7月12日、東京都内で第110回教育委員会対象セミナーを開催。内閣官房の角田参事官補佐はデジタル田園都市国家構想交付金「デジタル実装タイプ」について説明。横浜市教育委員会は学習ダッシュボード、新座市教育委員会はゼロトラスト・フルクラウド化、甲府市教育委員会と千代田区立九段中等教育学校は独自の生成AIシステムについて報告した。
甲府市教育委員会はGIGAスクール構想開始時より教育データ利活用を見据えてクラウド基盤を整備。生成AIによる教員の講話サポートも開始した。山主公彦指導主事が取組を報告した。
…・…・…
データを活用することで教育委員会や学校現場それぞれの立場で課題や問題点が可視化され洗い出せるのではないかと考えたことが教育データ利活用のきっかけだ。
GoogleCloudを活用した甲府市教育ビッグデータ「こうふのたからばこ」に全てのデータを蓄積している。アプリ等は市の配布するアカウントと紐づけ、SSOで利用。ログはBigQueryに取り込み、Looker Studioでダッシュボードとして可視化している。
教育委員会用ダッシュボードでは学校や教員ごとのアプリの利用状況がわかる。これを研修や学校訪問の前に確認し、利用の進んでいないアプリの活用事例を共有するなど資料として参照している。
デジタルドリルのデータもBigQueryで分析。2023年度の総解答数は220万問で、データから問題の質を把握できる。
今年度から教員もダッシュボードを確認できるようにした。教員・管理職・校長と、役職により可視化するデータの範囲を分け、データ利活用の目的について役職別の表を作成して共有している。
心の健康観察をFormsで作成し「困りごと」のチェック項目を設置して子供のヘルプサインを見逃さないようにした。昨年度までに実証校で取り組んだところ、マイナスの気持ちの割合に減少傾向が見られた。今年度6月より全校で実施している。
児童生徒用ダッシュボード「こうふマイボード」にはデジタルドリルと心の健康観察の記録を表示し子供自身が学びや生活の変化を確認できる。端末の利用頻度によって「ICT活用ポイント」を獲得でき、意欲の継続を図っている。
生成AIの活用は校務の改善から始めた。
多くの学校では朝の会や帰りの会に「先生のはなし」という項目がある。これを生成AIでサポートすることで日々利用する機会を作ることができないかと考えた。
生成AIの「Gemini」とアプリ開発プラットフォーム「AppSheet」を用いて、ベースとなるプロンプトを入力したシステムを構築。以下の4つを選択するだけで「先生のはなし」を生成できる。
これをたたき台として教員自身の言葉に変更して利用する。教員の使いやすさを検証中だ。学校からの要望でプロンプトを追加する機能も実装。「夏休みの過ごし方」など様々な場面でプロンプトに沿った内容で生成できる。
さらに、図工や美術の作品を撮影し、生成AIが学習指導要領をもとに画像に対しコメントと評価を生成する機能など、本システムをベースに、校務が改善できる場面を教育委員会でも検討して構築中である。
チャットを利用した事務職用の「Teachers生成AI」も構築した。
指定された情報のみを参照して回答を生成する「Vertex AI Search」を活用しており、学習指導要領や甲府市の予算資料、端末管理方針等の膨大な資料を学習したAIが、これらの資料をもとに回答を生成する。
すでに各校の事務職員が試験運用を開始している。事務職員は大量の資料から必要な情報を探す場面が多い。「甲府市の学校予算」などと検索すると生成AIが資料から必要な情報を見つけ要約することもできる。
同じく「Vertex AI Search」を利用したICT支援用のチャットボットも構築した。本市では1000人の教員に対しICT支援員2名体制でサポートしているが、これからは甲府市のICTの情報をもとに24時間対応のチャットボットも活用できるようになる。
相談内容や相談時間など利用状況を可視化できるため、教員のニーズの把握にもつながる。
【第110回教育委員会対象セミナー・東京:2024年7月12日 】
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載