2月19日、名古屋市内で第107回教育委員会対象セミナーを開催。高橋純教授・東京学芸大学と春日井市教育委員会の水谷年孝氏がNEXTGIGAに向けた端末・クラウド活用について講演。豊田市教育委員会はAVDを活用したネットワーク統合を、リーディングDXスクールの名古屋市立矢田中学校はプロジェクト型探究学習の取組を報告した。
豊田市は仮想デスクトップ基盤を用いて校務系・学習系ネットワークを統合。経緯と成果について学校教育課・教育センターの成田指導主事と山本担当長が報告した。
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本市の教育ネットワーク環境は校務系と学習系が物理的に分離され、校務用PCからインターネットに接続できなかった。これを解消しシームレスなデータ共有を図るため、AVD(Azure Virtual Desktop)で仮想デスクトップ基盤を構築しネットワークを統合した。
新システムは既存の校務系ネットワークからクラウド上の仮想デスクトップであるAVDにリモートでアクセスする仕組みにより、アクセス権限を設定して外部からの不正アクセスを防止。安全にシステム間のデータ移行および校務用PCでのインターネット接続ができるようにした。
MS365 EducationのA3・A5ライセンスを用いたセキュリティ対策で顔認証によりログイン。市の教育情報セキュリティポリシーも策定し、活用しやすいようにQ&A方式のセキュリティハンドブックを作成。校務用PCと指導者用端末でいつでも確認できる。
AVDは短期間で導入できる。本市では2021年6月に構築を始め、8月から翌年3月にモデル校で検証。2022年9月には市内一斉導入が完了した。さらに新たな操作方法の習得が不要で教員の負担が増えない、既存ADと連携してシングルサインオンで使用できるなど利便性が高い。
仮想マシンの最大同時接続数は限りがあるため、30分間操作しない場合は自動でログオフするように設定している。
AVDの導入はコスト削減につながった一方、従量課金のため年間コストの想定が難しい。使用期間と比例して増額するため、今後データのリセットを実行予定だ。
教員アンケートでは「インターネット接続環境が使いやすい」98%、「業務改善につながった」89%と高評価だった。指導者用端末で生徒の成果物を撮影し校務用PCに取り込み、ふり返りと共に確認するなどデータ交換が簡単になり作業効率が向上したと聞いている。
協働学習支援ツールでのワークシート作成や提出物の確認、デジタルドリルでの宿題の配布や学習状況の確認が校務用PCでも行えるようになり新しい学習スタイルへの移行が促進された。TeamsやStreamの利用も進みオンライン授業や動画を活用した情報共有が図られている。
校務では連絡掲示板を用いた情報共有やインターネットの検索・情報収集、OneDriveなどのクラウド活用により業務改善・多忙感の解消にもつながった。
ネットワーク統合はステップの1つだ。徹底的なログの取得、ネットワークの監視、生体認証を全てのPCで実施し、2025年度のゼロトラストネットワーク実現に向けて準備を進めていく。
同時に教育ダッシュボード作成に向けても取組を進めている。現在、文科省「教育データの効果的な分析活用に関する調査研究」に参画しログデータの収集・分析を行っているところだ。教員の人数、男女構成、平均年齢、ログイン数などのデータを自動取得し、複数要因の相関関係を分析して可視化。結果を共有して経験の浅い教員もベテラン教員と同等の判断力をもてるようにしたい。
本市ではこれらの取組により3つの最大化を目指している。
1つ目は「可能性」。全国学力学習状況調査の結果やデジタルドリルのログなどビッグデータを活用した学力向上を図り、データ化した指導力等を基に教員が自律的に学び続ける仕組みを構築する。
2つ目は「安全性」。第三者の悪用を瞬時に発見して対策を実施。児童生徒の心と体の状態をデータ化して心理的安全性を高めるよう支援する。
3つ目は「時間」。教員が担う事務処理を自動化し、子供と向き合う時間を最大限に確保。効率的な知識の習得による授業改善を図り、探究学習の充実を目指す。
【第107回教育委員会対象セミナー・名古屋:2024年2月19日 】
教育家庭新聞 新学期特別号 2024年4月15日号掲載