探究的な学びを通常授業に取り入れることで子供の主体性が高まるという事例の創出が始まっている。一方で、探究活動をどう進めれば良いのか、個人課題をどう設定すれば良いのかという悩みは多い。10月17日、(公財)中谷医工計測技術振興財団は科学教育オンラインセミナー「『学習指導要領改訂とその後』探究的な学びは生徒と教員をどう変容させるのか」を開催。中学校や高等学校の教員が登壇し、課題設定や進め方、考え方について示唆に富む討議が展開された。
■繁戸 高等学校では現在の学習指導要領で「総合的な探究の時間」が始まり、課題を発見して解決する探究活動が求められています。本校では長期にわたりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)として探究活動を行っており、教員が提供した課題、大学と協働する課題、自分が発見した課題それぞれに取り組んでいますが、自分の発見した課題に取り組むようになってから、生徒は、より主体的に楽しみながら進めるようになり、放課後や昼休み、休日に集まって研究活動に取り組む姿がさらに増えました。
理数科の研究活動の様子を普通科の生徒も見ており、普通科でもグループを作って探究する活動が始まっています。できるだけ自由な形で生徒が活動できる環境も重要です。
■青木 教員にとっても生徒にとっても課題の発見が、最も重要であると感じています。そこで本校では、毎時間、どんなことに気付き、疑問に感じたのかを記録するように呼び掛けています。
日常的な事象に結び付けるため、例えば中学校2年「気象」で湿度について学んだ際は「給食の牛乳パックや水筒に水滴がついていて机に置くと濡れるとき、濡れないときがある、どうしてだろう?」と声がけしています。「植物を窓から遠ざけるほうが、窓が結露しないかも」という仮説を立てた生徒がいて、二重窓や浴室の鏡が曇らない仕組みなど、教科を超えた疑問も生まれていました。
■大野 中高一貫校なので中学生から高校2年までの探究活動を担当しています。単元が終わるごとに探究活動を取り入れ、自分の課題を見つけて実験等に取り組んでいます。
探究活動の基本は「はてな」「びっくり」を何度も回すことであると伝えています。疑問を解決する中で「なるほど」にたどりつくと、次の疑問が生まれる。このサイクルを2度回してみようと声がけすると、中学生にも伝わります。この進め方が身に付くと、成長スピードが加速します。
また、戸外で1時間過ごして課題をたくさん見つける時間も設けています。比較するなどのポイントを示すことで、問は身近に無数にあることに気付きます。そうなると、登下校の途中で不思議をたくさん見つけることができます。
問を作る行為は人生そのものを楽しくすることにもつながり、生きる力につながります。
■大野 フィードバックスキルが最も重要です。アクションではなくリアクション能力です。
アクションは、予め教員が準備できますが、リアクションは準備できません。生徒のアクションに対して反応するものです。どんなリアクションができるかが極めて重要です。
よく使っているのは「Why」「How」です。
「この課題をやる」「この実験をやる」と決めている生徒に対しては「どうしてそれをやりたいの?」と抽象化を促し、「こんなことを疑問に思っている」とふんわり考えている生徒に対しては「それはどうやってやるの?」と具体化を手伝っています。
ここでさらに重要なのが、リアクションが「前向き」「肯定的」であることです。ファシリテータであること以上に、モチベーターであることが重要です。
モチベーションがなければ子供は主体的にはなりません。
生徒の問を教員自身が面白がれるとうまくいくのではないでしょうか。教員が面白がれば生徒のモチベーションも上がります。人を感動させるためには、まず自分が感動することが求められるのです。
教科横断的な取組を、教員同士で展開することもお勧めできます。光の学習を理科で行い、美術でランタンを制作し、英語で制作発表会を行うなど、意外と取り組みやすいはずです。
■青木 授業支援アプリが多くの学校で活用できるようになりました。本校でも付せんアプリを使って生徒同士の考えや気付きを共有し、評価し合っています。
生徒にとって、仲間の賞賛やアドバイスは大きなモチベーションになります。
評価も、端末とアプリを使うことで効率化できます。
探究のサイクルである「課題設定・情報収集・分析・まとめ」は、他教科でも積極的に取り入れられています。探究のサイクルを各教科で経験することで、子供の基本スキルが上がっていきます。
■繁戸 本校の1年生は全体で講義とワークショップを行い、新任教員も共に参加して学んでいます。
2年生の探究活動も、教員が複数入って行っており、生徒も、それぞれの教員の強みを判断して相談しています。教員同士の協働は重要です。
■山口 教員の足場を、教科書や系統的な学習内容から、生徒主体に移すことが最も重要です。生徒の気付き、したいことを中心に授業を構成することです。
研修のチャンスは身近なところにあり、積極的に出向くことで新たな学びや発見があります。
■大野 探究には、評価軸がたくさんあります。アイデア出し、課題出し、発表スキル、雰囲気づくりなど様々な活躍の場があり、生徒を褒める機会がたくさんあるのです。
その生徒の良いところを拾って褒め、モチベートしていくことが探究の評価の役割であると考えています。
■向 これまでの学力観からの脱却が重要ですね。
■大野 やることが決まっており成功か失敗かがはっきりしている実験=「レシピ実験」の一部を変更することで探究的な活動につながると考えています。
例えば時間、もしくは量、あるいはプロセスを変えるとどうなるかを考えるのです。するとレシピ実験を探究的にアレンジすることができます。
■青木 生徒が、何がわかっていて何がわかっていないのかを整理することをお勧めします。これを数分で良いので生徒同士で討議させ、整理させて新しい疑問につなげるのです。
■山口 教員は「教えるべき内容」を教えることに慣れていますが、探究は「教え方」の考え方が異なります。そこで、探究のフルコースではなくアラカルトで取り入れるということを提案しています。
例えば探究のサイクルのうち、課題出しは子供ベースで行う、もしくは討議を重視するなど、一部に探究的な活動の要素を盛り込むことから始めるのです。
本物を見て気付いたことを考える、データを見て討議することの両面を織り交ぜていくことも重要です。
■繁戸 自分で課題を発見することは簡単ではなく、現在も苦労している部分はあります。
本校ではあせらず、時間をかけてグループで話し合い、教員が声がけをしながら引き出しています。
■繁田 探究活動が始まった16年前、大学入試には役立たないと言われてきました。しかしSSHとして探究に取り組むことで、進学実績は伸びました。本校の卒業生は、ゴールに向かってプランニングする力がついたと言っています。また、大学入試も多様な入試が増えており、グループ研究であっても、主体的に取り組んでいた生徒は研究活動を活かした受験に挑戦しています。
中には「いきなり探究が入ってきた」「どうやって良いかわからない」と感じている教員もいるかもしれませんが、探究の楽しさが定着すれば活発な学習活動になるので、ぜひ楽しんでもらいたいと考えています。
■大野 探究活動を意識した大学入試は確実に増えています。探究活動の経験により頭の使い方が鍛えられており、新しい入試に対応しやすいと感じています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年11月6日号掲載