プログラミングを活用した探究学習(PBL)に取り組んでいる渋谷区立笹塚小学校(荒木憲秀校長・東京都)は3月10日、最終成果発表会を開催した。GMOインターネットグループの支援のもと、「15年後の笹塚の街の中心となる新しい学校」をテーマに昨年10月から6年生65人を対象に問題解決活動でプログラミングを取り入れた探究学習を計11回実施。最終発表会当日は同校5年生、渋谷区教育長・教育委員会事務局が参観した。本取組は、渋谷区教育委員会が区内企業と産学連携(※)で行っている区立小中学校(26校)のプログラミング教育支援「KidsVALLEY 未来の学びプロジェクト」の一環。(※)東急、サイバーエージェント、DeNA、GMOインターネットグループ、MIXI
将来、笹塚小学校を建て替えるにあたり未来の学校はどうあるべきか――渋谷区立笹塚小学校6年生の児童は教育版マインクラフト上の仮想空間にアイデアを表現し、各班5分でプレゼンテーション。導入をクイズ形式にする、最後に未来の学校への熱い思いを語るなどの工夫も見られた。
「災害に強く市民の人が使える学校」をコンセプトとした9班は、体育館全面に感圧板を敷き詰めた床発電を提案。歩く際の圧力で発電できる。災害用トイレや太陽光発電と災害時にも使用可能な設備を提案。
障害も個性の1つとして、互いを高め合いながら学校生活を送る学校を作りたいと考えた1班は、男女の青赤というイメージを払拭した緑の誰でもトイレを提案。アレルギー対応の自動販売機は教員が管理する生徒用カードで購入してトラブルを防止する。
楽しく学べて行きたくなる学校を目指した3班は、国会議事堂見学で多くの学びを得た経験から、目で見て実際に触れる学習が必要と考え社会科見学を増やすことを提案。体育館には様々なスポーツ用具を備え体験の機会を増やし、やってみようという気持ちを育む。スポーツのノウハウを書き込んで共有する「コツノート」がアピールポイント。各教科に特化した教室にはQRコードを設置し、読み取ると単元ごとのまとめ問題が表示されて予習・復習に活用できる。児童が授業を選択できる日も作る。「明日が楽しみ、早く行きたいと思える学校を作りたかった」と話した。
発表中、聞いている児童は「サウナいいね」「床発電のアイデアすごい」「巨大掲示板、便利」「手をかざすだけで水がでるのは誰にとっても便利。流しっぱなし防止にもなりそう」など活発にMicrosoft Teams上に投稿。会場には4台のスクリーンが設置され、プレゼン資料とマインクラフトの画面、質疑応答の様子がリアルタイムで提示された。
カリキュラム開発を主導し授業で講師も務めたGMOインターネットグループの成瀬允宣氏は「PBLと仕事上のプロジェクトの進め方は似ている。私たちIT企業のプロジェクト進行の考え方を6年生向けにアレンジして提供した」と話す。
「大きく2つの取組を支援した。1つはマインクラフト内のコードビルダーを用いたプログラミング活用。2つ目はタスクボードなどプロジェクト管理の手法の指導。授業の冒頭に互いの齟齬をなくし皆で考えを合わせチームとして作ろうと協力の仕方を学ぶ時間を設けた」
未来の笹塚小学校はどうあるべきかという問いに対し、子供たち自身が求める「子供のニーズ」、地域が学校に求める「地域のニーズ」、世界の一員として求められる「SDGs」の3視点で考察。各視点で地域や保護者対象のアンケートや情報収集を行って未来の学校に必要なものを抽出し、関心のあるテーマごとに4~5人ずつ14の班でコンセプトとアイデアを考えて企画書を作成。それをもとにマインクラフトを用いて仮想空間にアイデアを表現し、プレゼンを制作。教員や保護者が改善点をフィードバックする「未来会議」で企画書の推敲を重ねるなど総合的な学習の時間を通して全50時間取り組んだ。今後は開発したカリキュラムをオープンソース化して他の自治体でも活用できるように展開していく予定。
子供目線、地域目線、世界的な課題であるSDGsの観点から未来の学校づくりに迫るという大きなテーマに対し自分たちで問いを見つけて考え、提言することは新たな学びであると共に立派な社会人、地球人としての学び。探究学習の成果をプログラミングで表現するのは渋谷区で初。提言を参考にしながら未来の学校づくりに生かしていきたい。
曖昧で複雑だからこそ誰もが未来を変えるプレイヤーになるチャンスがある。未来の作り手はここにいる私たち全員。多様な人材とタッグを組み新たな価値を創るのが探究という学び。6年生は教科や領域の壁を越え0から1を生み出した。取組を通してさらに新しい課題に気づいたと思う。探究はここからが面白い。どんどん学びを深めて広げてほしい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載