技術の進歩や社会の変化により、現在の職業の何割かはなくなる一方で新たに生まれる職業も多くある。「今存在しない職業」について子供たちが肯定的に捉えわくわくしながら考えることができれば「探究的な学び」の第一歩は成功ではないだろうか。
企業の監査業務やコンサルを展開しているPwC Japanグループは社会貢献として10年後の未来に必要とされる仕事やスキルについて考える「未来のしごとワークショップ」を提供している。
7月23日、同社内でセミナー「テクノロジーが加速度的に発展する中で、私たちは次世代の教育とどう向き合うべきか」を開催。参集した教員は「未来のしごとワークショップ」を体験した。
「未来のしごとワークショップ」はSociety5・0の時代に向けて子供たちのマインドセットを促す教材パッケージで導入用動画や投影用スライド、カード類などを指導ガイドブックと共に無償で提供している。
参加した教員は、カードにある「仕事」から1つを選択。
アイスブレイクとして「仕事」のイメージを数分間で皆が順番になるべくたくさんあげてイメージをふくらませる。
その後グループ内で、その仕事に影響するであろう社会的な「困りごと」をカード(人口減、異常気象、高齢化ほか)から選択。その「困りごと」がその仕事にどのような影響を与えるかについて付せんに記して模造紙上のフレームシートに分類していく。
次に、これらの課題を解決できそうな「新しい技術」をカードから選択。その技術が困りごとをどのように解決できるのかを話し合い、「現在の仕事に新しい技術を組み合わせた新しい仕事」を創出。そのネーミングも考え、発表をするという流れだ。
「警察官」を選択したグループは、人口減や高齢化などを「困りごと」として選択。
それを解決する技術としてドローンや位置情報技術、ロボットなどの技術を総合的に利用できると考え、ロボット警察官として現場を見回る「スーパーポリロボ」を作るクリエイター「ポリロボクリエイター」、現場のロボットの管理を行う「ロボットマイスター」を新しい職業として考案した。
「外交官」を選択したグループは、新しい職業「デジタルコネクトピースフロントランナー」を考案。
「貧富の差や異常気象など様々な課題があり仕事が複雑化していくなか、自動翻訳や各国の状況のデータ分析等、技術を使う専門家により外交官の仕事を強力にサポートしてパワーアップを図る」と発表。
「教員」を選択したグループは新しい職業として「ペアレントケアラー」「インキュベーションコーディネータ」を考案。
「ペアレントケアラー」は、クレームの多い保護者は子供への対応にも課題がある場合が多い可能性があり、そういった保護者の問題を早期に見つけてケアしたり民間サービスにつなげたりする専門家だ。
「インキュベーションコーディネータ」は、様々なデータ取得・蓄積・分析により子供自身が持つポテンシャルを引き出し、協働し合うきっかけづくりを担当する。
ワークショップに参加した教員は、
「困りごとの解決を考えることでわくわくするという体験ができた。学校改革を進めるための切り口の1つを得られた」
「新しい仕事のネーミングを考えるとわくわくする。その仕事の1人目になれるといいね、と子供たちの気持ちを後押しできるようになりたい」
と話した。
ワークショップに使用したカードやフレームシート、各種教材は、Webより申し込むとDL用リンクが届く。「新しい技術」に関するカードはバージョンアップも予定している。
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/corporate-responsibility/future-work-workshop.html
特別座談会では文部科学省総合教育政策局の濵健志朗課長補佐、名古屋市教育委員会新しい学校づくり推進課の畑生理沙課長、埼玉県久喜市立久喜小学校の林大輔教諭が次世代リーダーを育む取組を報告した。
濵健志朗課長補佐は2021年から昨年度まで京都府京丹後市副市長として、「人間中心の発想とSTEMの知識によりグローバル人材としての視点を身につけ、京丹後市の未来をデザインする次世代リーダーを育てる」ことを目的とし地域探究学習(丹後学)・デザイン思考・STEAM教育を融合した中高生向けプログラム「Kyotango Sea Labo」を開発。
スタンフォード大学等の研究者、地元企業、デザインシンキングコーチ(英語・日本語どちらも話せる大学生・大学院生)も支援する。京丹後市では本取組を今年度からさらに強化・広げるため、PwCコンサルティングから人材派遣を受けている。
名古屋市教育委員会では「新しい学校づくり推進課」を2022年より新設。新たな教育制度や安全安心な居場所づくり、学校の働き方改革に取り組んでいる。
キャリア教育もその1つで「キャリアタイム」を設けている。
畑生理沙課長は、「キャリア教育は職業体験とイコールではない。キャリアタイムは、体験を通して社会を知り自分事として捉え、自分の好きなことを見つける、子供のチャレンジを応援する時間。様々な体験を提供するためには地域や企業との連携は必須」と話す。
市ではキャリアコンサルタントの国家資格を有する専門家としてキャリアナビゲータを小中・高等学校に配備してキャリアタイムを企画・実施。中学校・高等学校・特別支援学校には常勤で配備し、小学校には巡回している。
「未来のしごとワークショップ」を取り入れているキャリアコンサルタントもいるという。
キャリア教育推進センターではキャリアタイムの協力企業・団体・大学と学校のマッチングなどを支援。多数の企業・団体がキャリアタイムサポーターとして登録している。
久喜小学校の林大輔教諭は、「本校では、子供が『イノベーション力がついた』と言ってくる。イノベーション力とは何かと聞くと『正解のない課題の答えを見つけること』と返ってくる。イノベーション力の育成はすべての教科や行事に根付いており、子供の姿が変わった」と報告。
「教科で身につけた力を総合的な学習の時間で発揮するためにも、教科で何を教え身につけるべきかが一層求められている気がしている」と話した。
PwCコンサルティングの三治信一郎氏は「日本がイノベーティブな社会となるためにはテクノロジーを進化させていく人間と積極的に使う人間が集まり試行錯誤する場を設け、英知を結集・共有して既存の枠にとらわれずに新たな発想を持つ必要がある」と語った。
教育家庭新聞 夏休み特別号 2024年8月12日号掲載