2023年度の全国学力・学習状況調査において英語「話すこと」調査は中学校3年生を対象にオンラインで行われる。草津市立松原中学校(姫野健校長・滋賀県)は本年1月、1・2年生で標準学力調査(東京書籍)の「英語スピーキング調査」をオンラインで行った。中学校英語「話すこと」調査を想定して行った2年生の様子を取材した。同校は2018年に日本教育工学協会の学校情報化優良校に認定を受けており、草津市は同・学校情報化先進地域に認定されている。
2年生は、2023年度の中学校英語「話すこと」調査を想定し、本調査を元PC室である大会議室(現在固定PCは設置していない)で1クラスずつ行った。草津市教育委員会は本調査を21年度から市内全6中学校の1・2年生で導入しており、2年生の実施は今回で2回目。
オンラインで実施するための事前準備として、生徒が健康観察等でほぼ毎日使用しているMicrosoft Teamsをタスクバーから終了。調査問題のオンライン接続をスムーズにするためだ。授業者は教室前方の提示画面でその方法を説明した。次に、生徒はヘッドセットを有線で装着。マイク許可を求めるメッセージを承諾して接続状況を確認してから、受検票のQRコードを各自の端末のカメラ機能で読み込み、IDとパスワードを入力してログイン。自分の声が録音されるかどうかを確認し、音量等を調整した。
ここまで全員終了したことを確認してから一斉にスタートボタンを押してスピーキング調査を開始。うまく接続できなかった生徒2人は予め草津市教育委員会が準備していた予備機に素早く差し替え、試験を継続した。
「英語スピーキング調査」は「標準学力調査」(東京書籍)のオプションで提供しているCBT調査だ。双方の併用により「聞くこと、読むこと、書くこと、話すこと(やり取り・発表)」を総合的に評価できる。
音読の判定は、人間の判断ではぶれが生じがちだが、本調査では、音声解析技術を用いて公平に判定。やり取りの問題では、指示された状況に即興で対応する生きた英語力が問われる。
各問題には時間制限があり、ヘッドホンをしていることから、生徒は周囲の声に気を散らすことなく集中して取り組んでいた。教育委員会はテストの間、ネットワーク速度を計測して確認していた。
英語科を担当する山本寛之教諭は「英語スピーキング調査」について「日頃の学びの成果を確認する場」と話す。山本教諭は各学年の3学期に英語ディベートを行ったり、帯学習でやり取りに重点をおいた「話すこと」の活動に取り組んだり、英語でビブリオバトル(書評ゲーム)を行うなど、意識して英語による言語活動の充実に取り組んでいる。2022年度の2学期にTeamsの音読練習ツール(Reading Progress)機能が導入された際も、生徒1人ひとりにヘッドセットを用意してすぐに活用を開始した。「様々な新しいツールに生徒は予想以上に積極的に取り組んでおり、生徒が英語に触れる機会が圧倒的に増えた。教員は、挑戦を重ねるほど生徒の成長を実感し、授業の考え方が変わっている」という。生徒が各自で音読練習ツールや学習者用デジタル教科書を併用して学習に取り組むことができるようになったことで、端末を持ち帰り、家庭学習での活用も可能となり、これまでの「うまく教える」授業づくりから「学びたいだけ学べる」環境づくりや個別最適な学びによる活動が中心となった。
「英語スピーキング調査は、目的・場面・状況を設定したうえで即興的な解答を求める問題が多い。これはTOEICにも出題される形式だ。今後も、目的・場面・状況を意識した授業構築に、より一層取り組んでいきたい」と話した。
辻大吾教頭は「初回の英語スピーキング調査の際はネットワークや端末の不具合など様々なトラブルがあったが、教育委員会の尽力により、今回はスムーズに行うことができ、本当にありがたく思っている。本調査により、生徒の立場からも教員の立場からも、日頃の成果と課題を見つけることができる。年1回の英語スピーキング調査を、生徒にとって自分の力を試す場として大切にしたいと考えており、欠席した生徒にも日を改めて試験を行っている」と話す。同校の英語教員は定期的に全学年で研修や情報交換を行っており、新たなツールの導入後も、すぐに全学年で取り入れられるように工夫している。「教育委員会が様々なアイデアを提供し、ネットワークや教材の整備やサポートに積極的に対応していただけるので学校現場も同一歩調で頑張ることができる」と話した。
スピーキング調査導入の理由と、スムーズに行うためのポイントを学校政策推進課の杉田信一課長と宮嶋貴憲専門員に聞いた。
◇・◇・◇
本市では英語ステップアッププランを策定しており、それに基づいて市内小中学校の英語教育を推進。外国人講師との「オンライン英語」の導入や「くさつビブリオバトル英語の部」を開催するなど英語で話す力の育成にはかねてより力を入れている。
その評価・改善等PDCAのためにも、英語「話すこと」について他教科と同様に調査を行う必要があると考えていた。標準学力調査のオプションである「英語スピーキング調査」は、全員がCBTシステムで受検できること、新学習指導要領を踏まえてPDCAに役立つ点が良いと考えて導入した。
初年度の調査では、ハード面で様々なトラブルが起こったが、1つひとつ検証して解決していった。今回の実施では初年度の知見から改善を進め、研修を行うことで、テストを円滑に進めた。例えば、Teamsを終了してテストに接続すること、設定済の予備機の準備、教員が子供の実態に合わせて事前に説明する等だ。
スムーズに接続できるネットワークは大前提で、セッション数などを計算すると、約1000人が同時にTeamsでやり取りできる帯域は確保できている。
今回はQRコードでログインしたが、23年度の話すこと調査は学習eポータル経由となる。既に11月から実証・研修しており、家庭学習での活用も進めて子供の学びを広げていきたい。「話すこと」調査の円滑な実施に向けて、MDMで各端末の設定を最適化する等さらに改善を図る。
「音読」「質疑応答」「やり取り」「スピーチ」等、英語で話すことを計測できるCBT調査。標準学力調査(東京書籍)と同時に実施することで4技能を評価できる。単体でも導入できる(1人あたり税込1650円)。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載