GIGAスクール構想第1期において、全国に先駆けて「県域アカウント」を実装し、県内のすべての学校が同じ環境で学べることを目指している奈良県が第2期に向けて始動した。
4月26日に県内の教育委員会担当者が集まりキックオフ会を開催。これまでの組織を見直し、共同調達の仕組みや範囲もパワーアップした。
第1期で奈良県教育委員会に所属し県域協議会の事務局長として県域共同調達を牽引した小﨑誠二准教授(奈良教育大学教職大学院)は、今期は協議会の外部有識者として調達に関わる。
小﨑氏に第2期の特徴と第1期の成果を聞いた。なお小﨑氏はEDIX東京において「NARA GIGA X」についてGoogleブースとソフトバンクブースで講演する。
昨年、スペインで開催された教育イベント「FUTURE OF EDUCATION」に招聘され講演を依頼された。その際、司会者に「日本のGIGAスクールプロジェクトは私たち世界中の教員の憧れ」「今、世界で最も先進的かつ大成功を収めようとしているプロジェクト」と紹介された。
講演後には、フランスの教員から「日本の教員がインターネットも自由に使いながら全国の子供全員に端末を与えて教育しているなんて本当ですか。もしそれが本当なら、そして教員が見守りながら子供に自由に学ばせるなら、子供は大人の想像を軽く超え、20年後の日本の子供たちは世界を時代遅れにしてしまうのではないか。それくらい強烈なインパクトがある」と質問された。
GIGAスクール構想は世界中の教員に注目されている。
県域調達の成功指標は「端末を安価に調達すること」のみではない。学校に通う「すべての子供」に「最新で」「質の高い」学習環境を用意できるか、その環境で子供が「自分で学べる」のかが、第1期のチャレンジであった。
第1期では、3OSで利用できる「県域公用アカウント」をすべての教員と子供に、私立公立国立学校も対象として作成。県としては、LGWAN回線でもプライベート回線でも制限を設けなかった。
ねらいは「教育を面白く」「教員の仕事を楽しく」すること。OSや契約の違いに縛られずに使用できるようにクラウドツールがベースだ。
加えてAdobe ExpressやCanvaも導入。これらをすべての教職員・児童生徒が利用でき、かつ県内教職員と情報共有ができる。
公用アカウントは退職もしくは卒業するまで利用でき、異動・進学しても同じアカウントを利用できる運用だ。学校代表アドレスなどの共有IDは原則作成しないこととした。
導入当初の仮登録、初期登録は、県教委が実施したが、登録後は学校設置者が管理を行っている。
研修も2年間を集中期間として思い切って行った。全項目で最下位であった「教員のICT活用指導力(学校における教育の情報化の実態等に関する調査)」がGIGA整備後、すべて平均値以上に上昇。次の年から下がり始めたが、これは自己評価基準が高まっているという要素もある。
2023年度の補助予算では「GIGAスクール運営支援センター」を整備。
日々の疑問、相談、サポート依頼、人材育成や活用等の窓口を一本化し、センター内で適切な外部事業社に連絡する仕組みを構築。すべての問合せ窓口を1つにすることで、これまで同じ質問が何度も繰り返されていた課題が解消。いわゆるたらい回しもなくなった。
当初は無料で利用していたアカウントを有料のGoogleアカウントに移行。できることが増えた。活用に慣れた頃に移行して利用範囲を拡大したことは無理がない流れだったと感じている。
県域アカウントがあるからこそ実現できたことがたくさんある。
まず、奈良県ネットワーク型フレキシスクール「不登校支援ならネット」。
好きなときに好きな場所に集まろう!がコンセプトで、県内複数の中学校にオンラインクラスを設置し、教科指定の教員を配備。
自治体に関係なくすべての子供が公用アカウントを持っているため、いつでもどこでも閉じられた状態でつながって情報を安全安心に所属校とも共有できる。
有料アカウントに移行してからは、基礎的な教育データも県域で共有。
調査も全県一括で行うことができる。データ活用については全県統一様式で、学校、教育委員会、保護者に許諾を得た。
第2期ではこれらのデータをさらに有効活用することを考えている。
例えば、教員免許更新講習がなくなったことから、教職員研修履歴の記録を始めている。教職員本人は個人の記録として利用でき、公表についても個別に対応できる。どんなことに興味を持ちどんな研修を受けているのかについて公的な記録とすることができ、教育委員会は、公開情報に基づいた施策の検討も可能だ。
「気付き見守りアプリ」も独自に開発。教員の気付きを簡単に入力できるようにした。「休み時間にぼーっとすることがある」「周囲の人の言動に敏感に反応する」等は水準1、「体にあざがある」「授業中の発言を冷やかされる」などは水準3などと分類し、水準チェックも共有できる。現在、どのように活用できるか検証中だ。
第2期は県内の全市町村が参加。第1期の取組をパワーアップし、デバイス、ネットワーク等通信環境、教材コンテンツ等教育内容、教員研修などの共同調達を検討。「NEXT GIGA」ではなく「教育にデジタルを生かすためのGIGA X」を目指す。
組織体制も見直し。
県域DX推進事務局・県域推進支援団センターや、全自治体の教職員代表で構成する「共同調達検討チーム」を立ち上げ。県域で担当者連絡会を定期的に実施する。
県教委&奈良教育大学校DX専門部会と全教育長が参加する県域DX推進委員会も組織化。
各種事項の決定機関は、外部有識者も参加する県域DX推進戦略コア会議(学びのDX、校務DX、ゼロトラストネットワーク、デバイス運用、DX支援、教育データ利活用等ワーキンググループを含む)だ。
4月26日のキックオフ会では「教育委員会・学校が成果を上げるためになくてはならない必須の7ステップ」として「明確なゴールの設定」「現状の把握」「より具体的な課題設定」「都道府県のリード」「協議体の設置」「産官学連携」「地域・保護者の理解と信頼を得る」などを確認。新組織は5月13日からスタートする。
特に重要なのがゴールの設定だ。
「速い遅いがあっても全員必ず到達できる」ものがゴール。なるべく具体的に設定する。
県域調達「GIGA X」の主なゴールは次のとおり。
現在、県と市町村教育委員会、管理職や教員はクラウドでつながっているが、LGWANやオンプレミス環境の校務支援システムなどクラウド環境にない業務もある。
これらをフルクラウド化して業務の流れをよりシンプルにしたい。
前回2年間に限定して強力に推進した教員研修については希望やニーズに応じてワーキンググループを立ち上げて運営。第1期でエバンジェリスト研修を行って実績を積んだ。特定の担当教員に負荷がかからない仕組みを考えたい。
ネットワークや教材、ICT支援員などあらゆる調達を県域で一体的に検討するため、早いものは今年度中に調達が始まるのではないか。デバイスに関しては次年度から始まる予定だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年5月6日号掲載