栃木県壬生町教育委員会(小学校8校・中学校2校)では、文部科学省事業「リーディングDXスクール」において壬生東小学校と南犬飼中学校を指定校に、壬生北小学校、安塚小学校、壬生中学校を協力校としている。そのうち壬生北小学校では7月より既存端末のOSをWindowsOSからChromeOSに入れ替える実証を開始。OS入れ替え後、初の授業では、筐体はこれまでと同じPCであるにも関わらず、立ち上げたとたん「新しいPC?」「速い!」と言う声が教室にあふれたそうだ。同教育委員会の稲木健太郎指導主事に、リーディングDXスクール事業参加とOS入れ替えの目的について聞いた。
GIGAスクール構想時、校務で使い慣れているOSであったことなどから、本町ではWindowsPCを選択しました。各校のネットワークは光回線の1Gbpsを各校ローカルブレイクアウトで接続しており、スムーズに動くであろうと考えていました。しかし実際に活用が始まると、端末の立ち上がりは遅く、ファイルやアプリを開く度にかなり時間がかかる状況でした。「文房具のように端末を使う」目標がありながら、まるで「筆箱から鉛筆を取り出すごとに30秒かかる」状態でした。
そこで本町の田村幸一教育長の「回線速度を増設すれば良いのではないか」という後押しもあり、21年度に回線を10Gbpsに増強。しかし活用のスムーズさには課題が残りました。
ネットワークだけの問題ではない。ではクラウド環境を変えてみようと22年度からGoogleWorkspace for Educationのクラウド環境を試行することとしました。
すると各種アプリへのアクセスや共同編集などのスムーズさが格段に改善されました。そこで23年度から本格的にクラウド環境を移行しています。端末のメモリが4Gということもあり、端末の起動にかかる時間はこれまでと変わりませんでしたが、その後の活用における速さやスムーズさが変わりました。
その中で出てきたのが次の端末の更新です。
Googleのクラウド環境をさらに活かすためには次の端末をChromebookに更新する選択もあるのではないか、しかしOSの変更は子供や教員に負担が大きいのではという議論が始まりました。
田村教育長の「端末の更新を見据え、1校で先んじてOSを入れ替え、より良い学習基盤づくりに必要な準備を進めよう」という声もあり、リーディングDXスクール協力校である壬生北小学校で、「ChromeOSFlex」事業を開始しました。
教員と児童用端末約100台のOS入れ替え作業は、教育委員会、ICT支援員など5・6人で行いましたが予想以上に簡単で、2~3時間程度で終了しました。小学校高学年や中学生であれば自力でできそうな作業内容です。
OSの入れ替えが学力や資質・能力の向上にすぐに結びつくわけではないとは思いますが、情報活用能力の育成や自己調整学習などにつながる学習基盤になるという予感がしました。
クラウド環境を前提として生まれたOSならではの良さが今後生きていくのではないかと考えています。
一方で、OSを入れ替える前に必要になる準備や入れ替え後の設定管理も見えてきました。「ChromeOS Flex」を利用するためにはChrome管理コンソール(CEU)を購入して設定を変更する必要もあります。その知見を蓄積して端末更新をスムーズに行いたいと考えています。
11月には町内全校のGIGAスクール構想担当者と共に壬生北小学校の活用の様子を参観する予定です。
学習基盤の改善は図られているものの、「個別」「協働」「遠隔」など多様な学習形態が同時に存在する学びの意義を理解するためには、授業観や学習観のアップデートが必要です。
しかし、研修で講演を聞くだけの取り組みや、自治体や学校での試行錯誤だけでは実現することが難しいこともあります。
そこで、文部科学省「リーディングDXスクール事業」に手を挙げました。
先進地域の授業を見て自治体の皆でイメージを共有すること、学校DX戦略アドバイザーの継続的な支援を得ることなどを積み重ねて、本町ならではの「令和の日本型学校教育」を実現したいと考えました。
現在は、クラウドを基盤とした校務により先生方が日常的にクラウドの良さを体感できるようにしたり、研修でもクラウド環境に支えられた自由進度学習を体験できるようにしたりして、目指す授業観や学習観の共有を図るようにしています。
9月19日、壬生北小学校(岸本和子校長・栃木県)で行われた研修会では学校DX戦略アドバイザーである佐藤和紀准教授(信州大学教育学部)が各クラスの授業を見学。授業後は授業者の現在の悩みや迷いにアドバイスした。
佐藤准教授は「OSが変わって少しずつ授業のつくり方が変わっているところ。これまでと大きく異なるのは、板書やGoogleClassroom上に学習のプロセスを記載している点、Classroom上でワークシート等を共有して皆の書き込みを見ながら自分の考えを記入する場を用意している点。これは子供に学びを委ねる第一歩。委ねようとした結果うまくいかなかった点を修正しながら授業改善を続けていくと1か月ほどで教員も子供も慣れ、力をつけていく」とコメント。
児童の思考の質を上げるポイントとして「自分の考えを記入したり意見交換したりする前の個人の活動を十分に行うこと」を挙げ「教科書のテキストや1枚の写真などから読み取れる『事実』をたくさん出し、思考ツール等で整理したり分析したりしながら自分の考えを構成していくことで、新たな考えや発見が生まれる。この活動をどの教科でも繰り返し行うことで思考の質やスピードが上がっていく」と話した。
OSを入れ替えて初めての6年生の授業に立ち合いました。筐体はこれまでと同じPCであるにも関わらず、立ち上げたとたん「新しいPC?」「速い!」「気持ちいい!」という声が教室にあふれたのです。「挑戦してみて良かった」と感じました。
使い始めてまだ2週間足らずですが教員も子供も起動や操作にかかる待ち時間のストレスがなくなり、学習の進み方も明らかに速くなっています。今後は、この環境を活かした学びに学校全体でチャレンジしていきます。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年10月2日号掲載