三重大学はキャンパス内に、数理・データサイエンス館(Center for Mathematical and Data Science、以下CeMDS)を2020年4月に開設した。CeMDSの基本コンセプトは「学生同士の学び合い」。学部生が抱えるIT機器やデータサイエンスについての疑問や悩みを、大学院生が対応し、解決に向けてサポートする。開設以来、文系、理系を問わず学生に活用されている。
CeMDSは3階建てビルで、1階はメイカーコモンズ、2階はデータサイエンスコモンズ、3階はコラボレーションコモンズで構成。
1階のメイカーコモンズは「メイカースペース」と「サポートデスク」だ。メイカースペースは、レーザー加工機、3Dプリンター、デジタルミシンなどを備え、これらICT機材を使ったモノづくりができる。
学部生は、3Dモデルを作成したり、レーザー加工機でスケールモデル(縮尺に基づいて忠実に再現した模型)を作ったりと、自分の研究テーマに基づいたモノづくりを大学院生のサポートを得ながら行える。
一方サポートデスクは、ICT、データサイエンス、ラーニングの3分野についての相談を受け付けており、こちらも大学院生が対応している。
具体的な相談内容としては、ICT分野では、PCに関するトラブル(PC設定方法、スマートフォンやクラウド活用、情報セキュリティなど)、データサイエンス分野では授業内容など、ラーニングサポート分野では文献の検索方法やレポートの書き方、プレゼンテーションの組み立て方についての相談が多いという。
大学院生ではサポートしきれない相談内容については、必要に応じて教員や技術職員が対応する。
2階のデータサイエンスコモンズにはレクチャールームがあり、プロジェクターや大型ディスプレイを備える。文献検索・書籍コーナーでは、PCで文献検索が行え、データサイエンス関連書籍の閲覧もできる。
3階のコラボレーションコモンズには、数学分野の分からないことを気軽に相談できる「数学何でも相談室」と、サマーセミナーやオープンキャンパス、そのほか科学関連イベントの企画会議や作業を行う「自然科学系技術部」がある。
3階には2つのスタジオも備え、講義用ビデオの撮影や各種コンテンツ作成などに幅広く利用されている。
三重大学データサイエンス教育センターの奥原俊氏は「CeMDSでは、相談する学部生だけでなく、大学院生もサポート業務を通じて、新たな知識や情報を得ており、学生同士の協働が実現しているのが特色です」と話す。
大学としてはCeMDSでの活動により、学部生が社会に出た後も新しいテクノロジーを苦手意識なく扱える人材になることを期待している。
一方、大学院生はCeMDSにおけるサポート業務を通じて、卒業後はIT関連機材の管理運営や統計、機械学習などの理論を用いて課題解決ができる人材となることが期待されている。
現在、小中学校において、様々なITツールを用いた協働的・体験的な学びが実施されつつあり、22年度からは、高等学校で情報科目が必修化されるなど、データサイエンスに関する教育が本格的に始まっている。「こうした実情を踏まえて、大学においては、小中高で学ぶ情報リテラシーやデータリテラシーの先にあるものを教える必要があると考えています」
大学の必修科目は1クラスの規模が大きいこともあり、座学中心になりがちだ。「座学の内容は、高校などで学ぶ内容と重なる部分があります。そこで座学では、数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムや他大学で公開されている良質のビデオ教材や資料を活用して、復習することも考えています」
三重大学では今後、こうした座学に加えて、体験型学習を取り入れたカリキュラム編成を、大学初年度教育で実現させていく考えだ。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載