新潟大学は、人文学部、法学部、工学部、医学部など10学部を擁する総合大学である。旧制新潟医科大学と旧制新潟高校を核に、師範学校や各種専門学校が統合し、1949年5月に設置された。2024年は創立75周年にあたる。
同学は、世界に類をみないアニメ中間素材データベースを16年に構築。総合大学であることの強みを活かしたアニメ研究が行われている。
中間素材とは、脚本、絵コンテ、原画、セル画など、アニメ完成に至るまでに必要な素材群のことだ。これらは、作品完成後は散逸してしまう傾向にあった。
本データベースは、70年代から90年代にかけて活躍したアニメ演出家、渡部英雄氏から寄託された中間素材群「渡部コレクション」がもととなっている。
本コレクションにはアメリカや韓国をはじめとする海外アニメ産業との受発注関連素材も多く含まれており、アニメ制作会社も保有していない貴重な中間素材もあることから、アニメ業界からも高い評価を得ている。
同学のアニメ・アーカイブ研究チーム共同代表であり、アジア連携研究センター長である石田美紀教授は「セル・アニメ制作が発展し成熟を迎えた70年代から、アニメが子供向けの娯楽にとどまらず、日本社会全体に浸透していった90年代に産出された多種多様な中間素材は、アニメ制作の様々な段階におけるスタッフの協働作業の実態を証明するもの。こうした素材は、世界における日本のアニメ産業の位置を示すもので、グローバルに成長したアニメを産業形成という視点から理解するうえでも有効な資料であり、アニメ研究における第一級の歴史的資料となります」と指摘した。
渡部コレクションには半世紀近く前の中間素材も含まれており、劣化しないよう、すべての素材はスキャニングしデジタル化を目指している。
データベースは、情報工学の専門家である同学の今井博英准教授と同研究チーム共同代表を務めるキム・ジュニアン准教授が独自に構築。
「アニメ研究というと、人文系が中心を担うイメージがありますが、アニメは科学技術と不可分の分野です。アニメを理解するには、技術的な視点も不可欠だと考えています」
アニメ・アーカイブ研究チームには、情報工学の専門家だけでなく、セル画の保存を研究している高分子化学の専門家も参加している。
データベースの主な利用者は、研究者、中間素材の著作権者であるアニメ制作会社、アーキビスト(価値ある資料を保存・管理する専門職)たちだ。
本コレクションの利用については、図像は登録者のみ閲覧可能だが、テキスト版はネット上からログインなしで誰でも利用できる。
既にコレクションの中間素材を分析する論文や書籍が、日本語、英語、スペイン語などで書かれ、学会からも高く評価されている。海外からの問い合わせや同学への訪問も絶えないという。
本コレクションは、大学の授業にも活用されている。
アニメ中間素材を用いた演習講義では、学生たちはアニメ中間素材を解読し、自らのテーマを発見して発表しているという。
「視聴者の立場から一歩も二歩も進んでアニメという産業、技術、表現を理解します」
22年度に開催したアニメ中間素材展では、学生たちは展示や設営に参加し、会場係を務めた。
学外でも積極的に活動を行う。アニメ・アーカイブ研究チームの教員は、16年に開催された「文化庁メディア芸術祭新潟展」のアニメーション部門とマンガ部門のキュレーターを務めた。
また新潟市で開かれたアニメ・マンガイベント「がたふぇす」に学生たちがスタッフとして参加し、同イベントについて調査した結果を、新潟市の担当者にプレゼンテーションした。
同学は23年10月、新潟市、開志専門職大学とマンガ・アニメに関する連携協定を締結した。
3者は今後、マンガ・アニメに関する共同講義の開設をはじめ、アニメ中間素材の展覧会開催やアーカイブの運営などを計画している。
「大変厳しい時代に社会に出ていく学生には、自分の頭で考え、調べ、行動すること、つまりは道なき道を行く力をつけてもらいたい。そのために、アニメ中間素材はいろいろなヒントを与えることができると思います」
アニメ中間素材の保存・分析・活用は、アニメ研究のみならず、地域の価値の向上、学生の人間形成など、多分野における可能性を秘めている。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年2月5日号掲載