教科書会社が本格的な音楽作成アプリを開発・無償提供する。教育芸術社は現在、学校及び教育機関を対象に音楽作成アプリ「カトカトーン」を試験公開中だ。これはブラウザ上で活用できる学校向け音楽Webアプリケーション。教育向け機能と本格的な音楽作成機能を提供する。「カトカトーン」開発の経緯と本アプリの特徴について取締役・第二編集部長の呉羽弘人氏に聞いた。
音楽とコンピュータはもともと親和性が高いものです。GIGAスクール構想で情報端末が普及し学校教育が変わる中、音楽教育でももっと端末を活用してもらいたいという願いがありました。
音楽科では、今後さらに「デジタルコンテンツ」への関心や期待が高まっていくと思われます。しかし、現状の音楽ソフトは機能や操作が複雑で使いこなすのが難しい面があります。そこで、教科書会社として、学校向けに使いやすい音楽作成アプリを提供し、かつ音楽の世界を広げる機能を搭載することで、音楽教育にデジタルが浸透するきっかけにしたいと考えました。
開発を模索する中、同じ思いをもつ2社と意見交換することができ、ICT端末から誰でもアクセスして楽しめる、無料のWebアプリケーションの開発がスタートしました。
小学生でも活用しやすく迷わない設計を目指すと共に音楽の楽しさを十分に体験してほしいという願いから、試験版の公開までは1年以上かかりました。
直感的に操作できる画面構成は映像制作分野に強みを持つディレクションズ、システム設計や音色開発には電子楽器を得意とし音楽作成ソフトの開発実績もあるコルグと連携。各分野のエキスパートのノウハウで初心者でも分かりやすく、かつ本格的な音楽体験ができる「カトカトーン」が生まれました。アプリ名は音符の俗称「おたまじゃくし」の古語「蝌蚪(かと)」から生まれたものです。
アプリのロゴや楽器アイコンはアートディレクターの金田遼平氏によるオリジナルで、ビジュアル面にも力を入れています。
学校で140種類の楽器を用意することはほぼ不可能ですが、デジタルならば実現できます。本アプリの楽器音源は、学校で使う鍵盤ハーモニカやリコーダー、和楽器のほか、コルグが得意とするシンセサイザー21種類、ピアノや弦楽器、トランペット、トロンボーン、クラリネット、民族楽器のバグパイプ、スチールドラムなどで、ドラムの音も複数あり、それぞれの音を聴き比べるだけでも音楽の楽しさを味わう一歩につながります。
楽譜が読めなくても作曲できることもデジタルの特徴です。本アプリでは、マス目上の「オトグラフ」に音を入力します。縦軸が音の高さ、横軸が音の長さで、ビジュアルプログラミング画面と似ています。
曲のフレーズが確定したら、楽器を変えて違いを比べることも容易にできます。
最大8トラックまで入力でき、様々な楽器や異なるフレーズを組み合わせてハーモニーを楽しむことができます。
弊社発行の音楽教科書に掲載されている楽曲(一部)のプロジェクトファイルを配布しておりますので、楽曲の構造を視覚的に理解でき、音楽をより深く知るきっかけとして役立てて頂けるのではないでしょうか。
ネットワークの必要帯域も可能な限り抑えました。初回起動時はデータの読み込みが行われるため多少時間がかかりますが、2回目以降は起動時間が短縮されます。初回のみ時間をずらして起動することをお勧めしています。
マルチOS対応で、ユーザIDやパスワードは設けていません。初期設定や年度更新などのアカウント管理不要ですぐに使い始めることができ、教室でも自宅でもアプリを活用できます。
端末を使って児童・生徒1人ひとりが個別に試行錯誤し、互いに鑑賞し合うこともできます。
作成した楽曲は書き出して保存したり、授業支援ツールなどに貼り付けたりすることが可能です。プロジェクトファイル・オーディオファイル・MIDIファイルのほか、簡易的な楽譜として書き出すことも可能ですので、楽譜を学ぶきっかけとしても活用頂けるのではないでしょうか。
学校行事の音楽創作や授業で作成したプレゼテーションやプログラミングの授業で作成した作品のBGMを作成するなど、端末を使って音楽の可能性を楽しく広げて頂ければと考えています。
今後は事例紹介やワークショップ、先の話ですがカトカトーンを使った作品のコンクールなどの展開も構想中です。
学校及び教育機関を対象にカトカトーン試験公開版の利用申し込みを受け付け中。期間は2024年3月31日まで。検証を踏まえて24年4月に正式公開予定。▼詳細=https://www.kyogei.co.jp/katokatone/
教育芸術社は2024年度版小学校音楽で学習者用デジタル教科書と指導者用デジタル教科書を提供。ビューアは「まなビューア」を採用しており、学習者用デジタル教科書は特別支援機能を充実。リフローや読み上げ、総ルビ機能に対応している。楽曲の音源や楽器の紹介動画が掲載されたWebコンテンツにも二次元コードから1クリックでアクセスできる。指導者用デジタル教科書には新機能として、紙面の楽譜上にドレミ表記が表示できる機能を搭載する。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年6月5日号掲載