愛知県一宮市教育委員会(小学校42校・中学校19校)では教員の働き方改革推進のため2021年9月、エプソンのスマートチャージ「アカデミックプラン」により高速インクジェット複合機を市内全小中学校に各2台、計122台を導入。同時に全中学校にDNP学びのプラットフォーム「リアテンダント®」(大日本印刷)を導入した。導入の経緯と効果を一宮市教育委員会教育部総務課の平山宗郷課長補佐と遠藤有紀主査、一宮市立葉栗中学校の池山清二校長と堀将礼教務主任、村端昭紀進路指導主事に聞いた(肩書は取材時2023年2月)。
本システム導入前は、各校にモノクロレーザープリンター1台、モノクロコピー複合機1台、カラーインクジェットプリンター1台を職員室に、印刷室にモノクロ孔版印刷機2台を設置していました。主に大量印刷の際に使用する孔版印刷機はマスターを制作する必要があり、インクやマスター、用紙などの消耗品は各校の配当予算で購入するため、発注管理を各校で行う必要があるなど、教員の負担になっていました。そこで既設の印刷環境の更新に向けて各社サービスを比較検討していたところ、消耗品管理が不要でモノクロ・カラー印刷が同額である「アカデミックプラン」の提案がありました。これは一定額で高速インクジェット複合機+インクを使用できるプランです。
学校現場でのカラー印刷ニーズに応えられることに併せて、各自の教員用PCから直接印刷を指示でき、インクはなくなる前に自動的に届くので発注処理もなくなり事務職員の業務負担も減るなど、働き方改革の推進に役立つと考えました。
そこで以前の印刷機器の毎月のリース料、インク・マスター・トナー・カートリッジなどの消耗品費、故障時の修繕費などの合計額とアカデミックプラン導入時の定額使用料を比較したところ、同規模程度の予算で導入できることがわかり、財政部局との調整も比較的スムーズに進み導入に至りました。
定額制であることは教育委員会にとってもメリットです。予算策定時に61校分の消耗品予算を予め確定でき、事務処理が年1回で済みます。発注先窓口も1つになるため管理業務を大幅に削減することができます。
アカデミックプランでは高速印刷が可能になることから、印刷機器の台数を3台から2台に集約できるのではないかと考えました。印刷機器の台数が減ることについて当初、学校現場からは「2台で間に合うのか。印刷渋滞が起きるのでは」「定額制だと毎月の印刷枚数を制限されるのでは」等、不安の声も届きました。そこでデモ機を学校で試用して初動や印刷スピードを体験したところ、予想以上に印刷が高速で、印刷作業がシンプルになり、教員の不安は払しょくされたようです。契約枚数までカラーもモノクロも同額で使えるため、導入前には学校全体で3%程度だったカラー印刷比率も、導入後は約60%まで上がっています。
また、かねてより導入を検討していたデジタル採点システムですが、運用のためには高速スキャナーが必要で、別途導入するための予算確保が難しいことが課題となっていました。アカデミックプランでは両面高速スキャン機能も備えた高速インクジェット複合機を使用できるため、課題が一挙に解決しました。
現在は、市で実施しているマークシート主体の市内統一5教科テスト(iテスト)も、デジタル採点システムで自動採点を行っています。
一宮市立葉栗中学校では職員室内にメイン機としてLX-10050MFを1台、サブ機としてPX-m7080FXを設置している。印刷環境の変化で教員業務はどう変わったのか。
モノクロ印刷もカラー印刷も同額・安価であることを教職員に周知徹底したことで、本校ではカラーによる印刷が急激に増え、現在は80~90%の教員が高速インクジェット複合機によるカラー印刷をしています。
教材やテストのカラー化が進み、授業での生徒の学習への関心や意欲も間違いなく上がっていると感じます。校内では新聞活用の研究なども行っており、記事を取り上げて感想を発表する際の配布物もカラーで印刷できるようになりました。学年通信や保健だより等のお知らせもカラー写真を掲載でき、生徒や保護者からも好評です。
高速インクジェット複合機では、今まで印刷機の電源を入れて待っていた時間で印刷を完了できます。アカデミックプランにより市内全校で機器が統一されたことで、異動先の学校も同じ環境になり、教員の働き方改革に役立っています。
モノクロ印刷の場合、写真やグラフ等はわかりやすいように細かい調整をする必要がありましたが、今では図や写真などをスキャン機能で取り込んでカラー印刷できます。配付物やテストがカラーになり、資料や強調したいところも提示しやすくなりました。生徒のポートフォリオ(学習履歴)もカラーで印刷して渡しています。印刷のために印刷室に移動する必要がなくなり、職員室のPCからすぐに印刷できる点もメリットです。
アカデミックプランは、デジタル採点システムのメリットを最大限に生かすことができると感じています。
デジタル採点では、テスト後、正解を書き込んだ答案用紙と生徒の答案用紙をスキャナーで読み込み、教員のPCにデータを転送します。その後、デジタル採点システムで自動採点し、それぞれの生徒の答案用紙に赤字コメントなどを記入。それを印刷して生徒に返却しています。
高速インクジェット複合機は、スキャンも高速です。そのため答案用紙を取り込んですぐに採点ができます。また、採点後の答案用紙の印刷も高速なので、生徒への返却まで迅速に進みます。以前のインクジェットプリンターでは印刷時間がかかっており、モノクロの孔版印刷機ではコメント等の赤字が再現できませんでした。高速インクジェット複合機とデジタル採点システムとの相性の良さを感じています。
1クラス1時間、全クラスで3~5時間かかっていた採点作業も現在は1時間弱で済むようになりました。採点ミスがなくなった点も確認作業の効率化につながっています。技術・家庭科や保健体育のテストにも活用しており、特に国語と英語での導入効果は圧倒的なようです。本システムはマークシートにも対応できます。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年7月3日号掲載