7月12日、東京都内で第110回教育委員会対象セミナーを開催。内閣官房の角田参事官補佐はデジタル田園都市国家構想交付金「デジタル実装タイプ」について説明。横浜市教育委員会は学習ダッシュボード、新座市教育委員会はゼロトラスト・フルクラウド化、甲府市教育委員会と千代田区立九段中等教育学校は独自の生成AIシステムについて報告した。
デジタルの力で地方創生を加速化・深化させる取組を支援するデジタル田園都市国家構想交付金。このうち教育のICT化に活用しやすい「デジタル実装タイプ」について、デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の角田歩参事官補佐が解説した。
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「デジタル実装タイプ」はデジタルを活用した地方の課題解決や魅力向上に向けて、事業の立ち上げに必要な経費を単年度に限り支援するもの。TYPEに応じて事業費の1/2~3/4が補助金として交付される。
TYPE1/2/3/Sの4種類があり、教育分野を含む多くの分野で活用されているものがTYPE1「優良モデル導入支援型」だ。他の地域で既に確立されている優良な先行事例を自分の自治体や学校に横展開する取組で、比較的活用しやすい類型だ。
教育分野ではAIドリル等個別最適化した学習教材や遠隔学習環境の整備などが過去の採択事例に多い。先行事例は、既にその自治体で根付いている取組である点がポイントだ。
TYPE2・3はデータ連携基盤を活用して教育や医療、観光など分野を越えた複数サービスの実装だ。自治体の関連する組織が協力して検討する必要があるという点で難易度はやや高くなるが、補助率や補助上限額はTYPE1よりも高いという特徴がある。
内閣官房HPでは教育、行政など分野別に採択事例を取りまとめた「TYPE1採択事例集」を掲載。自分の自治体・学校の課題と似た事例を参照できる。
例えば、STEAM教育に力を入れている兵庫県加西市は、地方におけるSTEAM教育人材が不足していることから、大学と連携し、専門家による複数校同時オンライン授業を実施するための環境を整備した。デジタルを活用することで学びの質・量ともに充実を図った好事例だ。
「事業推進に向けたガイドライン」は事業を実施していく上での有効な取組を過去の採択団体の声をもとに作成。初めて申請する場合は特に参考になるだろう。
RAIDA(レイダ:デジタル田園都市国家構想データ分析評価プラットフォーム)では、採択事例を「地図上」から検索でき、近隣の自治体の教育分野の取組を調べることができる。
さらに人口や産業規模など地域特性をもとに自団体と特性の似ている団体をレイダが提案する機能もあるので、似通った課題を抱えている団体の取組を参考にすることも可能だ。
交付金申請には具体的な実施計画の提出が必要だ。留意点は次の6つ。
各団体・学校の「あるべき姿」を設定し、それに対する課題の解決策としてサービスを実装するというシナリオ作りが出発点となる。
例えば、不登校児童生徒への学びの保障を「あるべき姿」とすると、オフライン中心の授業ではすべての児童生徒に提供できないという課題がある。
これに対し遠隔授業システムを解決策として実装する場合、設定するKPIは遠隔授業の参加人数、学習内容の定着率など「あるべき姿」への進捗率を示す、計測可能な指標を設定することが重要だ。
加えて、継続的に事業の評価・改善につなげるアンケート調査等の実施タイミングや運営・評価体制づくり、2年目以降に自走するための仕組みの検討を具体的に行っていく。
職員の業務効率化を主目的とするものは交付対象外。
校務支援システムの導入も採択事例はあるが、申請には注意が必要だ。デジ田交付金は地域に利益を届けるものであり、教員の業務効率化のみに焦点を当てた申請は採択の対象とならない。保護者との連絡を効率化するなど、児童生徒や保護者、地域住民にどのようなメリットがあるかという観点をしっかり記載する必要がある。
実証実験など継続的でない、地域にサービスとして根付かないことを前提としているものは採択されない。
具体的なサービス実装ではない機器の購入のみなども不可。ただし、遠隔合同授業システムの導入の際に付随的に必要となる端末購入やWi-Fi設置等は補助対象経費として認められる可能性がある。
今年度の予算は未定だが、例年どおりのスケジュールであれば、11月頃に事前説明会が行われ、応募開始は12月から、2月に申請締め切りとなる予定。交付決定は来年4月頃。
不明点は随時、内閣府地方創生推進室および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局にて問合せを受け付けている。
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/policy/policy1.html
【第110回教育委員会対象セミナー・東京:2024年7月12日 】
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載