3月5日、神戸市内で第108回教育委員会対象セミナーを開催。田中博之教授・早稲田大学教職大学院は教育における生成AI活用の考え方と実践事例、鹿野利春教授・京都精華大学はDXハイスクールの狙いについて講演。常翔学園中学校・高等学校は自律的学習者を育む取組、姫路市立安室中学校は生徒主体のICT利活用の取組について報告した。
常翔学園中学校・高等学校(大阪府)の田代校長は、自律的学習者の育成を目指した取組について報告した。
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社会の変化に合わせて、2023年度より学校の中長期目標を「進学校」から「教育先進校」へと方向転換。グローバルシティズンシップを身につけた自律的学習者の育成を目指している。
生徒に身につけさせたいコアコンピテンシー「知的冒険心」「ヒューマニティ」「レジリエンス」を設定し、これを細分化した10項目を基に学校ルーブリックを作成。
2022年から23年の推移を見ると、中学生、高校生ともに全項目が向上。中学生は協調性とメタ認知が特に高く、柔軟性には課題があった。高校生は思考力、自己肯定感に課題があり、倫理観が高いことが分かった。
来年度はこれを発展させ、IRプロジェクトを始動し、データに基づいた教育を始める。
今回の方向転換はこれまでの取組が元になっている。
2004年に教育理念を再構築した際は幅広い職業観を養い、実社会で活躍できる人材の育成を目指し、キャリア教育に一層注力することとして2006年に「企業探究学習」、2009年から高校3年間のキャリア体系教育「常翔キャリアアップチャレンジ」を開始。進路目標に合わせた5コースで「科学探究授業(ガリレオプラン)」、「企業探究学習」のどちらかに取り組んでいる。
「キャリア教育をきっかけに、人生について考え、勉強を始めた」という声を卒業生からよく聞く。
自己調整学習の3要素「動機づけ」「学習方略」「メタ認知」の中でも、キャリア教育は「将来やりたいことがある」といった内発的動機づけに効果的だ。長期的なやる気につながり、学校全体で勉強する生徒が増え、進学実績の向上につながったと考えている。
本校では2017年に生徒1人1台のiPadを導入しており、端末導入時から継続している教員への経年アンケートでは、多くがICT教育に肯定的だ。その理由として「生徒の学びのスタイルの広がり」「授業の効率化」「校務の効率化」を挙げている。授業スタイルは講義形式が減少しペア・グループワーク、アクティブラーニングを取り入れる教員が増え、探究やキャリア教育の充実にもつながっている。
端末導入当初は中高一貫の大規模校であることからICT担当者同士の連携が難しかった。そこで、2019年に教育イノベーションセンターを新設。ICT教育、キャリア教育、グローバル教育などの特色教育を取りまとめている。
年1回実施するICT公開研究授業は、専門家や他校の教員からフィードバックをもらうことで教員の授業全体のスキルの向上を図り、これからの教育について他校の教員と一緒に考えるよい機会となっている。
科学探究授業(ガリレオプラン)は1年生で研究の仕方を学び、2年生で自分の興味・関心に応じた9つのゼミで大学と連携した研究活動に取り組み、3年生で論文を作成。研究発表会では将来の進路の参考となるよう大学の研究者や企業人の講演会も実施している。
海外の学校とも連携。台湾の姉妹校とオンラインで交流し英語での研究発表会を実施している。台湾の生徒は英語力が高く、本校の生徒にとってよい刺激になっている。
修学旅行も再検討。目的を捉え直し、海外でホームステイをしながら現地の学校に通い、一緒に授業を受けたり、実験を行ったりと現地の高校生との研究交流を中心に活動。生徒の様子が劇的に変化したことで教員からも高評価を得ている。
1年生で実施する「企業探究学習」は実在の企業からのミッションを教材に、教室で企業のインターンシップを体験。チームで課題に取り組む。
2年生は「ヤングリーダーズプラン」として即興ディベートと模擬国連に挑戦。模擬国連は実際の国連と同様、生徒たちがいずれかの国の大使となって自国のことを研究しテーマに沿って案を出し合う。例えば、学校の食堂で提供するメニューをテーマに、食文化などを調べ、ロビー活動も行いながら、皆が賛同できる提案を練り上げていく。
【第108回教育委員会対象セミナー・神戸:2024年3月5日 】
教育家庭新聞 新学期特別号 2024年4月15日号掲載