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教育ICT

教育データ利活用等で包括的事業連携~上越教育大学・内田洋行

2023年8月10日

上越教育大学(林泰成学長)は、教育データの利活用を始めとした総合的な取組について内田洋行(大久保昇代表取締役社長)と包括的事業連携協定を締結。7月10日、同学で調印式が行われた。本協定により、教育データやAI活用を含む教育・学習システムの開発や評価に関すること等について協力して取り組み、デジタル社会に対応した教員養成の高度化を目指す。同学が企業と連携するのは初。内田洋行は大学との連携協定は4大学目。期間は2026年3月末までで延長の可能性がある

右から林泰成学長・上越教育大学、大久保昇代表取締役社長・内田洋行

右から林泰成学長・上越教育大学、大久保昇代表取締役社長・内田洋行

調印式後、林泰成学長(上越教育大学)、清水雅之教授(上越教育大学大学院)、山西潤一監事(上越教育大学)、大久保昇代表取締役社長(内田洋行)、伊藤博康執行役員(内田洋行教育総合研究所所長)が包括事業連携協定に期待することについて討議した。上越教育大学の長年の蓄積と新たな取組、内田洋行の教育ICTに関する実績を土台にした総合的な共同研究になりそうだ。

学校実習は年間150時間 総合的なデータ連携へ

教員になる率が高い上越教育大学

上越教育大学林泰成学長

上越教育大学
林泰成学長

■林学長 上越教育大学は、現職教員の研修の場を保障するために46年前に設置された新構想の大学です。2008年より全国の各都道府県に教職大学院が設置され、本学の位置付けが変わったものの、現在は学部・教職大学院・連合大学院博士課程を有する教員養成系の総合拠点大学として、GIGAスクール構想に対応した教員養成や学校・学級経営を担うミドルリーダーの育成に携わっています。

2022年度から募集を開始した教職大学院の入学定員は190人と全国2位の規模です。

設置前には「上越地区にそれだけの人数が集まるのか」と懸念されましたが、お蔭様で改組以後、定員を満たしています。

上越教育大学山西潤一監事

上越教育大学
山西潤一監事

■山西監事 上越教育大学大学院の学生は、県内約50人に対して他県が約150人です。地元の教職大学院に行くことが主流の今、他県比率の高さはすごいことです。過去の蓄積があるからこその数字ではないでしょうか。

また、上越教育大学の卒業生が教員になる割合は、教員養成系大学の中で12位と継続してトップレベルです。

4地区(上越市・妙高市・糸魚川市・柏崎市)と連携した学校実習コンソーシアムによる地域ぐるみの実習体制や、「学校教員養成・研修高度化センター」(2023年改組)による大学の理論値と現場の実践知から、これからの時代を担う教員に求められている力が学生に伝わっているからこその実績ではないでしょうか。

一般に教員志望の学生の減少や教員就職率の低さが指摘されている今、本学の教育内容や実践はもっと周知していくべきではないかと考えています。

■林学長 様々な地域の教員が集まることで全国的に情報交換を行って地元に還元して頂くことができると考えています。

教職大学院には「教職員免許取得プログラム」があり、工学部や美術学部など教職員免許状を取得していない学生が、教職大学院2年間分の学費で3年間学び、教員免許を取得することができます(事前申請が必要)。本仕組みは学校現場に求められる高度な専門的職業能力の提供や教員の多様な人材確保に寄与できる可能性があります。

上越教育大学大学院清水雅之教授

上越教育大学大学院
清水雅之教授

■清水教授 学校実習プロジェクトを2008年度から年間150時間行っていることも特徴です。

これは、各学校の課題を挙げてもらい、それを学生が支援するもので、学生は積極的に学校に関わります。実践的な教育技術を身に付けることが目的です。

学校教員養成・研修高度化センターでは、毎週水曜日に現職教員を対象として、多岐にわたるテーマのセミナーを対面やハイブリッド形式で開催しています。

■林学長 これらの環境をフィールドとして、時代を先取りできる教員の資質能力について共同研究を進めることができればと考えています。

■大久保社長 弊社が包括連携協定を締結した大学として上越教育大学は4大学目になります(北海道教育大学・宮城教育大学・福井大学と連携)が、150時間も学校と関わる取組は初めてです。

上越教育大学では全国の教員が集まるフィールドがあること、4地区を中心に地域の学校に深くかつ長時間にわたり関わる仕組みがあるということから、これまで以上に総合的なデータ連携の実証の可能性が広がりそうですね。期待はふくらみます。

MEXCBTの学校利用も検証

内田洋行大久保昇 代表取締役社長

内田洋行
大久保昇 代表取締役社長

■大久保社長 内田洋行教育総合研究所ではこれまで、データ連携をテーマとしてさいたま市や京都大学と連携しており、さいたま市については統合型校務支援システムと連携する市独自のスクールダッシュボード構築を支援し、京都大学ではデジタル教材の活用データ分析やそれに伴う授業改革について検証を行ってきました。

また、弊社では文部科学省「MEXCBT(メクビット)」の開発に当初から参画しています。MEXCBTCBTプラットフォームTAO(タオ)をベースに開発しています。これはOECDPISA調査のプラットフォームとして次回のPISA2025で採用されるものです。

TAOはベンチャー企業であるOpen Assessment Technologies S.A.(本社ルクセンブルク、以下OAT)が開発したもので、国から出資を受けていました。この度、OATからの要請を受けて20235月、弊社で子会社化しています。

■清水教授 MEXCBTについては、教職を目指す学生には、現場に出る前にぜひ体験させておきたいと考えています。

内田洋行教育総合研究所 伊藤博康所長

内田洋行
教育総合研究所
伊藤博康所長

■伊藤所長 全国学力・学習状況調査の英語「話すこと」ではMEXCBT利用が必須であることから、各校からの登録は増えています。しかし活用になるとまだまだという印象です。本連携をきっかけに学校現場でどんどん使って頂き、事例を広げたり改善点をご指摘頂いたりできるのではないかと考えています。

■清水教授 体験を通して効果を実証し、改善アイデアを提供するなど学生や教員にとって有用な情報をアウトプットしていきたいですね。

新しいテクノロジーは使いながら議論する

■清水教授 対話型生成AIについても学校現場でどの様に活用できるかについて明らかにしていきたいと考えています。これは、その影響力やユーザへの浸透速度がこれまでとはまったく異なるものです。どのような配慮が必要かについては実際に体験することでわかることも多く、それを家庭に任せることは現時点で現実的ではありません。使い方を具体的に示し、よりよい自学自習に役立つ学習モデルへと変換していく必要があると考えています。

■大久保社長 生成AIを始めとする新しいテクノロジー活用については、教育現場を知っている人たちが実際に使いながら議論していくことが極めて重要です。子供も、問題に出会いながら学び、そこからルールを見つけていくことで自己決定力や判断力が育まれるはずです。

対話型生成AIも黎明期のスマートフォンと同様ではないでしょうか。スマートフォンの所持率が小中高等学校で一気に増えた際、学校では「持ち込み禁止」という対応が中心でした。しかし様々な問題が起こり、禁止では解決できませんでした。この教訓を活かさなければなりません。

■林学長 今後の研究としては、OECDによる子供のウェルビーイングやラーニングコンパス2030が求める自律的な学びに関する実証研究なども考えられます。

ICTは一度整備すれば良いというものではなく、学校現場の課題も日々変化しており、それぞれ異なるアプローチが求められます。端末が1人ひとりの手に渡った今、ICTを中心に据えながら教員養成の新たな形を検討して全国に発信したいと考えており、実り多い実証になることを確信しています。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年8月7日号掲載

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