大学入学共通テストの「情報」導入決定以降、高等学校「情報」の学びへの注目が高まっている。
高等学校「情報」の学びを円滑にするためには小・中・高の連携が重要なことは言うまでもない。しかし、「小学校によりバラバラだ」、「中学校ではこんなことも教えられていない」など、下の学校に対する問題指摘をよく聞く。単なる批判だけでなく、異なる学校段階の状況を相互に理解し、議論することで、各段階での内容体系や指導内容の見直し・改善につなげていく必要がある。その一助として、まず中学校での情報の学びを考えてみたい。
中学校においてプログラミングなどの情報技術を教えるのは、技術・家庭科技術分野(いわゆる技術科)である。
技術科では、2007年より制御系プログラミングが必修とされており、これは世界的にもかなり早い対応であった。2017年の学習指導要領改訂ではネットワーク系プログラミングも追加されるなど、ある意味高等学校よりも先行している。技術科の検定教科書を見て頂くと、その内容に多くの方は驚かれるであろう。
もちろん技術科は、授業時数不足や免許外教科担任の多さ等の問題も抱えており、この点では、高等学校と同様に早急な改善が必要である。
本学会は、1958年に設立され、技術教育に関する研究を行っている。
高等学校「情報」についても、大学入学共通テストでの実施やその指導体制の充実について複数の意見や要望を表明してきた。その中で、情報技術も含めて10年先を見据えた「次世代の学びを創造する新しい技術教育の枠組み」を提案している。これを元に様々な実践や研究を展開しているところである。
現在の技術科は「材料と加工の技術」「生物育成の技術」「エネルギー変換の技術」「情報の技術」という4内容で構成されている。
一方、社会の中では、モータやバッテリーなどのエネルギー変換技術と高度な制御技術とが連携したEV等、各技術が情報技術と密接に関連し、システムとして展開されている。今後の技術の学びは、こうした従来技術と情報技術とを融合した形での展開も必要であろう。それがさらに各教科とも連携していくとSTEAM教育として展開可能になる。文理融合の教科横断の学びとデザイン思考×テクノロジーで新しい価値の創造に向かう学びが、これから目指すべき学校教育ではないだろうか(図1)。
こうした新しい価値創造に向かう学びは、一言で言えば「問題解決」である。プログラミング教育ではプログラミング言語は何がよいかといった議論もあるが、言語やツールもさることながら、大事なのは問題解決である。
予測不能な社会においては、自分自身が問いを立て、多様な視点を踏まえて問題解決に取り組んでいける力が重要である。
こうした観点から小学校段階では、「プログラミング体験と小さい問題解決」、中学校段階では「情報技術による生活や社会の問題解決」に取り組みたい。そうした学びがあれば、高等学校段階で、「情報科学に基づいたより高度な問題解決」に取り組めるようになるであろう(図2)。先生方には、教材やツール以上に、児童・生徒にどんな問題解決をさせるのかを大事にして授業づくりをしていただきたいと願う。
本学会でも先生方の一助になればと、中学校や高等学校の実践事例集、中学校の動画研修教材等を公開している。
前述のように問題解決による情報の学びの高度化には、小・中・高、さらには大学まで含めた小・中・高・大という学校段階の縦の連携とともに、関連諸組織の横の連携も必要である。本学会も、例えば情報処理学会の関連研究会と連携したり、全日本中学校技術・家庭科教育研究会、さらには関連企業や団体とも連携したりして、教育研究を展開している。
高等学校「情報」の学びを円滑にするためにも、関連する議論が高等学校の中や入試という枠組みだけにとどまることなく、縦と横の連携を進めていくようにさらに取り組んでいきたいと考えている。
先生方にも異なる校種の方々と話をしてみることを勧めたい。
(参考:日本産業技術教育学会)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載