2月6日、福岡市内で第106回教育委員会対象セミナーを開催。山本朋弘教授・中村学園大学は学校・地域・教委が連携した学校DX、福岡市教育委員会はダッシュボード構築、鹿児島市教育委員会・奈良県立教育研究所はGIGA第2期に向けた取組、福岡市立百道浜小学校はICTを活用した授業改善について報告した。
文科省・学校DX戦略アドバイザーを務める木田博所長は鹿児島市の教育データの利活用とGIGA第2期に向けた施策について報告。「『正解』を教えてもらう学習から、『納得解』を自らつくる学習へ、新しい価値に基づく授業観・学習観への転換がGIGA第2期のカギ」と話す。
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「GIGA第2期」とは端末が更新される2024年度からの5年間を指す。文科省は第2期を見据えた更新のため、都道府県に基金を造成。この活用にあたり4つの整備事業計画の作成が全自治体に義務付けられた。
「端末整備・更新計画」に加え、「ネットワーク整備計画」も作成する。第1期と同様にネットワークアセスメントを実施し、結果が公開される予定だ。
「校務DX計画」は「GIGAスクール構想の下での校務DX化チェックリスト」を参照して進めていく。
最も重要なのが「1人1台端末の利活用にかかる計画」。1人1台端末をはじめとするICT環境によって実現を目指す学びの姿を明らかにする。
従来型の一斉授業や1問1答の授業ではたとえICTを活用したとしてもそれは教育DXとは呼べない。
学習者中心の学びへアプローチするLearner-centric(ラーナー・セントリック)を授業に取り入れることがGIGA第2期の目指す姿である。
学習者中心の学びに取り組む鹿児島市内の学校を紹介する。
リーディングDXスクール指定校である田上小学校の取組では、学習形態、探究の方法、表現ツールまですべて目的に応じて子供が自己選択している。この時、例えば発表ツールとしてWordを選択した理由を自分の言葉で説明したり、友達の選択の根拠を予想したり、課題解決に向けて「意図を持って」方法を選択する視点が重要だ。
紫原小学校はほぼ全ての算数科の授業で、1単位時間の自由進度学習に取り組んでいる。
授業のはじめに、課題の難易度とゴールの設定、学習形態(自分・友達・教員)を選択し、全員で共有。「難易度の高い課題に取り組む子が多いから考える時間を長めにしよう」と活動時間も子供が設定。子供自身が立てた学習プランに基づく授業が日常化している。
単元内自由進度学習に取り組む錦江台小学校では、目標を自分で決め、確認テストの回数やタイミングも子供が選ぶ。活動場所も教室・廊下・床と様々だ。検証を行ってルールを決めた上で音楽を聴きながら学習している子や、解説動画を主体的に自作する子も現れた。単元の最後にはふり返りを行って、反省を生かしている。
学習者主体の授業の効果を測るためにも、教育データの利活用が重要となる。学習eポータルのアプリ別の利用回数から子供自身と教員が学びの特性を把握したり、学級別の取組状況を把握して活性化している学級の使用アプリを共有したり、教員別の利用状況はベテランから若手への継承に役立つ。
データを扱う際には学習者や保護者の視点で利活用を考えるとデータ収集に対する不安が軽減される。子供がいつでも自分の学びをふり返ることができたり、保護者アカウントを発行して家庭で保護者が子供の学習状況を確認できる環境があると信頼が高まる。
育成すべき資質・能力の1つ、「学びに向かう力」は可視化・数値化が難しく、指標がないとそれを高めようとする力が働きにくくなる。
そこで、本市ではMEXCBTに実装されている「ScTN(スクタン)」を活用。スクタンは非認知能力や主体的・対話的で深い学びの実現状況を把握するための質問紙調査だ。すべての学校で実施可能で、子供の評価で実現できているかを測ることができる。
単元内自由進度学習に取り組んでいる学校では、1学期から2学期でほとんどすべての数値が向上。子供の学びに効果的な取組であることが数値化により明らかになった。
また、身につけた情報モラルを点数化する教材を導入したところ、63・9%がインターネット上のトラブルが改善されたと回答。
今後は、こうした可視化が難しいものを可視化し、さらに子供自身がそれを確認・活用できるようにする取組の充実が必要と考えている。
文科省「教育データの利活用の効果的な分析活用に関する調査研究」事業の一環で、教員の年齢・男女比とICT活用状況を分析したところ、ICT活用の促進と年齢や性別に相関関係はないことがわかった。
また、全国学力学習状況調査の結果とICT活用状況をもとにした分析によると、子供との信頼関係が高いほどICT活用が促進される。信頼関係がある∥子供が端末を自由に使えることで、活用が進むことがデータからもわかる。
市内のある小学校における端末持ち帰りに関する保護者へのアンケート調査では低評価は全体の約1割と低い。持ち帰りは多くの保護者に好意的に受け止められている。
データは予想を裏付けたり、施策を推進するための後押しとなる。
【第106回教育委員会対象セミナー・福岡:2024年2月6日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年3月4日号掲載