国は校務DXと教員の働き方改革を一体的に進める方針だ。これを達成するためには「業務量」の見直し、「効率的なデジタル活用」への積極性が求められる。ITツールで今最も注目を集めている生成AIについて文部科学省は7月4日、「初等中等教育段階における生成AI利用に関する暫定的なガイドラインVer1・0」及び通知を文科省Webに公表。一律禁止ではなく十分な配慮を前提とした活用を基本方針としている。また、小学生向けプログラミング教育事業のCA Tech Kidsが保護者対象に行った調査によると保護者の7割が、ChatGPTなどの生成AIを子供に「経験させたい、使わせたい」と考えている。クラウド環境やクラウドツールの良さを管理職から体験することで児童生徒活用が進んだ春日井市立出川小学校と同高森台中学校では、生成AI(ChatGPT)についても管理職から活用し始めており、教頭の業務の1つである「保護者への案内状の作成」「研修企画」について効率化を図っているという。仲渡隆真教頭と小川晋教頭に活用の様子を聞いた。なお2校は2022年度から文部科学省の研究開発学校として情報活用能力を育成する「情報の時間」を設定している。
生成AIで「文章ドラフトの生成ができる」と聞いて個人的な興味から使い始めました。お知らせ文書のドラフト作成や表のまとめなどいくつかを試し、現在最も便利に活用しているのが「記述式アンケートのまとめ」です。
教頭として校内研究を担当しています。そこで研究授業後に行う教員に対するアンケートの記述式回答内容をすべて入力し、「要約」「キーワード抽出」を生成AIに依頼しています。通常、記述式アンケートのまとめや分析には数日間を要しますが、生成AIにより、アンケートに目を通してまとめる時間を短縮することができました。これにより、研究会の翌日にはふり返りが可能になり、研修効果の向上につながっています。また、記述式アンケートのまとめが簡単になったことで、アンケートを行う回数も増えています。
年間40通ほど作成する必要がある保護者向けの案内状など文章生成についても使用しています。こちらについてはコツが必要です。「季節のあいさつを入れる」「やわらかい表現でまとめる」等具体的な指示をすることがポイントで、私は「3種類作成して」と指示し、その3種類から良いと思った部分をピックアップして編集しています。案内状作成についてはこれまで約40分程度かかっていましたが、15分程度に作業が短縮しています。
今後もAIとうまく共存して校務の効率化を進めていくことができればと考えています。
研修企画や授業計画作りで生成AIを活用しています。
ポイントは「立場を明確にすること」「対話を繰り返すこと」「具体的に聞くこと」です。
具体的な内容を示してもらうためには、対話を繰り返す必要があります。
「生徒理解」をテーマにした研修のプログラム作成では、「私は中学校の教頭です」「不登校や発達障害について学び、学校に来ることができない生徒に必要なサポートを50分間で学ぶ最高の研修を考えて」と依頼。すると「イントロ5分/目的を話す時間5分/基礎知識を学ぶ時間10分/対話10分/グループ討議15分/まとめ5分」等と構成が提案され、それぞれの時間で何をするのかについても提案されます。
次に、さらに具体的にしたい要素について対話します。例えば「発達障害について10分間で理解するためにどのようなことをすれば良いのか」「どのようなテーマで対話すれば良いのか」等です。
素晴らしいと思ったのが、研修にふさわしい内容の動画教材の紹介です。研修に役立つ動画の紹介を依頼したところ、適切な動画教材の提案がありました。生成AIを利用することで、15分程度で研修内容を企画することができました。
授業設計にも活用しています。
本校は昨年度から、「研究開発学校」として「情報活用能力の育成」のために「情報の時間」を設定し、カリキュラムを作成しています。先行事例は極めて少ないため、生成AIの対話機能を教員同士の話し合いと似た感覚で利用しています。
例えば「私は学級担任です。抽象化の概念を活動的に教えるための40分間の授業内容を考えて」と依頼し、対話しながら検討しています。
このほか「〇〇について〇文字以内でまとめて」「表にして」等、研修やカリキュラム作成に必要な資料作りにも利用しています。
校区にイノシシが出没し、生徒の登校前に保護者にお知らせメールを送る際にも生成AIを利用しました。この時は、「イノシシの出没時間を知らせる、不安をやわらげる」等の条件を示して作成後に「もっと短く」と伝えて手直しし、数分後には保護者に迅速に通知することができました。
生成AIの利用のポイントは「アイデアを借りる」ことで「イメージをふくらませる」ことにあるのではないかと感じています。それを自分の経験とミックスさせてブラッシュアップすることができます。
生成AI自体の精度も、活用し始めた頃より格段に上がっています。様々なプロンプト例も日々増えており、それらを参照しながら今後もよりよい活用を模索していきたいと考えています。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載