学習者用デジタル教科書の特別支援機能には、ビューアによる機能に加えて各教科書会社独自の仕組みもある。大日本図書の特別支援機能の特徴をデジタル事業部に聞いた。同社は新ビューア「つばさブック」を次年度より小学校及び中学校のデジタル教科書に搭載する。現行版の学習者用デジタル教科書のビューアは、小学校版「まなビューア」、中学校版「みらいスクールプラットフォーム」である。
学習者用デジタル教科書には読み上げ機能が搭載されていますが、これまではその定義から朗読音声を入れることができませんでした。2024年度に本格導入される英語(並びに翌年度の本格導入を見据える算数・数学)のデジタル教科書からこの制限は撤廃されますが、本格導入以外の教科では依然として朗読音声を入れることができません。また、以前から「デジタル教科書の機械音声による読み上げ機能は不自然で聞き取りにくい」という声が寄せられていました(※1)。そこで当社では、機械音声による読み上げ機能(以下、読み上げ機能)がより自然な日本語に聞こえるように、事前処理にかなりの手間をかけています。
OSに搭載された読み上げ機能は便利ですが、特に小学校段階の教科書の読み上げには向いていない面があります。
教科書本文には該当学年の既習漢字のみ使用するため、漢字・平仮名が混じった語句が多くあります。また、理科や算数で使用する単位も独特です。例えば「水とう」=「すいとう」、「1Lます」∥「いちリットルます」と認識して読み上げることは、一般の読み上げ機能では難しいものがあるのです。これらの読み方に丁寧に指定を入れていくことにより、正確かつ自然で滑らかな機械音声を実現しました。ユーザからは「大日本図書のデジタル教科書の読み上げ音声は自然で聞き取りやすい」と高評価を頂いています
新規で開発した「つばさブック」はさらにバージョンアップしており、人の読み上げと比べても遜色のない自然な機械読み上げを実装することができました。教科書紙面の文字をタップすることで読み上げる機能も搭載しています。
(※1 2021年度「学習者用デジタル教科書のクラウド配信に関するフィージビリティ検証」成果報告書<概要>p.9)。
行間や文字の大きさを変更できる「リフロー表示」も利用できます。教科書紙面では内容を把握できなかった部分をリフロー表示にすることができます。例えば中学校理科の紙面を、敢えて縦書き表示にすることで焦点化され、図版と本文の流れが理解しやすくなった子供もいると聞いています。
「つばさブック」ではリフロー画面を教科書のどの位置にも表示でき、縦書き表示にも対応しています。
「つばさブック」で新たに搭載した、AI翻訳による「多言語読み上げ機能」は12言語(※2)に対応した特別な支援の1つです。文部科学省の調査によると、管轄下に日本語指導が必要な外国籍児童生徒等が「全くまたはほとんどいない」自治体は38%にすぎず、半数以上の自治体に外国籍児童が在籍しています。また、外国籍児童生徒の母語で最も多いものはポルトガル語ですが、地域によってニーズは大きく異なり、中国語、フィリピノ語、スペイン語と多岐にわたります(※3)。
各自治体で様々な支援を行っているものの、教科書の内容を母語で聞き、読むことができれば、日本語が理解できなくてもある程度学習を進めることができます。
「多言語読み上げ機能」も独自のノウハウで精度を高めています。外国籍児童生徒のために開発した機能ですが、日本人が外国語学習で活用することも考えられます
(※2 ポルトガル語、中国語《簡体・繁体》、英語、韓国語、フィリピノ語、ベトナム語、スペイン語、ネパール語、インドネシア語、タイ語、ウクライナ語に対応。学習者用デジタル教科書+教材に標準搭載。学習者用デジタル教科書にも別途追加が可能)
(※3 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について 2022年10月)。
「書くこと」が困難な子供にとっても学習者用デジタル教科書は大きな支援になります。ペン機能やテキスト入力機能に加え、教科書の図版やテキストの任意の場所を抜き出してGoogleスライドやロイロノート、Microsoft Teams上に貼り付けてまとめることができます。紙のノートにまとめることが苦手だった子供でも、デジタル教科書を利用することで隠れていた能力を発揮できる可能性があります。
今後も1人ひとりが学びやすく心地よい学習環境を自ら選択できることに寄与したいと考えています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載