沖縄大学人文学部の渡邉ゆきこ教授は、語学の授業でメタバースを活用し、学生の学習意欲を高めるなど効果を上げている。
メタバースを使っている授業は、1年生対象の全学共通科目「オーラル中国語」。Mozilla社が提供するソーシャルVRアプリ「Mozilla Hubs」を活用している。
本アプリは、PC、スマートフォン、VRヘッドセット等様々なデバイスからWebブラウザを介しURLだけでバーチャル空間に入ることができるもの。参加者はアバター(3Dキャラクター)を操作して参加者同士で会話することができる。
アバターを使った非言語コミュニケーションも可能だ。こうした技術またはサービスを「メタバース」と呼んでいる。
ビデオ会議の場合はWebカメラを利用し、遠隔地の相手とコミュニケーションを取る。それに対してソーシャルVRは、バーチャル空間に、ほかの参加者と一緒にいることができ、コミュニケーションを取ることができる。実際に会って話しているような感覚があり、会話が弾みやすくなるという。
複数あるソーシャルVRアプリのなかから本アプリを選んだのは次の理由からだ。
▼PCで利用できるため、機材を新たに購入する必要がない ▼ソフトのインストールやユーザー登録が不要で導入しやすい ▼「シーン」と呼ばれるVR空間の種類が多く、シーンの加工も直感的にできる ▼複数のVR空間が簡単に作れる ▼少人数での会話練習に向いている
渡邉教授は、学習内容ごとに「シーン」を学生が興味を持てるよう楽しいものに変更し、同時に文法項目などに配慮したタスクを準備している。
タスクは、与えられた目標を言葉などのコミュニケーション手段を使って達成させるもので、実際のコミュニケーションの状況により近くなる。
「学生の出席率が高くなり、朝9時からの授業にもかかわらず、早々と教室に顔を出す学生が少なくなかったことから、VR活用により学生の学習意欲が高まっていると感じる」と話す。
最初は教科書を見ている学生も、タスクを進めるうちにヘッドセットを通して聞こえてくる相手の音声やモニター上のVR空間に集中するようになる。
授業を受けた学生にアンケートを取ると「楽しい」「語学の授業にもっとVRを取り入れてほしい」など、肯定的な意見が圧倒的だ。
「ある学生は『これが大学の授業なんだ』と言っていました。これまでの語学の授業とは大きく異なることを、直感的に感じてくれたのではないかと思います」
台湾の大学と隔週で毎回1~2時間、VR空間を活用した交流学習を行ったこともある。
「コロナ禍で海外渡航ができないなか、ネイティブと交流する非常に貴重な機会となりました。VR空間はZoomのようなWeb会議ツールとは異なり、空間内で動き回ったり、ものを指し示したりできます。学生は言葉が不十分であってもコミュニケーションを行うことができました」
今年の夏は台湾を訪れ、VR上で交流した学生とリアルで交流する予定だ。VR空間ですでに知り合っているため、初対面とは異なり、より深い交流ができるのではと期待している。
「今春、台湾で本取組について講演を行ったところ、大変好評でした。今後は、海外でもMozilla Hubの普及活用やワークショップを行いたい」と話す。海外の大学との共同研究も視野に入れている。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年5月1日号掲載