ChatGPTを始めとする生成AIが社会に与えるインパクトは大きい。AI技術そのものはAIドリルや英単語学習、自動翻訳等で利用されているにも関わらず、急激にその危険性や活用法について関心が高まっている。7月6日、Google for EducationのAI活用の考え方について同社マーケティング統括部長日本アジア太平洋地域・スチュアート・ミラー氏が報告した。同社のAI活用における基本方針は、各自治体のAI活用に関する規定の策定においても参考になる。
Googleでは既に幅広い製品でAIを活用している。現状、教育者を支援するためのAI活用に次の4分野がある。
2012年より提供しているChromeVoxでは内蔵スクリーンリーダーで画面上の文字の音声読み上げを実装。30以上の言語に対応している。
2016年よりAI機能により、マルウェア検出・防御を実施。マルウェアの99・9%以上を防御している。
2017年よりGoogleドキュメントに文法提案機能を実装。よくあるミスを防ぐ。
今年度提供予定の「演習セット」では、AI機能により個別最適な学びを提供(後述)。
Googleでは2018年にAI活用における基本方針を公表している。基本方針は次の7項目で、これらを教育分野にも適用する。
AIの進歩は幅広い分野に大きな変化をもたらす。AI技術の開発・利用については、期待できる利点が、予測可能なリスクやマイナスをはるかに上回ると判断した場合に開発・利用を進める。また、どのような場合に提供するかについて慎重に検討する。
人種、民族、性別、国籍、所得、性的指向、能力、政治的または宗教的信念などの繊細なトピックについてAIが不当な影響を与えることがないように努める。
自社のAIシステムに適切かつ慎重にベストプラクティスに沿って開発を行うことを目指す。コントロールされた環境下でテストし、運用開始後もモニタリングを行う。
フィードバックや説明等を求められた際に情報を提供できるようにAIシステムを設計する。GoogleのAI技術は人間による適切な指示及びコントロール下で運用する。
AI技術の開発・利用にGoogleのプライバシー原則を適用する。プライバシー保護が組み込まれた構造を推奨し、データ利用に適切な透明性と管理を提供する。
AI開発・利用において高水準の科学的卓越性を目指すとともに科学的かつ学際的なアプローチを用い、多様なステークホルダーと協力して思慮深いリーダーシップを促すことに努める。また、より多くの人々が有用なAIの利用方法を開発できるようにAIの知識や知見を共有する。
有害もしくは悪質な利用の可能性を制限できるように努める。
Googleではこれら基本理念を教育分野に次のように応用する。
▼教育現場での活用(責任・安全・安心)に適しているか ▼教員や児童の双方に利用するメリットがあるか。どのように始めれば良いか明確になっているか ▼あらゆるレベルや背景を持つ人に役立っているか ▼教員が必要に応じて学習者を支援できるか ▼教員や学習者がスムーズに学べるようになっているか ▼教員が学習者を適切に支援できるか ▼教員に十分なツールと管理権限を提供しているか ▼教員が所属する組織の要件を守っているか ▼教員の仕事を継続するために必要な情報を提供しているか
AIを活用した未来のため、大胆かつ責任ある思慮深いアプローチにより革新的・最先端の製品を提供していきたいと考えている。AIは多種多様な可能性をもつものであり注目度が高まっている。教室でも自宅でも、家庭教師のような存在で学習を支援したり、各教員のアシスタントとして授業計画をサポートし、1人ひとりに合わせた指導を可能としたり、各自の学習ニーズに合わせた評価やルーブリックの自動生成などの可能性がある。
「演習セット」は既存の教材や授業内容から問題を作成し、学習者が自分のペースで学習できるように支援するツール。教員が演習セットに問題を追加すると、AIが各問題に対応する学習スキルを提案。学習者が課題に取り組む際、AI機能によりヒントや励ましのメッセージを自動で生成。身に付けるべきスキルに基づいた動画を必要に応じて提示するなど正解にたどりつくことを支援する。答え合わせも自動でできる。
2020年に発表し昨年Web版を公開した「ReadAlong」もAIの技術が活用されている。これは英語を楽しみながら学ぶことができるもの。既に9言語・180か国でサービスを開始している。
2022年3月から日本で提供を開始した「CS First」は、小学校におけるプログラミング学習に役立つカリキュラムだ。2014年に北米で開始したものでScratchコードエディタの特別バージョンである、Scratch for CS Firstを使ってScratchの基礎を学びプログラミング的思考を身に付けることができるカリキュラムと、探究的な学びに沿ったカリキュラムを提供。コーディングを楽しく学ぶことができる。指導する教員向けオンライントレーニングも公開している。
デジタルスキルトレーニングを提供する「Grow with Google」も提供。日本ではこれまでに約1000万人が受講している。
同社ではSociety5・0の社会において求められるスキル開発と日本の経済発展に貢献したいと考えている。
①生成AI自体の性質やメリット・デメリットに関する学習を十分に行っていないなど、情報モラルを含む情報活用能力が十分育成されていない段階において、自由に使わせること
②各種コンクールの作品やレポート・小論文などについて、生成AIによる生成物をそのまま自己の成果物として応募・提出すること(コンクールへの応募を推奨する場合は応募要項等を踏まえた十分な指導が必要)
③詩や俳句の創作、音楽・美術等の表現・鑑賞など子供の感性や独創性を発揮させたい場面、初発の感想を求める場面などで最初から安易に使わせること
④テーマに基づき調べる場面などで、教科書等の質の担保された教材を用いる前に安易に使わせること
⑤教師が正確な知識に基づきコメント・評価すべき場面で、教師の代わりに安易に生成AIから生徒に対し回答させること
⑥定期考査や小テストなどで子供達に使わせること(学習の進捗や成果を把握・評価するという目的に合致しない。CBTで行う場合も、フィルタリング等により、生成AIが使用しうる状態とならないよう十分注意すべき)
⑦児童生徒の学習評価を、教師がAIからの出力のみをもって行うこと
⑧教師が専門性を発揮し、人間的な触れ合いの中で行うべき教育指導を実施せずに、安易に生成AIに相談させること
①情報モラル教育の一環として、教師が生成AIが生成する誤りを含む回答を教材として使用し、その性質や限界等を生徒に気付かせること
②生成AIをめぐる社会的論議について生徒自身が主体的に考え、議論する過程で、その素材として活用させること
③グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で、生徒同士で一定の議論やまとめをした上で、足りない視点を見つけ議論を深める目的で活用させること
④英会話の相手として活用したり、より自然な英語表現への改善や一人一人の興味関心に応じた単語リストや例文リストの作成に活用させること、外国人児童生徒等の日本語学習のために活用させること
⑤生成AIの活用方法を学ぶ目的で、自ら作った文章を生成AIに修正させたものを「たたき台」として、自分なりに何度も推敲して、より良い文章として修正した過程・結果をワープロソフトの校閲機能を使って提出させること
⑥発展的な学習として、生成AIを用いた高度なプログラミングを行わせること
⑦生成AIを活用した問題発見・課題解決能力を積極的に評価する観点からパフォーマンステストを行うこと
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載