3月5日、神戸市内で第108回教育委員会対象セミナーを開催。田中博之教授・早稲田大学教職大学院は教育における生成AI活用の考え方と実践事例、鹿野利春教授・京都精華大学はDXハイスクールの狙いについて講演。常翔学園中学校・高等学校は自律的学習者を育む取組、姫路市立安室中学校は生徒主体のICT利活用の取組について報告した。
生成AIの教育への活用について、田中教授が教育学の観点から実践事例を交え講演した。
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生成AIを教育で活用する際、どのような資質・能力を育むのかという視点が重要だ。
これを、5つの基本的な力(問題解決力・論理的思考力・批判的思考力・総合表現力・創造力)に加え、プロンプトの修正改善力、AIを適切に使う力=メタ認知力、知識活用力と整理した。
総合表現力は文章や画像、音楽、動画を組み合わせて表現するマルチモーダル(複数手段)な力のこと。子供が文章を書き、挿絵を生成AIで作成し、物語をデジタルブックにする活動などで育まれる。
AIを活用した授業では、これらの力の育成を想定した学習指導案を作成し、さらに子供たち自身がルーブリックなどによって自己評価を行いながら資質・能力を身につけていくことが肝要だ。
AI活用の基本原則は、①初めは自分で考える、②対話をしながら深める、③真偽を確かめる、④生成物に責任を持つ、⑤自己成長に活かす。
文科省のガイドラインでは「④生成物に責任を持つ」を強調しているが、子供が活用する際には「①初めは自分で考える」が最も重要だ。自分で考え意見を持つ原則を守らなければ、思考力や創造力が育まれない。
神奈川県の高校では課題探究に生成AIを活用。プロンプトの手引き(指示や役割設定の仕方、条件の書き方など)を詳細に示してから課題のテーマ設定を生成AIに相談し修正・改善することに挑戦。ダジャレの作り方、兄弟姉妹が仲良く過ごすための保育領域の考え方など、AIと対話しながら自らの知識や先行研究を整理した。
特筆すべき点は生成AIの活用のプロセスをレポートにし、メタ認知を促した点だ。適切に使えたか、どこの改善に効果を発揮したか、テーマの深掘りはできたか、先行研究を整理し知識が構造化できたかなど、効果、成果、メリット、あるいはデメリットを毎時間蓄積していた。
メタ認知力の高い生徒ほど、不適切な使い方をしない傾向にある。これは、AI活用のメタ認知を義務化すると、不適切な使い方が減少する可能性が高まることを意味する。
教員のAI活用イメージは主に作業効率の向上だろう。例えば、ルーブリック(評価基準表)の作成は、ゼロから文章を考えると大変だが、AIで評価の観点と段階を指定してルーブリックを生成し、これをたたき台として修正すれば30分程度で完成する。
子供の学習での活用では、例えば生成AIを海外の中学生と設定して英会話の練習を行えば個別最適な学びが実現する。模擬的な対話生成は生成AIの得意分野だ。練習後には観点に沿った評価・点数付けも可能。
あらかじめ設定や条件を登録して使いまわすことができるカスタム指示の機能を使えば一連の対話練習・評価を自動化できる。
愛知県の中学校ではAIを英作文でのチューターとして活用。生徒は生成AIに英文の間違いを指摘してもらいながら、ルーブリックに沿って自ら学習を進めていた。
文科省のガイドラインでは生成AIそのものを学ぶ段階(=AIリテラシー教育)を設けることを示している。
AIリテラシー教育のポイントは、AIのしくみの理解、長所・短所の理解、道徳的な行動、社会的倫理観、危機察知力・危機回避力など。これらを踏まえて、神奈川県の高校で1時間のワークショップ形式の授業実践を行った。9つの注意点の中から「高校生のあなたが最も注意しなければならない点はどれか」をダイヤモンドチャートで整理。主体的にランキング化することで自覚が高まっていた。
質問の多い年齢制限への対応について、上手くいった学校の一例を紹介する。新潟県の中学校では事前に希望者のみ保護者のサインを募り、総合的な学習の時間で生成AIを活用。1年後の慣れてきたころに学校だよりで通知して全員の活用に至った。段階的に活用したことで保護者の戸惑いも解消される。
【第108回教育委員会対象セミナー・神戸:2024年3月5日 】
教育家庭新聞 新学期特別号 2024年4月15日号掲載