2月19日、名古屋市内で第107回教育委員会対象セミナーを開催。高橋純教授・東京学芸大学と春日井市教育委員会の水谷年孝氏がNEXTGIGAに向けた端末・クラウド活用について講演。豊田市教育委員会はAVDを活用したネットワーク統合を、リーディングDXスクールの名古屋市立矢田中学校はプロジェクト型探究学習の取組を報告した。
高橋教授は「高次の資質能力」を育成するための考え方について説明。「クラウド活用はこれまでの授業の延長ではなく全く異なる学習基盤である。この意味を受け止め切れているかどうかが分かれ目」と話した。
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授業研究を熱心にやっていた学校ほど、端末とクラウドが入ったことにより学び全体が大きく変わっている。
それは何故か。
「高次の資質能力」の育成が一斉指導では難しいことは歴史が証明している。これを実現するには「1人ひとりの子供を主語にする」(これに異を唱える人はいないだろう)ため、授業を複線化するしかない。しかし、これまでの教室環境では時間も人手も不足していた。
それを端末とクラウドにより解決しやすくなったため「授業研究を熱心にやっていた学校ほど学びが変わる」のである。
例えばノートを集めて返却する手間が端末とクラウドを利用することで大きく短縮される。1人ひとりの進捗状況を机間指導しなくても確認でき、一斉に挙手したり討議したりしなくても各自のタイミングで討議を進めることが可能になる。
「教員の指示で一斉に端末を使う」「一斉に協働する」方法では授業改革につながりにくいこともこの文脈で理解できるだろう。
「ICTを活用する、しないを見極めるべきだ」という人は「ICTに慣れていない人」である。「ICTを効果的に使う」とは「これまでの授業スタイルのままにICTを付け加える」という意味といえ授業改革にはつながらない。この段階の学校は、子供に力をつけることの意味を改めて問い直す必要がある。
1人ひとりが多様な持ち味を生かして高次の資質能力を鍛えるためには自由な進度や方法の学びを保障することが必要だ。
ポイントは「白紙」の状態から共有して教員だけでなく子供同士が互いの進捗をいつでも見ることができる他者参照の設定をすることにある。
個人で課題を持つこと、1人で学びを進めることは難しい。他者参照はそれを支援する環境である。このような方法で学びを進めている子供は互いの途中経過を見ながらアドバイスし合い、真剣に意見を求め、真摯に考えており、教室にはぴりぴりとした雰囲気が漂っている。その活動を見守りつつ助言して回るのが教員の仕事である。
子供は成果を共有し合うことで「1つの課題で多面的に考えることができて楽しい」と学びに向かう資質が高まる。教員のまとめを待つ従来の一斉授業とはまったく異なる達成感である。
これまでそれほど授業研究を進めておらず高次の資質能力をイメージできないと「子供が自分の好きなことに邁進するのでは」という不安から始まってしまうようだ。これをどう解決するか。
まずは「低学年時から学習習慣や学び方の基礎を身に付ける」こと。これまでの指導の中心であった知識技能の習得は、AIドリルや動画教材での学習が中心になるだろう。一斉指導としてノウハウが集積されている部分であり、これ以外の選択肢を考えられない教員がまだ多いことは知っている。しかし「自ら学ぶ力」「周囲と学びを進める力」を育成する時間、そして「あふれる情報から取捨選択して問題解決をすることを繰り返す」時間を確保するために必要なステップである。
「学習過程」と「指導過程」を分けて考えることも重要だ。学習過程は子供が学習を進める過程、指導過程は教員の指導の過程と考える。これらを実現するための考え方と方法を整理した。
端末やクラウドを利用した校務や研修を日常的に経験している教員と、紙と筆記用具のみで校務や研修を進めている教員では感覚が大きく異なってくるだろう。
端末とクラウド活用は防災対策にも力を発揮する。
先日の能登大地震では、日常的に端末を持ち帰っており、かつ子供から発信できる設定とし通常から自由に活用していた地域では連絡を取りやすく授業再開もスムーズに進んだと聞いている。
かつてのPCはアプリもデータもローカルで設定しており膨大な時間のキッティングが毎回必要な環境であった。ファイルやフォルダ整理にも膨大な時間がかかっていた。IDとブラウザのみですぐに使えるのが、これからのPC活用である。
ファイルを共有することが重要なのではなく情報や行動など「現在」を共有することが重要だ。
これまではファイル共有=情報共有であったが新しい業務の仕組みではリアルタイムに情報を共有できる。その感動をぜひ授業に活かしてもらいたい。
多くの自治体で採用が進んでいるデジタルドリルであるが、紙ドリルをデジタル化した学校で教員の指示のもとに行うことが前提のものではなく、新世代のドリルを採用する必要があるだろう。
学習量が記録され、定着や成果をドリルそのものが評価するなど「指導者不在」のドリルである。
これまでは学習量の記録が難しかったためテストにより判定していたが新世代ドリルは努力や習得状況がわかるためテストが不要になる。教員は各自の勉強量を賞賛する役割となる。
【第107回教育委員会対象セミナー・名古屋:2024年2月19日 】
教育家庭新聞 新学期特別号 2024年4月15日号掲載