近畿大学総合社会学部の岡本健准教授は、自身がVTuber「ゾンビ先生」となり、YouTubeで動画投稿や配信を行いながら、教育や研究を進めている。専門はメディア、コンテンツ、ツーリズムの3領域。近年は書籍「ゾンビ学」を出し、ゾンビ先生として各種メディアで活躍。ゾンビ研究家としても知られている。
VTuber(Virtual YouTuber)とはCGキャラクターの動きや音声と合わせて動画配信や投稿を行う人を指す。
岡本准教授がVTuberとなった背景や理由はいくつかあるが、その中でもコロナ禍は大きなものだった。
コロナ禍となり、遠隔授業の必要に迫られた。教材動画を作ってアップロードしたが、当初、動画クオリティーに満足できなかったという。「これを見せられる学生は不憫だ」と感じた岡本准教授は動画の画質や音声などを改善したが、自分自身をどう映したらいいのか悩んでいた。
そんな時に知り合いの司書が女子高生アバターとなって動きながら話している動画と出会った。それがきっかけとなり、VTuberとして授業動画を収録・配信するようになった。
「ゾンビ先生の『YouTubeゾンビ大学』」では、大学の講義、ゼミ生たちによる研究成果発表、トークイベント、ゲーム実況動画などを行っており、視聴者層は学生から社会人まで幅広い。他大学の教職員も視聴しているという。学生が発表しているときも視聴者からの意見がチャット欄に投稿され、学生はその意見を次の発表の参考にするなど、YouTube上での発表が学生の発表内容やスキルの向上につながっている。
「YouTube配信はチャット欄でリアルタイムで質問を受け付けられるのがとても良いと感じています。一般の方からも質問が届くので、学生たちも研究発表をするときの緊張感が違います。準備にも力が入るようです。終わった後は非常に良い表情をしています。正のスパイラルが回っている感じで、やって良かったと思っています。チャット欄はとても穏やかで、専門的な知識を持った方も多く、私自身教えて頂くことが多いです。まさに情報空間上にある『ゼミ』『大学』という感じです」
YouTubeには授業動画やレポート・卒論の書き方の動画もアップしており、学生からは「授業で聞き逃したところをいつでも聞き直せる」「レポートの書き方の動画を何回も見て、満足のいくレポートが書けた」「自由度が高いので、学習をコントロールするのに苦労したが、その力が身に付いて良かった」と好評だ。
YouTubeでの配信・投稿は、大学を社会に開く可能性も感じているという。
「社会とのつながりが断たれると学生は『先生に従うことが正義』という感覚になってしまうことがあります。リスクをうまくマネジメントしながら、学生と一般社会との接点になれればと思っています」
VTuberについては、見た目や年齢、立場に関係なく、色々なことにチャレンジできる点が良いという。
「今後メタバースが今よりも簡単に実装できるようになったら、多くの人がアバターをまとって活動するようになるでしょう。これからはVTuberとしてネット上に登場することが当たり前になっていくかもしれません」
メディア・リテラシーについては「受け手としてのリテラシーも重要ですが、もっと前向きな、送り手としてのリテラシーも必要です」と強調。「YouTubeで研究成果を発表するとなると、指導教員だけでなく、一般の人々にも話が伝わるように工夫することになります。情報社会にの特性を理解した上でどうすれば人々は幸せに暮らせるのか、それを考えながら実践しています。学生たちにも問題意識を持ちつつ前向きに建設的に生きてほしいと考えていますし、それを伝えるための教育としたいと考えています」
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年3月4日号掲載