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教育ICT

全教職員にサブディスプレイ・研修高度化で業務改善~長野県働き方改革フォーラム報告

2024年3月6日

「長野県 教員の働き方改革フォーラム」が2月14日オンラインで開催された。本フォーラムは「文部科学省 教員研修の高度化に資するモデル開発事業」(2022年度補正予算)の成果報告の一環で信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センターが主催。

当日は教員の働き方改革と研修の高度化を汎用Chatと大型モニター及び教員用サブディスプレイを整備して検証した成果を県内の国公立小中学校が報告。活用目的や活用の広がり方などに共通点が多くあることがわかる。

信州大学教育学部佐藤和紀准教授は本事業について説明。「汎用Chatにより常に小さく学び続ける環境をどう構築するのか、教員のつながりと同僚性をどう高めるかについて検証。校務環境支援として大型モニターを3台、サブディスプレイを全教員に配備することによる教員業務の効率化も狙った。サブディスプレイは据え置き型とするのかモバイル型とするのかを教員が選択。汎用Chatを始めとするクラウド活用により教員研修や教務、授業の在り方に変革が見られる」とした。

サブディスプレイで校務環境を改善

サブディスプレイで校務環境を改善

一斉連絡から複数スペースへ 活用ノウハウが一歩ずつ向上
小川村立小川中学校

梨子田昌央教頭が報告。

■職員室と生徒昇降口に大型ディスプレイ設置

大型ディスプレイ3台は2023年10月から導入。職員室に2台に設置し、右側は当日・翌日の予定とお知らせを提示。左側には数週間継続掲示が必要なお知らせを提示しており、時間指定をして本日の連絡事項を追加している。

もう1台は生徒昇降口に設置。こちらは当日・翌日のお知らせや生徒会活動の目標や予定、行事や表彰情報、活動写真などを提示。人権クイズ週間ではクイズを提示するなど生徒会活動で利用している。

職員室に大型ディスプレイを2台設置

職員室に大型ディスプレイを2台設置

■Chat活用

Chat活用は授業改善を目的として始めた。小規模校のため職員室にいる教員が少ないことから授業の様子を伝え合うなどの情報共有を効率的に進めたいと考えた。

まず職員会議前に数分間でChatについて研修。Chat上で授業の様子を伝え合っているうちに、掲載していく情報がどんどん増えていった。

そこで様々なスペースを増やして情報ごとに分類することとした。

すると次にはスペースがどんどん増え、情報が蓄積しすぎるようになり、すべて閲覧することが難しくなっていった。そこで現在は、全職員「必読」のスペースを設置することとしている。

「便利掲示板」は保護者や生徒向けのお知らせなど教務主任と学校長のみ掲載できるものとした。生徒の校外学習の様子もいちはやく入手。プロジェクトごとに討議内容を共有することができる。「憩いの間」では、きれいな景色や珍しい植物など日常的な出来事を共有する場としている。

アンケート結果によると、教員はChat活用により「会議が減った」「情報共有しやすくなった」「仕事量が軽減できる」と考えている。

■サブディスプレイ活用

サブディスプレイに日報を表示している教員が多い。2画面あることにより、Chatや日報を提示しながら仕事ができるので重要な連絡をすぐに把握できる。また、文書や資料切り替えの面倒が減り、複数の仕事を同時並行できる。アンケートによると約半数の教員が仕事が効率化していると感じている。

■授業改善や生徒理解へ

日常的に使うことでどう使えばいいかを考えるようになり授業改善や生徒理解が進んでいる。データ共有が増えてペーパレスも加速化。

次年度はSSD搭載のPCも導入される。リーディングDXスクールとして今後も授業を始め学校全体の改善等を進めたいと考えている。

「おもしろタスク」で楽しみながら使い方に慣れる
信州大学教育学部附属松本中学校

谷内祐樹教頭が報告。

導入効果を高めるには活用することが前提である。活用するためには4つの実感「おもしろそう」「やればできそう」「やりがいありそう」「やってよかった」が必要だ。

ふり返ると本校で活用が進んだポイントは3つある。

「導入初期は低めのハードルとすること」「いつもの仕事がChatでできる等対面と同様の価値を感じること」「Chatに対面以上の価値を感じること」だ。

はじめの一歩のためには推進委員や得意な先生のサポートが必要である。そこで使い方に慣れることを目的に「おもしろタスク」を考案。人とつながる楽しさをChatで実感できるようにした。

また、Chat利用は少しずつ実施。最初は全体連絡のみとし、困っている教員には積極的にサポート。やればできそう、と感じ始め活用が進むと「やってよかった」になっていく。事務室からの情報伝達もChatで完結する、会議時の提示や共有がスムーズになる、スケジュール管理や学年間の情報共有も簡単になるなど様々なメリットを実感できるようになった。

附属松本学校園の幼稚園・小学校の教頭間連絡もダイレクトメッセージやChatで運用。緊急時の情報共有も迅速になった。次第に活用のバリエーションが広がってきている。

複数教員による同時共有に加え他者参照できる点もデジタルならではのメリットで、非同期による新しいコミュニケーションが生まれている。

先日は、対面で実施している学習指導案検討の前に、非同期で意見交換。日常的な連絡や交流も気軽にできるようになった。これまでは集合が必要であった生徒集会での意見交換もChatにより非同期で行うようになった。

ポータルサイトで一元管理 教員が活用しやすい仕組みに
信州大学教育学部附属長野小学校

ポータルサイトで必要な業務を一元化

ポータルサイトで必要な業務を一元化

宮下正史教頭が報告。

小学校では、朝出勤してから夕方まで職員室に集まる時間がほとんどない。そこで、職員室の大型ディスプレイで情報共有すること、ポータルサイトを作成し、校務支援システムや認証、勤務表、連絡報告、スケジュール、スキャンデータ、保護者連絡ツール等ワンストップでアクセスできるようにした。

職員会議など各種会議資料はドライブに格納・共有。管理職と日報(日々のスケジュール)のやりとりもクラウド上で完結。管理職は職員の空き時間をすぐに把握できるようになった。

本校ではICT支援員と日々情報共有し、アイデアをもらっている。職員同士の対話からアイデアが生まれる。

まずは1つ着手してみて走りながら考え改善していくことだ。

こういった取組で生まれた時間を使って同僚との話し合いが密になり、職業観や子供観が磨かれており、同僚性の高まりを感じている。

共に学び合うマインドが向上 挑戦する雰囲気が高まった
信濃町立信濃小中学校

伊藤真紀研究主任が報告。

本校では2022年3月から汎用Chatで職員間連絡を開始。端末活用が思うように進まないことから教員のICTスキルアップと授業実践イメージの向上を目的に、子供と同じツールを活用することとした。

スタート時は全職員の参加スペース1つで始めたが、テーマや学年、チームごとに分けた方が分かりやすいとどんどん分化。現在、全職員参加スペースは12スペースある。小中学校全体の連絡掲示板、部活動、行事、児童生徒会、事務室、保健室、ほっとひといき、研修掲示板、エネルギーばいぞうChatなどで、そのほか業務に応じたスペースを作成して共有している。

Chatを利用した研修掲示板で最も多いのは日常的な授業実践報告や参観報告などの投稿だ。このほかセミナーや公開授業、県内外のWebの公開情報、文科省情報のほか、学校外で参加している研修内容の共有、他校の授業の参観の様子なども掲載して共有している。

最初から学び合いが活発であったわけではなく、当初はつなぐ役割が必要だ。

Chatは、投稿することそのものが目的ではなく、ただの情報共有の場でもない。校種や立場を超えた、時間や場所にとらわれない協働的な学びの場であり、共に学び合うというマインドを育むことが目的である。その結果、複線型の授業や子供に委ねる学び、個別最適で協働的な学びなどに挑戦する雰囲気が高まっている。

「エネルギーばいぞうChat」は学校長からの提案で生まれたもの。子供が自分の学びを積極的に発信できる場で、小学生に中学校教員が返信したりコメントしたりということも始まり、子供と教員の学び合いの場となっている。

 

信州大学教育学部附属附属松本小学校

織田裕二教諭が報告。

様々なツールを組み合わせて利用している。学校便りはGoogleClassroomで配布しているので欠席児童にもその日に渡すことができる。大学との連絡はChatを利用。

職員室に設置した大型ディスプレイは、日報を一週間まとめて提示している。

会議室に設置している大型ディスプレイでは資料共有などで活用。行事の下見の打ち合わせ等では写真を提示しながら進行できた。

教員用サブディスプレイについてはGoogleツールやアプリなどよく使うものをすぐに起動できるようにしている。当初、どのように活用すれば良いのかというとまどいがあった。そこで希望者を対象にミニ研修を実施。現在は教員から「いつも複数タブ開いて複数の仕事を行き来していたがサブディスプレイの導入で不要になった」「拡張機能を使うことでマルチタスクができる」「過去の資料を並べて仕事ができる」「目線が上がって仕事がしやすく、楽」などの感想が届いている。

Chatで「思い」を共有 迅速な情報共有・意思決定
信州大学教育学部附属長野中学校

北沢嘉孝校長が報告。

県内の小中学校教員1人あたりの時間外労働は2021年度以降、毎年減っている。法令で定められている45時間を下回る月もある。

これは様々な取組の成果である。例えばネットバンクを利用した会計業務の改善、旅行命令票の表計算ソフトを用いた効率化、給食費の公会計化、学校が関わる旅行貯金の廃止など様々な業務改善が行われている。

信州大学教育学部附属3校においては、昨年度末より認証キーを用いて出退勤時刻を管理。欠席連絡受信はGoogleフォーム等を使用。特別支援学校ではデジタル連絡帳を用いて家庭と連絡しており、中学校ではデジタル採点システムを導入して紙テストをスキャナで読み込みデジタル上で採点している。

3年前、私が校長だった時はUSBメモリを10本使い分けていた。近年は自治体を超えて同じ教務システムを導入。校長会はデータを共有して打ち合わせや討議をロケーションフリーで進めている。

Chat活用を通して感じることは「メールは伝言、Chatは井戸端会議に似ている」ということだ。情報共有はメールでもできる。しかしChatは、思いの共有ができるという実感がある。

ロケーションフリーが可能になった点も意味がある。災害時などかつては一堂に会して決定する必要があったが、Chatですぐに各校の情報をロケーションフリーで共有し合い迅速な対応が可能となった。安心安全につながるツールである。

小中特別支援学校の副校長とは予定表(スプレッドシート)を共有。学部と附属学校との一体感の高まりを感じている。

◇  ◇  ◇
信州大学教育学部 村松教育学部長

県内教員を対象にした調査によると「働き甲斐ある」は約9割である一方「時間内に処理できない」は約8割。DXの目的は、思いを共有し学びたい気持ちを育てること。本プロジェクトの成果を県内外に広めることが本学部の使命。教職を輝ける職業としたい。

東北大学大学院 堀田龍也教授

「Chatスペースは情報だけではなく思いが共有されることが重要」という報告に感銘を受けた。

最初は低めのハードルから始め、進めていくうちに感覚が伴い価値づけしながら進めている。

教員同士であっても最初から学び合いが活発に起こるわけではないこと、ロケーションフリーで個別最適なアプローチが可能になることで学び合いが進んだという経験は、子供の学び合いを支援することに役立つだろう。体験すれば利便性が理解できアイデアもわいてくる。

国は昨年夏に校務DX調査を行いその結果を年末に公表している。欠席連絡のクラウド活用は6割が未経験で学校徴収金も教員が集めているところが多く小テストのCBT化も実施は3割程度、教育委員会独自のセキュリティポリシーが未設定等、残念な結果がいくつかあった。

独自のポリシーを策定しないと首長部局のポリシーに倣うことになり、クラウド活用の利便性が損なわれる。条例が文化に追いついていないことの例である。できない、難しい理由はいろいろあるだろうが、できることから始めるしかない。

進んでいない自治体は、今日の事例を報告して各学校でできることを提案してほしい。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年3月4日号掲載(一部Web追記)

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