2月19日、名古屋市内で第107回教育委員会対象セミナーを開催。高橋純教授・東京学芸大学と春日井市教育委員会の水谷年孝氏がNEXTGIGAに向けた端末・クラウド活用について講演。豊田市教育委員会はAVDを活用したネットワーク統合を、リーディングDXスクールの名古屋市立矢田中学校はプロジェクト型探究学習の取組を報告した。
春日井市では市立54小中学校中、8校を中心に実践を推進。2校(藤山台小学校・藤山台中学校)がリーディングDXスクール、2校(高森台中学校・出川小学校)が研究開発学校だ。水谷氏は子供が「自ら学びを進める」複線型の授業の実現について報告した。
高森台中学校では41か月間、端末とクラウドを使ってきた結果、生徒が自ら情報を収集・整理して自由に議論しており、教員が指示しなくても生徒の判断で端末を活用している。アウトプットの制作も授業内に終わらなければ家庭に持ち帰って行っている。
本市の授業公開を見た教員から「教員は最後にまとめないのか」とよく聞かれる。どの授業者も「まとめない」場合が多い。まとめる必要がないためだ。
ばらばらではあるが必要な情報が収集できているかはクラウドを確認すればわかるので、その時間の学習目的にたどりついていない子には個別に支援すればよい。1人ひとりの進捗がわかれば「教員がまとめ、それを全員でノートに写す」過程が不要であることが実感できるだろう。
「美術」「技術・家庭科」では従来から、個別最適で複線的な学びを行っている。それぞれがテーマや課題に向かって作品を仕上げ、途中困ったときは個別に教員や友達に相談するという授業スタイルだ。これが、クラウドを活用することで作品の質があがった。互いの途中経過を見合って参考にしたり刺激を受けたり、必要な技法の動画を自分のタイミングで見ることなどがスムーズになったためだ。
クラウド活用による効果である。ここに「個別最適な学びは端末がなくてもできる」という方々への解の1つがあるのではないか。
「私の地域では管理職も頑張っており、研修も頑張っているのに授業が変わらない」と質問を受けることがある。
最もお伝えしたいことは「教員の校務や研修での活用が授業につながる」ということだ。
端末とクラウドを使って研修を行い、Chatを使って情報共有して討議。オンライン研修のまとめはクラウド上で行うなどしていくうちに、授業活用の糸口が見えてくる。業務の進行管理をクラウドで行うことで子供の学習履歴の蓄積・利用についても理解しやすくなる。
ChatGPTやGeminiなどの生成AI活用についても春日井市の状況に合うようにガイドラインを策定しており、市内のほぼすべての学校で活用が始まっている。これも校務から取り組んでおり、アシスタント的に使うと様々な効果があることがわかる。
成果が上がらない原因は地区や学校によるだろうが、次に挙げたいずれかの検討が必要ではないか。
まずは文科省「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト」を見て取り組めるところから始めれば良いだろう。
かつてのPC活用と大きく異なる活用として、Chatがある。これによりコミュニケーション量が増大した。挙手して発言の許可を得る必要がなくなり、子供が「タイミングを逃さずすぐに聞いたり報告したりできる」環境が実現した。
Chatの良さは「うまく言語化できない場合も投稿できる」「後から見ることができる」点だ。もやっとしている段階であっても投稿することで様々なやり取りの中から考えやアイデアがまとまっていく。そうなると自然に板書も変わっていく。「皆の思考経過を記録する」「まとめる」必要がなくなる。
ここ数年で中学1年生の学びも変わった。小学校時代にスキルが身に付いているので、問題解決学習により多くの時間を割けるようになった。
海外にルーツのある子供も学びやすくなった。日本語が理解できない場合もGoogle翻訳を使って学んでいる。Chatで後からゆっくり見ることができる。
不登校傾向の子供も、家庭や登校支援室など自分の居場所からChatやGoogle Classroomに参加して学んでいる。
特別支援学級では、キーボード入力を使ったり視線入力を使うなど様々な方法でアウトプットが可能になった。言語音声と板書のみだとついてくることができなかった子供にとってクラウド活用は学びの保障に役立っている。
学びだけではなく日常の活動にも利用している。子供たちの当番表は教室の掲示板ではなく、GoogleClassroom上にアップされている。
「効果のある使い方を教えてほしい」という質問はナンセンスである。端末やクラウド、Chatなどを「学習基盤」と考えること、この学習基盤を使うのか使わないのか、どう使うのか。それを選択するのは「子供」であると考えること。「1人ひとりを大切にしながら」「生涯に渡り自ら学びつつける力」の育成に向けてまずは小さなチャレンジから始めることだ。
最初からうまくいったわけではない。
生涯にわたり自ら学び続けるためにアウトプット中心の学びに挑戦したが、自ら学ぶことは簡単ではなかった。
そこで「自ら学ぶ子供の姿」を細かく分解して1つずつ始めた。
具体的な授業の流れはClassroom上に「授業の流れを最初に示す」「動画教材やインターネット、教科書や資料集から課題解決のための情報を収集する」「教員は必要な情報をアップする」「様々な思考ツールを活用して整理する」である。思考ツールは当初、様々なものを試した。現在は子供が自分で好きなものを利用している。
やりやすい教科から始めることで徐々に子供にスキルが身に付き、教員も自信を持って進めることができるようになった。
アウトプットを満足できるような質に向上させるためにはインプットの質の向上が必要である。そのためにクラウドで共有するものは「結果」ではなく「途中経過」である。皆の思考が進んでいく過程を見ながら進めることで各自の学びの進め方が大きく変わった。
これらができるようになると子供に委ねる場面が増え、その結果として活動が複線化していき、自ら学ぶ授業に変わっていく。
クラウド活用により手段が多様化し、活動時間やデータ量、コミュニケーション量が増え、アウトプットの質も向上していき、委ねるシーンが増え、次第に「教える」授業から、自ら「学ぶ」授業に変わっていった。
クラウドだからこそできる「他者参照」について中学校1年生は「他の生徒の作業を見て学ぶことで不安を減らし、考えを拡げることができる」「分からないときに参照できる」「他の生徒と意見を共有して学びを深めることができる」と考えている。
現在、2校の研究開発校では情報活用能力育成のための小中一貫のカリキュラム編成に取り組んでいる。小学校1年生から中学校3年生まで全学年で年間35時間の「情報の時間」を創設し実践しており、11月1日に研究発表大会を開催する。
【第107回教育委員会対象セミナー・名古屋:2024年2月19日 】
教育家庭新聞 新学期特別号 2024年4月15日号掲載