7月12日、東京都内で第110回教育委員会対象セミナーを開催。内閣官房の角田参事官補佐はデジタル田園都市国家構想交付金「デジタル実装タイプ」について説明。横浜市教育委員会は学習ダッシュボード、新座市教育委員会はゼロトラスト・フルクラウド化、甲府市教育委員会と千代田区立九段中等教育学校は独自の生成AIシステムについて報告した。
横浜市教育委員会は客観的なデータに基づく教育の実現に向けて学習ダッシュボード「横浜St☆dy Navi(スタディナビ)」を構築し、6月下旬より市立学校496校に導入を始めている。教育課程推進室の丹羽正昇室長と大井慶亮主任指導主事が報告した。
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1人1台端末により教育データが蓄積され利活用が始まったが、学校現場や教員が必要とする有用なデータとなっているのか、考える必要がある。
横浜スタディナビは市の学力・学習状況調査や体力測定結果、健康観察、授業アンケート、市独自の「はまっ子デジタル学習ドリル」などのデータを集約し可視化する。教員用と児童生徒用があり、教員は授業用端末、校務用端末どちらでも確認可能だ。
健康観察は自由記述欄を設けており、「つらい」「いじめ」など気になる言葉を検知して教員用ダッシュボードのトップ画面に表示。子供の変化を見落とさないようにしている。
横浜スタディナビの特徴は3つある。
1つは「ビッグデータ化」。
本市は児童生徒数約26万人、教職員数約2万人のデータを蓄積し、かつ9年間の時系列データを累積。これを活かして全国最大規模の教育データ基盤を形成する。
2つ目は「エビデンス化」。
大学や企業との共創による「データサイエンスチーム」を立ち上げ、教員の声も取り入れながらデータ分析に取り組む。これによりエビデンスに基づく学びの実現や、教育内容の充実を図る。最終的には「データサイエンス・ラボ」へと拡大していく構想だ。
教員は様々な視点から分析した子供の電子カルテを活用して1人ひとりに寄り添ったオーダーメイドの学びを創出。また、子供はデータから自分に合った学びを把握し、必要な情報を自ら得ようとする主体性が身に付くと期待している。
3つ目は「スパイラル化」。
日々の授業を変えていくために、教員がどういうデータを、どのような形で求めているのかニーズをヒアリングし、データサイエンスチームがデータを収集・分析・加工。教員や子供が活用し精度の向上を図る。
これを繰り返して本市ならではの教育EBPMのサイクルを創造し、1人ひとりの個性に応じた教育の実現を目指していく。
横浜市学力・学習状況調査の国語、算数・数学に、1人ひとりの「学力の伸び」を把握できるIRT(項目反応理論)を取り入れている。
学校ごとの学力の平均値と学力の伸びを比較すると、どの平均値の層も学力の伸びが見られることが分かった。この分析結果から子供たちの学力は確実に伸びていると実感でき、教員が授業改善にさらに力を入れるきっかけとなった。
3割の子供が伸び悩んでいることも調査から分かった。こうした子供への支援を検討するため、まず教員がダッシュボードで伸び悩む子供を発見し、普段の様子や気付きを入力する。
気付きをもとに他のデータと掛け合わせ、具体的にどのような支援が有効かをデータサイエンスチームと共に探っていく。これにより授業改善に資するデータの提供が可能になるのではないかと考えている。
例えば授業アンケートのデータとクロス集計することで学力の伸びの要因が明らかになるのではないか、など様々なデータを掛け合わせることでこれまで見えなかったものが見えてくるだろう。
企業・大学と連携し、非認知能力(社会情動的コンピテンシー)の調査研究も進めている。
調査の1つとして、カメラやマイクを用いて子供の授業中の行動や発話のデータを取得し数値化したところ、勤務年数1年目の教員と10年目の教員では子供の発話量に大きな差があることがわかった。
教員の問いかけのタイミングや関わり方を分析していくことにより「主体的・対話的で深い学び」の授業の可視化を目指している。
スタディナビを入口とするデータ分析により子供の学びを未来志向へと変えていく。
【第110回教育委員会対象セミナー・東京:2024年7月12日 】
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載