高校生のモバイルアプリ開発能力が素晴らしい。東京都教育庁は1月21日、初開催した「モバイルアプリコンテスト2023」の表彰式を執り行い、各賞が決定した。身近な課題をプログラミングで解決する力の育成は、文科省DXハイスクールでも目指すべき方向の1つとなっている。各賞及び全応募作品は特設サイトで紹介している()。
本コンテストは都内の高校生等を対象に募集し、初開催ながら33作品が応募。そのうち12作品が最優秀賞、部門賞(5作品)、審査員特別賞(6作品)として選出された。
応募者は個人もいればグループもある。最優秀賞作品を受賞した桜蔭高等学校1年椎葉友渚さんの「forme」は、自分の夢をかなえるための努力の継続をサポートするアプリ。未来の自分と今の自分が対話しながら日々の記録を残せるもので開発環境はSwift、XcodeVersionなど。「夢は皆が持っている。しかしそれに向かう努力は簡単ではない。それを少しでも支援したい」というのが開発目的だ。高度なプログラミング内容とデザイン性が高く評価された。椎葉さんは中学校2年次から週1回、プログラミング教室に通っており、本コンテストはその教室の先生から案内されたという。学校では「情報Ⅰ」でPythonを使ったプログラミングに取り組んでいるところだ。審査員は「高校生レベルを逸脱しておりデザインも優秀」とコメントした。
イノベーション賞を受賞した東京都立城南特別支援学校高等部2年ノイズローラ萌生菊池さんの「はよ帰ってきてくれ!」は、視線入力アプリを用いて制作。プログラミングは一昨年の夏から始めたという。自宅で1人でいるときの不安を解消するために制作。開発はJavaScript、HTMLだ。
このほかアイデア賞、デザイン賞、パフォーマンス賞、ネクストジェネレーション賞と審査員特別賞を選出。審査員特別賞は、6人の審査員がそれぞれのお気に入りアプリを選んだ。
江川課長(東京都教育庁総務部情報企画課)は、「複数のアプリが生成AI技術を活用していた。今後は、プログラミングコードを一から書くのではなくある程度AIに任せ、問題の発見や解決するための道筋を整理する力が一層重要になるだろう。これらは東京の未来、ひいては日本や世界で活躍する力につながる。今日はそれぞれの作品内容を聞くことで他の人の問題意識やそれを解決するアイデアを見て学ぶことも多かったのではないか」とコメントした。
各賞の内容を紹介する。
Swiftで開発。高等科1年加藤心和さんは、友達の誕生日を忘れてしまい、当日にプレゼントを用意できないことを申し訳なく思っていたことから開発。友達の誕生日や以前プレゼントしたもの、その友達からもらったプレゼント内容を記録。自分のスケジュールも登録し、誕生日プレゼントを用意する日程を予約・通知できる。
Unity・C#で開発。日本の伝統的な弦楽器である箏(こと)を演奏できるアプリ。開発者の1年谷有咲さんは筝曲部に所属。持ち帰って練習ができること、世界に箏の魅力を伝えることを目的に制作。調弦機能や録音機能、3ステップの学習モードも搭載。「デザインにこだわったのでデザイン賞が受賞できてうれしい」とコメント。
Kotlin、Android Studio Flamingo等により開発したのは2年の古沢颯己さん・石川陽史さん。電車で乗り過ごさないように降車駅を登録するとGPS機能で把握してアラームとバイブレーションで通知。位置情報で判断するため電車が遅延しても確実に通知できる。乗り過ごした場合も位置情報から最短ルートを検索できる。
Power Platform、Power Appsで開発。自分と同じ趣味を持つ人を見つけ、メッセージをやり取りできるアプリ。あると良いと思われるものをすべて盛り込んだ。開発者の4人(山口航輝さん・菊田竜成さん・五月女拓海さん・坂上智康さん)は中学生(前期課程1年)だ。
サーバーNextJS、データベース PlanetScale、クライアントReactを用いて開発したのは2年秋山弘幸さん・1年江口寛輔さん。難しい単語や専門用語を30文字程度で解説するもの。生物の授業中に出た言葉の意味がわからなくて調べたものの、理解できなかったことが本アプリ開発のきっかけ。
本アプリを選出したインプレスの鈴木光太郎氏は「小学生向けの解説など様々な発展性がある」とコメント。
Power Apps、Python、Firebaseで開発。文化祭イベントの運営等にかかる人手不足を解決する予約管理アプリ。予約者には遅延状況も通知。入場時は整理券番号を入力するとデジタルチケットが発行される。実際に文化祭で活用したがミスはゼロで遅延もほぼ発生しなかった。後期課程5年三保幸輝さん・奥村航輝さん・木村心亮さんが役割分担して開発。マイクロソフトの阪口福太郎氏は「複数の他社アプリを利用しており要件定義が素晴らしい。アプリの範疇を超えている」とコメント。
Typescript(NodeJS)等で開発。行きたい場所や日程、やりたいことを入力するとAI機能で旅行プランが日ごとに複数提案される。開発者の2年佐竹諒哉さんはアメリカで生まれ、8歳から日本在住で「トラベルアプリで日本に訪れる海外の人が増えるとうれしい」とコメント。blankcanvasの福井采音氏は「ユーザの挙動に耐えうるレベルまで達している。技術の選択もモダンでオープンAIをどこに設置するのか、セキュリティへの配慮などエンジニアとしての素養を感じた」とコメント。
Python(Flask)、JavaScript、HTML、CSSで開発。海外の方を対象に、ローマ字の名前を漢字表記に変換し、「漢字ネーム」を生成できるというユニークなアプリ。開発者は2年秋山弘幸さん。本アプリを選出したStudio947の狩野さやか氏は「様々な要素がバランスよく達成されており自然に使えるレベルに達している」とコメント。
Thunkable、Firebaseで開発。バランスの良いお弁当作りを継続しやすいアプリ。栄養バランスがわかるカラーテンプレートでその色にあったおかずを提案。作成したお弁当を記録できる機能も搭載。開発者の前期課程2年吉田祐梨さん・尾辻芽彩さんは「海外にも日本のお弁当文化を拡げることができる。今後はおかずレシピをより多く提案できるようにしたい」、本アプリを選択した東京都の宮原氏は「ユーザの課題設定が明確でターゲットを思いやる気持ちが具体化されていた」とコメント。
Power Apps、Dataverse、Automateで開発。バーコードをスキャンすることでこれまで買ったものの商品名や価格が入力される買い物リストアプリ。読書記録などにも使える。開発者は2年山本勇太さん。本アプリを選出した東京都の江川氏は「家族の要望を取り入れるなど身近な課題を解決したアプリの代表例」とコメント。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年2月5日号掲載