教員の資質向上及び教員養成課程の新たな学び方の創出を目的として3月2日に連携協定を締結した奈良教育大学とソフトバンクは同月18日、オンラインセミナー「先生と子どもたちで、楽しくてもっと勉強したくなる授業を創るために」を開催。連携協定によるチャレンジの内容について報告し、当日は約300人の教育関係者が視聴した。
連携協定の目的について同学教職大学院の小﨑誠二氏は「様々な授業を見ることは教員にとって貴重な学びの機会。しかし時間的に難しい面がある。そこで授業を録画・視聴できる仕組みとして動画共有サービス『ムービーライブラリ』などソフトバンクがもつ各種のコンテンツを教育に活用するため連携協定を締結した。できることなら日本のすべての教員が自分の授業をいつでも自分で見ることができるようにしたい」と強調した。
一斉授業では、「その教室の中で最もできない層」を強く意識して授業をする教員が多い。その結果、どのレベルの子供にも合っていない授業になっている可能性があると指摘。
「どれだけ工夫したとしても、結果として誰かに可哀そうな思いをさせている状況があるというジレンマをどの教員も感じる瞬間があるのではないか。1人ひとりに合わせた授業を実現するために整備されている情報端末について、当初は『どう使うのか』という課題が中心だった。現在は『もっとうまく使ってみたい、そのために良い授業例を見たい、自分の授業を見てもらいアドバイスが欲しい』という声がある。この課題を解決できる仕組みを創出したい。現役教員や教員養成大学の学生、教育実習生など教員養成の仕組みを大きく変えるチャンスでもある」と語った。
動画共有サービス「ムービーライブラリ」アカデミック版は見た目と使い勝手はYouTubeと同様だが、組織専用のポータルサイトとして権限のある人のみ視聴でき、資料とセットで共有できる。視聴数もわかり、コメント投稿ができるので視聴者の反応もわかる。
1888年、奈良県尋常師範学校から始まった本学は、キャンパス内に吉備塚古墳(奈良時代の遣唐使・吉備真備の墓と伝えられている)を擁し、新薬師寺の境内であった敷地からは出土品もある。ESD(持続可能な開発のための教育)推進を柱に掲げ、「持続可能な社会の創り手」を確実に育成できる高い教育実践力をもつ教員の養成に向けて2007年には日本の大学として初となるユネスコ・スクールの認定を受けた。ESDは、2002年「持続可能な開発に関する世界首脳会議」で我が国が提唱した考え方である。本学に新設した「ESD・SDGsセンター」を中心に、ESDの実践・研究の国際的推進拠点として世界を牽引できるようにする。本協定により、教員養成と教員研修を融合し、新たな教育の潮流をソフトバンクと提携して奈良から発信していく。
パネル討議では、文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダー武藤久慶氏、認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長・新保元康氏、小﨑誠二氏が登壇し「先生が学ぶということの意義」をテーマに討議した。
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武藤 教育に関する書籍はたくさんあり、インターネット上も含めると学ぶ仕組みは多く、かつ学校も小規模化が進み先輩も同僚も減っている中、教員の学びの手段の多くが先輩や同僚であるという点は課題だと思う。
新保 私自身も良い先輩から学んだ。これは日本の学校が成功してきた仕組み。しかし今は大きな変わり目の時。先輩が経験していない部分にも対応する力が必要だろう。
小﨑 少子化が進む中、学習者に合わせた学びを実現できる教員研修や養成の変革を促すことが今回の実証の契機。自分が学んだことを積極的に周囲に伝えたいと思う風土を創りたい。
武藤 調査(※)によると日本の18歳は民主主義にとって重要な「当事者意識」が他国と比較して不足している。課題を見つけて議論させて考える学習を増やす必要がある。
そこで初等中等教育において、教室の中にある多様性に対応すると共に、議論や討論を中心とした学びを早期から体験していくことを目指している(※日本財団「18歳意識調査」第20回)。
新保 当初は1人ひとりが自ら課題を見つけて探究していく学びをあらゆる学校で実現することは難しいと思っていた。ところが、これができる学校が増えている。それがGIGAスクール構想のすごいところ。これまで、児童生徒に提供されていた教材は教科書と資料集程度であった。現在は様々な場所から情報を収集できる環境にある。これを上手く活用して1人ひとりの学びを実現している春日井市の学校では、とくに低学年の基礎基本に手厚く取り組んでおり、発達に従って児童生徒に委ねる部分を増やしている。高森台中学校の水谷校長は「子供が学びすぎるのでストップをかけることも必要になっている」と言っていた。
小﨑 子供たちが自分のできていないところを自分で何とかしようとする様子を教員が把握するためにも、お互いの授業を頻繁に見ることができる環境がほしい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2023年4月3日号掲載