世の中の流れをどの程度キャッチしているかで取組の本気度が左右されるのです。

 

人も学校も個性を重視 後ろに合わせる必要はない

格差について、最近よく聞くのが地域内の学校間格差です。

「進んでいる学校はものすごく進んでいる。まったくやっていない学校と比べると進みすぎている。もっとゆっくり進めてほしい」という担当者の声です。

クラウドを前提とした学びや働き方は、その利便性を体験すると、加速度的に進む傾向があります。一歩がどんどん大きくなるのです。これは自然な流れであり、地域差という要素もありますので、後ろに合わせる必要はありません。

子供に自由を与えて好きなことだけをやらせるとそれ以外のことをやらなくなる」という子供間格差についての懸念も聞きます。

各教科の合計点で競う時代は苦手の克服が重要とされていました。今は「平均的にできる力」ではなく、「突き抜けた力」がより重視されており、自らをふり返り調整しつつそれぞれの力をうまくコラボレーションすることが求められているのです。

苦手克服は不要ではありませんがマストではありません。「好きなことばかりする子」は「学びに向かう力がある」と考え、他者の考えと往還しつつ協働する力を意識しなければなりません。

子供も学校も個性が重視される時代です。学習指導要領という基準を担保していれば良く、すべての学校、そして子供の足並みをそろえることに配慮しすぎる必要はありません。一方で「個性」「地域差」を、ICT活用等に取り組まないことの言い訳とする場合もあるかもしれませんが、やがて淘汰されるでしょう。

 

「即時交流」「他者参照」は教員も子供も体験を

PISA2022の質問調査(CBT)では「日本のICT環境の利用しやすさ」は比較的上位でしたが、この環境を「学びに利用している」点については下位と残念な結果でした。

デジタル学習基盤であるクラウド活用には様々なメリットがありますが、自ら学ぶために大きなメリットがあるものが「即時交流」ではないでしょうか。これを可能にするチャット等ツールについて、いじめが生じるのでは等の不安から利用を認めていない学校もあるようです。

いじめが生じるようなツール活用になるか否かは初期指導と学び手としての成長にありますので、一時的に禁止していたとしてもいずれは活用を任せることを想定した準備が必要です。ログも残りますので、追跡や教員に通知が届く仕組みも可能です。ログ管理は、世の中で常識的になっている監視カメラによる防犯対策と同様と考えても良いのではないでしょうか。管理のしすぎは子供の学びを妨げますが、不適切なコンテンツにアクセスしない仕組みを整備することもできます。教員が普段から連絡等でチャットなどのツール活用を体験することで理解が進む面もあります。

「他者参照」も重要です。クラウドにより他の人のやり方や意見、ふり返り、途中経過も含めて参照できることは、自分なりの感性を発揮してまとめること、他者の意見ややり方にさらに興味・関心を持つことにつながります。

学習外の活用も子供の成長に役立ちます。係活動や児童会・生徒会活動・クラブ活動などで端末やツールを活用することで操作スキルはどんどん伸び、学習にもスムーズに活かせるでしょう。授業活用は進んでいなくとも日常的な活用が進むことで子供が成長している事例は多くあります。

教員の校務DXもクラウド活用がポイントになります。クラウド活用を前提とすると、学習指導案を協働で編集したり、公開授業で指導案をクラウドで共有したりできます。そうなると事前に印刷・製本する手間がなくなり、かつ直前まで指導案に手を入れることができるのです。

この便利さはぜひ体験してもらいたいものの1つです。見学者の感想も、クラウドツールで回答・集計しています。職員室にあるPCでしか校務ができない環境であれば、次の更新のタイミングで変える必要があります。テレワーク環境を即マストにしないまでも、必要なときには設定変更等ですぐに可能となるような環境としておくべきでしょう。

 

ネットワーク環境の見直しは早急に進める

クラウド活用を円滑に進めるためには、ネットワーク環境が重要です。これも過渡期としての課題の1つといえるでしょう。

ネットワークが遅く利便性を享受できないことを懸念し、国はネットワークアセスメントの実施を必須として予算措置をしています。アセスメントを実施して課題を洗い出してプロフェッショナルの判断を得て解決しなければなりません。

ネットワーク環境は、回線さえ太くすれば解決するという単純なものではなく、接続回数(セッション数)を確保するための機器構成やフィルタリングの設定等を検討する必要があります。

文科省の研修や審議会等の動画が視聴できない、研修用クラウドコンテンツに参加できない等、様々な問題が起こっていますので、セキュリティポリシーに関する教育委員会方針の見直しや市長部局との調整など、様々な目配りが求められています。規制が多すぎると学びに支障も出ますので、どううまく実行し教員も子供も伸びやかに活動できる学校にするのか、学校設置者(教育委員会等)の役割はさらに大きくなります。

 

求められる「学び」が全国学テに現れている

学び方や求められる学力の変化は全国学力・学習状況調査の出題内容を見てもわかります。

2024年度調査の小学校5年国語の設問は、オンライン交流のためのメール依頼文でした。メールの書き方について、国語で教えること、それを実際に活かすことが求められているのです。

中学校3年国語にはフィルターバブルの解説文についての理解を問う出題や体験を基に物語を作成する出題がありました。数学では距離センサーを装備したロボットカーの測定結果を箱ひげ図で表現し、それを言葉で説明するものでした。箱ひげ図が中学校の学習指導要領に追加されたのは2021年度のことですが、既に2回も出題されているのです。箱ひげ図は、平均ではなく分散から読み取り分析するというデータ社会の素養となるものです。センサー付きロボットカーが数学に出題されている点も注目すべきでしょう。

児童生徒への質問調査(CBT)では端末活用について、「自分のペースで理解しながら学習を進めることができる」「わからないときにすぐに調べることができる」等が質問されています。これに肯定的に回答するためには端末を自由に使うが環境が必要です。

教員だけが授業の展開を知っており、プリントを集め、教員が良いと思った意見を選んで指名して発表させ、「いいです」と皆に言わせたり拍手させたりする劇場型の授業はもうやめたほうが良いでしょう。授業の流れは子供に示し、それぞれのペースでやり方を自ら選択しながら学ぶことを目指す必要があります。学ぶのは子供です。

今年度の調査結果は7月頃には速報が出る予定です。平均点を見て一喜一憂するのではなく、どこを改善すべきかを分析して各設置者の政策に活かす必要があります。そのためにもすべての教員や関係者自身が本調査を解いてみることをお勧めします。

 

人口減で生じる課題 大学入試も大きく変化

少子高齢化と労働力減少がいよいよリアリティをもって私たちの生活に影響を及ぼしています。代わりの教員が見つからず、教員の適正配置が難しい地域もあります。

人口減は税収の減少に直結します。税金で給料を担保しなくてはならない人員を増やすことが難しく、限られた人数でぞれぞれの働きやすさを担保しながら学校運営を行わなければなりません。これまで通りのやり方では難しく、デジタルを上手く利用するしかないのです。

人口減は大学入試にも影響を及ぼします。2022年度の入試からついに「受験者数」が「志願者数の定員」を下回り、一部の大学を除いて全入時代に突入しました。自分がどんな学びをしたいのかを明確にして大学を選択する時代が始まっています。

既に一般選抜の割合は年ごとに減っており、私立大学では約6割が、国立大学でも約2割が総合型や学校推薦型の選抜になっています。東北大学ではすでに約3割がAO入試です。こういった入試を乗り切るためには、高等学校の学力観のアップデートが必要です。教員の言うことを聞いて点数を取れば良いという学びやこれまでの受験指導ではこれらの入試に対応できません。自ら情報収集することは必須です。さらに議論して学び合い知識を構築する、データを読み取り分析する、など子供自身の「学ぶ力」が評価されるのです。

「高校入試が変わっていない」から中学校の学びを変えることができない、という地域もありますが、世界レベルではもちろん、全国レベルで大学入試が変わっている今、高等学校の学びも入試も変えていくタイミングにあります。

 

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プロフィール
東京学芸大学教職大学院教授・学長特別補佐/中央教育審議会委員/初等中等教育分科会分科会長代理/デジタル学習基盤特別委員会委員長ほか

 

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年6月3日号掲載

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