2023年7月に公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の改訂に向け、第2回初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議(石川正俊座長・東京理科大学学長)が8月8日に、第3回同会議が9月3日に開催された。
第2回会議ではAdobe、Google、日本マイクロソフトが各社の生成AI関連製品の倫理原則等や著作権についての配慮や各社の取組について説明。いずれもユーザのデータを学習しない設計としている。
『生成AIで世界はこう変わる』ほかの著書があるAI研究者・今井翔太氏は、現在の生成AIができること、一般的な弱点、数年後の予測について報告。教育活用の可能性や影響、生成AI時代に向けた教育について知見を述べた。
画像生成AI「AdobeFirefly」を昨年3月に発表。約1年で世界で70憶以上の画像が生成されている。
現在バージョン3で主な機能は
アドビIDを取得してWeb版(無料)で利用する方法と各種アドビ製品の機能として利用する方法がある。アドビIDは米国児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)規定により13歳以上が取得可能。
日本においてはGIGAスクールで作成したIDを利用することができる初等中等教育機関向け特別ライセンスを用意(FederatedID)。教育機関向けAdobeExpressはテキストからポスターやチラシ等を生成できる。
Adobeの生成AI倫理原則は次。
著作権や安全性など設計のポイントは次。
Adobe製品には来歴情報が埋め込まれており、来歴情報を確認できるオープンツールにドラッグ&ドロップすると「Fireflyで生成しPhotoshopで加工」などの記録が出る。
コンテンツの来歴を記録し、信頼おけるコンテンツを生成、利用できるようにするため同社が中心となり、コンテンツ認証イニシアチブ(CAI=ComtentAuthenticityInitiative)も立ち上げた。55か国でメディアや企業3000団体以上が加盟している。
生成AIの著作権等をテーマにした専門家によるブログシリーズを提供。現状英語版だが、学校向けメディアリテラシー教材も提供。
セキュリティ、プライバシー、コンプライアンス対応やリテラシー向上に真摯に取り組むことをミッションとして、生成AI活用に必要なものをすべて自社設計・保有しているのはGoogleのみ(データ、検索エンジン、生成AIモデル、生成AIを動かす端末とOS、データを処理するプロセッサなど)。
Googleでは、2018年「AI原則」(社会にとって有益であること/不公平なバイアスの発生・助長を防ぐ/安全性を念頭においた開発とテスト/説明責任を果たす/プライバシー・デザイン原則の適用/科学的卓越性を探求する/これら基本理念に沿った利用への技術提供)を策定。
この原則に基づきセキュリティに関する国際基準に準拠して開発した生成AI「Gemini」を2023年から提供。文字、画像、音声、動画を利用して生成できる。
基盤のVertevAIはISMAPを取得。組織内であっても入力データを他ユーザが知ることができないように設計。
個人アカウントは13歳以上、学校用アカウントでは18歳以上で利用できる。さらに利用範囲(組織やアプリ)を管理コンソール上で設定できる。
教育活用では子供の発想を広げたり、校務の効率化やたたき台の生成などで利用されている。
海外では数学・方程式の問題でその子が関心を持つものと関連づけた数式問題を生成するなど、特別な配慮が必要な子供への個別最適な学びに利用した例がある。
生成AIのオンライン研修(GrowswithGoogle)や教育者向け生成AI講座「Geminiアカデミー」も提供。
責任あるAIの原則として6つの価値観(透明性、説明責任、公平性、包括性、信頼性と安全性、プライバシーとセキュリティ)を基本に開発。
ユーザのデータを基盤モデルのトレーニングに使用しない、ユーザデータを共有しない、ユーザのアクセス制御と企業ポリシーが維持される、ユーザデータとプライバシーは設計段階から保護されるように設計。
商用データの保護のため著作権ガードレールを組み込んでいる。
個人向け・組織向けに生成AI「Microsoft Copilot」を提供。個人アカウントでアクセスする場合13歳未満利用不可・18歳未満は保護者の許諾が必要。組織アカウントでは18歳以上が利用できる。なお13歳から18歳未満の利用について検証中。教育機関は無償で利用できる。
有料ツールCopilot for Microsoft365は教員及び18歳以上の学生が利用できる。WordやExcelなど各アプリケーションのツールバーにCopilotボタンが設置され、「WordからPowerPoint資料の作成」などができる。Copilotでは出展情報も出るのでファクトチェックが可能だ。
Teams for Educationには児童生徒向けAI学習ツールLearning Acceleratorsが組み込まれており、コーチングを提供。教育機関(児童生徒含む)は無償で利用できる。
AzureOpenAIは組織専用にカスタマイズできる生成AIのプラットフォーム。自治体独自のAI活用環境を構築できる。「答えを教えず伴走支援を強化したツール」などの開発にも利用されている。
商用データが保護される組織アカウントの利用を推奨。意図しない著作権侵害が発生した際は同社が責任を負うことを公表している。
トレーニングツールの提供や監視・レポートの仕組みなども各種提供。
AI研究者の今井氏は、
「研究上、現時点ではハルシネーション(誤った出力)を完全に克服する方法は見つかっていない」
「AIを使いこなすためには義務教育レベルの知識は確実に身につけることが前提になる」と意見を述べた。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年9月9日号掲載