8月19日、第4回ソフトバンクGIGAスクールサミットがハイブリッドで開催された。参加申込者は約700名。人数限定で30人が会場参加し、オンラインの参加者はチャットで質問や意見を届けた。当日は「ICTのある日常 知ろう!楽しもう!想像しよう!丸ごとGIGAスクール 新たなアイデアヒントの発見」をテーマに、全国の教員が実践を発表。主催はソフトバンク。同社は本サミット第1回からアーカイブ配信を提供している。
柏木陸照本部長(ソフトバンク法人事業統括公共事業推進本部)は冒頭、「本サミットは、人と人とのネットワークに焦点を当て、教育分野における新たな知恵を創造する目的で開催している。技術と人のネットワークによる新たなデジタルトランスフォーメーションの知見を共有して日本の教育を変えるきっかけとしたい」とあいさつ。
第1回からモデレータを務めている小崎誠二氏(奈良県立教育研究所教育情報化推進部主幹・奈良教育大学客員准教授)は、「ICTのない日常生活はもうあり得ない。一方で学校はどうか。使わなければだめという論理ではなく、日本の様々な課題――少子高齢化、多様性のある社会への対応やそれに伴う教員の多忙感、教員離職者の増加などに対応していこう、そのために知見を共有しようという流れが重要」と話した。
藤坂教諭は「ツール活用に制限をかけないことで子供たちがどんどん新しい使い方を発見している。重要なのは『ICTも』選択できること。活用の進捗に学年で格差が出ないように意識的に職員室で情報交流している」と報告した。
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全校生徒102名・全学年単学級で1年生から自転車による集団登校をしており、児童は登校すると健康観察情報に自分の体調や下校方法を入力。教室では子供同士がGoogle Classroomでつながり日常的に情報共有。「JamBoardに意見を入れておいて」「スプレッドシートに実験結果まとめておいた」などの声が日々飛び交っており、学校図書館にあるお勧めの本もオンラインで積極的に紹介し合っている。
不審者対策訓練では、これまで教員の連絡で使っていたトランシーバをやめ、Google meetで各教室にいる学級担任の情報端末で情報を共有することとした。トランシーバによる連絡はタイムラグが生じるためだ。
本部が各教室の教員端末に指示を送信し、児童はその指示に従って「教室を施錠する、バリケードを作って身を隠す」などの訓練を行うことができた。
地域の協力のもと、昨年10月に「道の駅」を会場にして行った大谷地フェスティバルイベント「つなぐ・つながるプロジェクト」に全校で取り組んだ。3・4年生は米販売に、特別支援学校はポップコーン販売に挑戦。情報を収集しながら価格設定について話し合い、宣伝のためにKeynote(キーノート)を使いCMを制作し繰り返し流していた。1、2年生はプラスチック廃材を再利用した花壇に地域の方々と植栽活動を行ったり、育てたサツマイモを販売。5・6年生は、紙漉き体験によるカレンダー作りなど、探究しているSDGsの取組を発表し、地域の方々と交流した。これらの取組は、環境省グッドライフアワードで「子どもエンパワメント賞」を受賞している。
森町(小学校5校・中学校2校)では児童生徒用端末として3年契約でiPad第7世代を活用しており今年度9月から端末の入れ替えを開始。第10世代の5年契約とした経緯を石井氏が報告。
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iPadは当初、全児童生徒と教職員分1104台を導入し、Wi―Fi+LTE(20GB)でMicrosoft365を主に活用している。LTE回線なので自宅や校外でも気軽に活用することができ、順調に活用が進んだ。漁港である森町では漁船に乗り込む体験活動があるが、全員は乗船できないため、乗船した児童がiPadでライブ配信を行うなど、様々な活用が広がっている。教育委員会が契約しているLTE回線を利用することでセキュリティ面の安全も図っている。
3年間のリース契約が終わり、次の端末を検討。校内外で活用しており動画や写真、ボイスレコーダー等音声活用のニーズが高いため、新規入れ替えの際もiPadを選択。端末スペックを上げ、第10世代の5年契約とした。
3年契約から5年契約とした理由は、第10世代となることで前回整備よりも本体予算が上がるものの、予算感が大きく変わりすぎないようにしたかったこと、3年間使ってみてもう数年活用できそうであると感じたこと。児童生徒数の減少から必要台数が減ったことや町長がICT活用に先進的に取り組む方針を出していることもあり、理解を得ることができた。
新居浜市(小学校16校・中学校11校)は、小学校ではiPad、中学校ではChromebookが導入されている。いずれもLTE回線を使用でき、校内Wi―Fiともつながる。眞鍋教諭は2020年度に立ち上げた新居浜市ICT活用研究会(通称「アイカツ」)の小学校代表を務めている。
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全国学力学習状況調査によると、本校の約7割が「ほぼ毎日ICTを活用している」と回答している。第2回の本サミットでは「Jamboardで起こる共有トラブル」について報告したが、現在は、日常活用により児童自らツールを選択して学び、主体性が発揮できるようになってきた。アウトプットの幅も広がった。
個別学習の時間も充実。休み時間には、それぞれの課題感や興味関心から、漢字や計算ドリル、タイピングやダンス練習、プログラミングや係活動連絡など端末を上手く活用している。
アイカツでは月1回の定例会と年1回のイベントを行っており、自由参加としている。3年を経てベテランとICT、若手とICT、それぞれの強みがわかり、可能性を感じているところ。アイカツを、ブラッシュアップとアップデートのためのハブとしたい。
大阪府立思斉支援学校(小学部100人・中学部120人・高等部136人)は1940年に創立した日本で最も歴史ある知的障がい支援学校だ。一昨年度、ICT全般に係る活用アドバイザーとしてソフトバンク(株)と契約し、校内プロジェクトチームを立ち上げた。本イベントでは2年目の成果について酒井教諭と吉田教諭が報告した。
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1人1台端末(iPad)の活用について、教員のみでプランニングし推進するだけでは大きな成果は得られないと考え、ソフトバンクに業務をアウトソーシングすることとした。教職員等は170人と多く、まず教員がiPadを日常使いできることが重要と考え、校務活用でGoogleドライブ・チャット・カレンダー等のツール活用を始めた。企業の知恵や仕事を効率化する知見のアドバイスにより、これまで当たり前と考えていた仕事の進め方についても見直すきっかけとなっている。
プロジェクトでは目標ごとにワーキンググループを立ち上げて進めている。そこでは授業の実践事例も共有。iPadで電車の券売機の仕組みを再現し、切符の購入方法を繰り返し練習するなど興味深い事例の報告も増えている。
教員がiPadを支援ツールの1つとして日常使いしていくことで、児童生徒が自らやってみたい気持ちになる環境を整えていきたいと考えている。
第1回 https://ml.visuamall.com/ml6/giga_summit/login/login.php?c=NzA1
第2回 https://ml.visuamall.com/ml6/giga_summit_2/user/menu/menu.php?c=NzIy&m=0
第3回 https://ml.visuamall.com/ml6/giga_summit_3/login/login.php?c=NzQ0
和田 生成AIはChatGPT(有料版)のほか、画像生成や音楽制作、スライド制作などで利用している。
例えばChatGPTでは、条件を示して「授業案を3つ考えて」と指示し、そのうち良いと思ったものについて「より詳しく」等と指示。思いもよらないアイデアが出てくるので授業準備前のアイデア出しに良いと感じている。
保護者からの意見まとめにも活用している。意見をすべて入力し「簡潔に要約して」と指示すると箇条書きでまとめてくれる。また、保護者からの質問を入力し「この質問について誠意ある回答を考えて」と指示すると、網羅的に整理された回答が生成されるので、参考になる。
ChatGPTにより思考整理や情報整理が迅速になると感じている。一方で、ChatGPTが提案する授業よりもさらに面白いものを考えよう、という気持ちにもなる。
大崎 生成AIは、先生たちの活用だけでなく、保護者に許諾をとり生徒も使っている。
生成AIが搭載されたCanva(キャンバ)は、画像検索・編集ができ、日本語で指示ができる。無償版では50回までお試し利用できるので、生成AI体験にお勧めする。
例えば、ChatGPTに「私は小学校教員です。創造力を育む学びで何をしたらよいのか100文字でまとめて下さい」と指示すると、それなりのアイデアを出してくれる。しかし、AIが行っているのは情報整理であり、クリエイティビティとイコールではない。
生成AIを使うか使わないかの議論ではもう終わらない。生成AI活用を前提として、出てきたアイデアを修正していく感性を育むために何を学ばなければいけないかが問われている。
稲垣 高校生や大学生は既にレポート等で生成AIを利用している。本学では5月に指針を出し、どのような内容で生成AIを利用したのかについても記載することとしている。
卒業論文の添削で利用してみたところ、良いところと課題が網羅的に指摘されており、こういう褒め方もあるのか等、興味深かった。AIの視点は独創的という類ではなく、統計的で網羅的。そういう観点で活用できる。
今後は使うか使わせないかという議論ではなく生成AI活用を前提としたクリエイティビティの育成を考えることが重要になるだろう。
和田 指示や条件を出す力と、出てきたものをチェックして修正・さらに改善していくマインドを育むため、使うこと前提のプロジェクトや授業にシフトして授業のつくり方や単元の考え方を再構築する段階にある。
小崎 奈良県では生成AIとして先生たちがGoogle Bardを使えるようにしている。一部の学校では保護者に了解を得て授業での活用も進めている。
AIを使ったほうがいいこと、悪いことがあるという感覚は子供も持っている。先生が、卒業文集に掲載する文章や自分の将来像についてAIを使って書いてもいいよと言っても子供たちの中から「自分で考えなければ意味がない」という意見が出る。AIは検索結果をうまくまとめたもの。しかし、自分の頭の中にあるものは検索できないので反映されない。
先生にとっては、AIが得意とする情報をまとめることなど、任せる部分は任せることで、自分が大切にしたい部分に時間を注ごうと改めて思うことができる。「書く」ことが苦手な子供にとっては、生成AIの文章整理・作成能力は参考になる役に立つツールになる。
ある学校では、グループ討議で、生成AIをグループの一員、1人の人格として討議に参加させていた。異なる視点からの意見が出て、討議が深まっていた。教育効果を下げてしまうような活用を見抜くためにも学校は体験を重視していくべきだろう。
新保 所見欄の文例集を参考にする教員は多い。生成AI利用も本質的にはこれと似ている。生成AIのコメントに違和感を持てる感覚を育むためには、ICTができないことに一層時間をかけること、即ち実体験であり豊かな時間の使い方がポイントになる。
和田 生徒自身が自分に必要な問題をAIで作成してAIで添削する、という時代がすぐにやってくる。学校で本当に必要な学びが何かを純粋に突き詰めていくことが一層重要だろう。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年9月4日号掲載