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教育ICT

地道な取組・工夫がDXにつながる 授業研究・研修のクラウド活用で教員の働きかけが深化<中村学園大学教育学部 教授 山本 朋弘氏>

2024年3月4日
第106回教育委員会対象セミナー・福岡

2月6日、福岡市内で第106回教育委員会対象セミナーを開催。山本朋弘教授・中村学園大学は学校・地域・教委が連携した学校DX、福岡市教育委員会はダッシュボード構築、鹿児島市教育委員会・奈良県立教育研究所はGIGA2期に向けた取組、福岡市立百道浜小学校はICTを活用した授業改善について報告した。


中村学園大学教育学部 教授 山本 朋弘氏

中村学園大学教育学部 教授 山本 朋弘氏

山本教授は子供たちの自律した学びを支えるための学校・教育委員会・地域の連携について講演。連載「GIGA端末を活かす!教員研修・授業活用」の掲載事例も交え紹介した(関連1面)。
…◇…◇…

学校現場でDXを実感しているだろうか。少しずつ変化する中でDXが起きている場合もある。

埼玉県久喜市では小学1年生がクラウドを使って共同編集し、自分に合った学びを獲得している。クラウドを使いこなし始める段階は一概には言えない。

長崎県佐世保市は近隣の中学校がオンラインで連合の生徒会を開き、家庭学習を考え直す取組を行った。今後は生徒会の在り方も変わっていく。

教育DXとは教育や授業の在り方そのものが変わることを指す。これまでの考え方を変えないと教育DXは起きない。

年に何回か、「ダブルループ」の考え方を授業研究に取り入れみてはどうか。これは既存の枠組みを捨て、新しい考え方や行動の枠組みを取り込むことだ。日頃の授業をもとに改善するのではなく、前提から見直していく。

ICTを活用した授業研究で考えるべき視点は、子供が主体の授業につながるかどうかだ。穴埋め問題をデジタル化しても意味がない。

教員が先導し情報を受け取る子供たちから、教員が伴走者となって情報を取りに行く子供たちへ、さらには子供が自走する授業づくりを目指していく。これは働き方改革にもつながる。

端末導入期から活用期・発展期へと移行している今、家庭学習も含め従来の指導を見直す時期に来ている。

■活用を促進する仕掛けをつくる

子供たちの端末活用の実感は教員に比べて低い状況にある。全国学力学習状況調査の端末活用頻度を見ると、教員と子供の間には30㌽もの差がある。モデル校など高い数値を示す学校もあるので、自治体は各学校の状況を今一度確認してみてほしい。

子供が活用を実感している学校は自習時間も端末を使い、持ち帰りも当たり前だ。学び方が提示され、子供は自律して学んでいる。

普段の学習の延長で端末を使うことができるか、その場ですぐに取り出して使える自由度の高さが活用頻度の向上につながる。

これは各自治体の取組の方向性の影響も大きい。環境整備だけでは活用は進まない。学校と教育委員会が連携し、活用を促進するための仕掛けづくりを行っていく必要がある。

■小中連携・共同編集で授業研究が深まる

多くの地域で授業研究会はクラウドを使ったワークショップ形式に移行している。

宮崎県西米良村の授業研究会では小中学校が連携し、共同編集ツールに授業の考察を書き込んでから話し合いを行うことで研究の質・量ともに高まった。こうした仕掛けづくりは教育委員会の役目だ。

佐賀県武雄市は授業公開で市の予備機を使って外部関係者が参加。自由に意見交流し、吸収することで学校がアップデートされていく。

埼玉県久喜市は授業参観の際にChatに教室の様子を記録・共有。地域の学校も閲覧できる。

難しくはないが地道な工夫や仕掛け、取組がDXにつながっていく。

教員研修を行うにあたっては、リスキリングの前に、何かを捨てる=アンラーニング(学習棄却)の視点を取り入れること。校務情報化でタイムカードを導入したが、印鑑も併用しており負担が増えたという事例をよく聞く。新しいものを足し算していくだけではいけない。

管理職の意識改革とビジョン構築を進めることも重要。先進校や先進地域は校長の意識が高い。福岡県筑前町で実施した管理職向けの生成AI活用研修では大学生とともに、まず教員が学び、そして校務や授業で使いこなすことを目指した。その先に児童の活用がある。

学校での活用を検討する以前に、家庭で活用が進んでしまう可能性がある点に注意が必要だ。

■自由に学べる環境で子供主体の授業へ

個別最適な学びが行われているかは授業を一見すればわかる。自分で選んで、自分で決める授業は使うツールもばらばらだ。

自己調整する学びは個々の学習ペースの保障が課題。家庭学習など授業以外の活動との連動も視野に入れる必要がある。

ふり返りの蓄積は子供たちの自己変容のメタ認知を促す。スタディログは子供の成果物だけではない。板書も教員のコメントも子供が活用するものはすべて学習履歴だ。

協働的な学びの場面を作り出す環境づくりを意識して行うことも重要。例えば、廊下に大きな机を置くだけでも、協働的な学びの発生につながる。

授業でクラウド環境が保障されているか。Chat活用やファイルの共有、共同編集のアクセス権限を子供が決めることができるか。他者や自分の考えを参照しながら、自由に学ぶことのできる環境づくりが主体的・対話的で深い学びを生み出す。

教員主導の講義型の学びから子供主体の課題解決型の学びへ移行する中で、教員が課題を設定し、子供と学習過程を共有しながら子供が自力解決していく「授業スタンダード」が出来上がってきた。

こうした授業の鍵は、課題設定がきちんとなされ、各自が課題を把握していること。教員の深い教材研究のもとで課題が作られることにより、深い学びにつながっていく。自由進度型や複線型の学びはあくまでも学習方法の再構築である。

クラウドを使って学校間の取組を共有し地域で連携して研修を行うことで課題設定や教員の働きかけが深化する。

【第106回教育委員会対象セミナー・福岡:2024年2月6日 】

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年3月4日号掲載

 

  1. 中村学園大学教育学部 教授 山本 朋弘氏
  2. 鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 所長 木田 博氏
  3. 福岡市教育委員会 教育ICT推進課 課長 永田 朗氏
  4. 奈良県立教育研究所 教育情報化推進部 主幹 小﨑 誠二氏
  5. 福岡市立百道浜小学校 校長 酒井 美佐緒氏
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