文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を7月4日に公表し、生成AIパイロット校を公募するなど、教育現場における適切な生成AIの利用方法の検討を進めている。ソフトバンクが新たに開発した「生成AI活用入門教材」の実証授業が8月30日、茨城県立竜ヶ崎第一高等学校(太田垣淳一校長)で行われ、同校1年生が生成AIについて学んだ。
同校は2021年度よりBYODでWindowsPCを導入している。「生成AI活用入門教材」は、中高生を対象としたAI活用人材を育成するための教育プログラム「AIチャレンジ」の導入校向けに開発されたもの。同校では昨年度の実証を経て今年度から「AIチャレンジ」を導入し、総合的な探究の時間に取り組んでいる。
「生成AI活用入門教材」では、ChatGPTを始めとする生成AIの基本的な知識やプロンプト(指示)を工夫した効果的な活用方法、倫理的問題などを体験しながら学ぶことができる。教員向けに学習指導案や指導用動画、ChatGPT活用ガイドもあわせて提供される。本実証授業ではソフトバンク社員が講師を務めた。
生成AIとは事前学習したAIモデルがプロンプトに従って新たな内容を作り出す技術のこと。文章の生成やアイデアの提供、会話が得意で、正確さや最新性、計算の分野の確実性は低い。
生徒はChatGPTに計算問題や観光地などを尋ねた。指示があいまいだと正しく答えないこともあり、役割やシナリオ、制約文などを設定して目的や条件を明確化すると回答の精度が高まる。画像生成AI用の英語プロンプトをChatGPTで生成する裏技も試した。これは日本語のプロンプトでは良い結果が得られない際に有効だ。
生成AIをシステムに組み込むことができるAPI(Application Programming Interface/ChatGPTでは有料版で提供)を用いれば活用の可能性が広がる。
生徒は「生成AIはどのように活用できそうか」についてGoogleフォームで回答。実現性や活用度などを判定・点数化して返却された。これもAPIによる仕組みで、生徒の回答が自動転記されたExcelとChatGPTを連携させている。
最後に、活用時の注意点として偽情報や著作権侵害のリスク、個人情報保護など倫理的問題、情報の真偽を確かめるファクトチェックの6つの心得を伝えた。
授業後、生徒は「画像生成AIの著作権問題は身近でも話題。考えを深める機会になった」「学級活動で案を絞る時や授業で分からないことを質問していたが必ずしも正確ではないことを初めて知った。計算など生成AIの苦手分野を知ることができた」「ニュースの情報から怖い印象があった。今後は上手に付き合っていきたい」と話した。
「AIチャレンジ」の開発担当者は「生成AIを使いこなせる人材を育成するためには、生成AIから結果を引き出す技術だけでなく生成AIを活用して何ができるかを考えることが重要。そのため、AIの歴史やGPT(大規模言語モデル)とChatGPT(GPTを用いたチャットサービス)の違いなども盛り込んだ教材とした。次世代で不可欠なテクノロジーを学校で学ぶきっかけになれば」と話した。
生成AIの活用はインターネット検索と同じように当たり前のものになる。効果を見極めるためにもどんどん使っていくことが重要。生徒の勢いを損ねないようにしなければならない。
探究の焦点は思考のプロセスや課題解決であり技術を使うことではない。プロトタイプの作成などにも生成AIを使うことができれば、思考する時間の充実につながるだろう。
校務では式辞や寄稿を考える際の骨組み作りに生成AIを利用しており、業務時間が短縮される。
英語の文章作成の精度が高く、国際交流イベントのウェルカムスピーチでは、より自然な表現であいさつができた。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年10月2日号掲載