大阪府門真市(小学校14校・中学校6校)は「客観的な根拠を重視した教育政策の推進(EBPM※)」に取り組んでおり、2021年度より学習eポータル+AI型教材「Qubena」(COMPASS)を全小中学校で導入している。その学力向上効果について2022年度、慶應義塾大学SFC研究所の協力により検証したところ小学校・中学校のいずれの教科においても、週あたりの利用頻度が高くなるほど学力が高い傾向にある。また、小・中学校別、教科別、学力層グループ別で、学力向上との相関を左右する要素が異なることがわかった(※Evidence Based Policy Making)。
学力により効果のある取組が異なる傾向
検証を行った対象児童生徒と教科は次。▼門真市の全市立小学校3・4年生及び中学校1年生▼小学校算数・国語/中学校数学・国語・英語・理科・社会
小学校は「門真市学習到達度調査」、中学校は「大阪府チャレンジテスト」を各2回実施。それぞれ「事前・事後テスト」と位置付け、2回のテスト間に利用された学習eポータル+AI型教材「Qubena」の学習ログを20項目収集した(利用頻度・問題量・時間帯・機能・使用した時間・取組方・取組結果など)。これら学習ログと事前・事後テストの変化の相関を教科ごとに検証。また、中央値で学力層グループを2つに分け、高学力層・低学力層ごとの傾向を分析した。
全教科で学力が向上しており、Qubenaの積極的な活用による学力向上効果が示唆された。また、学校種別、教科別、学力層別それぞれにおいて、学力向上に影響の大きい指標の傾向が明らかになった。
小学校・中学校とも全教科において、Qubenaの利用頻度が高い子供ほど事後テストで正答率や偏差値が高い傾向。
小学校では週に1日Qubenaの利用頻度が増えることで、国語の正答率が7・9ポイント、算数の正答率が11・6ポイント向上。
中学校では利用頻度が1日増えることで教科により偏差値が0・3~0・9向上する傾向だ。
門真市では主に授業中にQubenaを利用しており、家庭学習、朝学習での取組も見られた。そのうち特に学力向上に影響が大きかったのは授業中の利用だ。
小学校算数では授業中に週20問取り組むことで正答率が9・2㌽向上する傾向。なお家庭学習・朝学習での利用が効果的となった教科もあり、適切に組み合わせた活用が有効であるとしている。
中央値より上位の高学力層では、小学校算数及び国語と中学校理科において「問題一覧」に掲載された課題に取り組むほど学力が向上する傾向。
小学校算数では週に10問「問題一覧」の取組が増えると正答率が4・2㌽高くなる。また、中学校数学及び社会では「習熟度」(Qubena独自のスコア)が高くなるほど学力が向上する傾向が見られた。
中央値より下位の低学力層では、小学校の算数及び国語でQubenaのAIを活用した復習機能「5分間復習」で取り組む問題数が多いと学力が向上する傾向。
小学校国語では週に1問「5分間復習」の取組量が増えると正答率が2・7㌽向上。
中学校数学及び英語ではQubenaの「正答率」を高めると学力が向上する傾向が見られ、中学校英語では「正答率」を10%高めることで偏差値が4・2向上する傾向にある。
本市では、次の3点「子どもたちへの基礎基本の定着」「教員の授業改善」「質を落とさない働き方改革」を推進しており、その一環でQubenaの導入を決めました。本教材により、自学が可能な子供は自分のペースで主体的に学ぶことができ、教員は支援が必要な子供に多くの時間を割くことができます。本結果を全校に周知して教員による支援とICTのベストミックスによる個に応じた教育活動をさらに進め、すべての子供の力を確かなものにしたいと考えています。
今回の分析は、門真市から提供を受けた学力調査の結果とQubenaの学習ログを組み合わせて行いました。事前の学力の影響を制御した「付加価値モデル」を用いた推定を行っています。子供たちの学校外学習(家庭学習や、塾・習い事ほか)などの影響は制御できていませんが、利用頻度と学力の間に正の相関があることが明らかになっています。
「GIGAスクール構想」により1人1台端末の利用が急速に進む中、どのような利用法が子供の能力を高めることにつながるかという科学的な検証は今後ますます重要になるでしょう。
AI機能で児童生徒1人ひとりの習熟度に合わせて最適な問題を出題するドリル教材。㈱COMPASSが提供。2021年度に小学校・中学校の5教科対応版を、22年9月にMEXCBTとの連携を行い、学習eポータル+AI型教材「Qubena」として学習eポータルのサービス提供を開始。現在、全国170以上の自治体、小中学校約2300校で100万人以上が利用。「MEXCBT」を始め校務支援システム「EDUCOMマネージャーC4th」や「ツムギノ」との連携や、高知県や奈良市が保有する自治体独自の各種データ利活用基盤との連携を実現している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載